余韻にすさぶ穢風
健司に生霊を祓ってもらい、二人とも俺を受け入れてくれた。俺はそれがただただ嬉しかった。
そんな俺は、健司や京介と別れて1人帰路についていた。2人がいなくて寂しい。けれど、こういう気持ちが生霊を飛ばすと知った今は強く思わないようにしていた。
前の方から誰かが来る。
「あんたか」
「ねぇ、亜貴くん。なんで生霊を祓いたがるの?あれは君なのに……」
「俺はそんなの頼んだ覚えはないぞ」
「嘘つくのはよくないよ。まぁ、あれは私が亜貴くんが怖がっているのを愉しむためにやったんだったね。でも、生霊に怖がっていた亜貴くん、友達にかまってもらえて嬉しそうだったじゃん」
「それは……」
俺はもう気持ちを胸に隠さないと決めたんだ。
「そうだ。それが俺という人間だ」
「開きなおっちゃったか、これはもう愉しめないかな。それじゃあもう、私と会わないんだね。そっか……じゃあね、もう一生会わない亜貴くん。さようなら」
そいつは小さな小瓶を揺らしながら去っていく。
気づけば、俺はそいつの背中を追っていた。あぁ…この時にはすでにあの術中にハマっていたんだな。
「俺はまだ満たされたい。だから、それを俺にくれ」
そいつの持つ黒々としたドリンクの入った小瓶に魅入っていた。
理性は駄目と言っている。なのに身体は本能のままに動いてしまう。理性が本能に貪られていく。
人の奥深くにあるものを呼び起こしてしまうのだろう。
「ふ〜ん、亜貴くんはもっと満たしてほしいのかな」
「もっとその穢れを俺に……俺にください」
俺の理性はもう本能に屈してしまったようだ。完全にそいつの口車に乗せられている。
「そうだね〜なら、直接注いであげる。さぁ、出てきておいで」
懐から何かが出てくる。
「へ、蛇!?」
黒曜石のような鱗に覆われて、瞳も漆黒の蛇だ。
シャーと金切り声を鳴らして俺に飛びついてくる。
蛇が現れた瞬間、理性が戻った。
逃げようとしたが、蛇に勝てるはずもない。
首にかみつかれてしまう。
そのドリンクと同じものが蛇の牙から流れ込んできて……
「あ〜っあ〜あ」
それは適量をはるかに超えて、俺の心を満たしていった。
穢れは俺の欲を塗りつぶしていく。《《生きたい》》という欲さえも薄れそうだ……
◆◆◆
「その欲望のままに満たしてあげたのに…満たされすぎるとすぐ壊れてしまう」
亜貴くんは穢れに耐え切れず、その辺を放浪してぱたりと倒れた。
でも、倒れる直前の君の顔はとても美味でしたよ。
ごちそうさま。
「119番に連絡しないと…」
バッグからスマホを取り出して電話する。
「もしもし。今、目の前で人が倒れてしまって、救急車をお願いします……、はい失礼します」
亜貴くんの状況などを説明して電話を切った。
「救急車、15分くらいで来るって、良かったね亜貴くん。君が入院しても私がお見舞いに行ってあげるから安心してね」
そういえば一瞬、亜貴くんから彗ちゃんの匂いがしたな~
彗…
その人は古い親友。
「またいつか会おうね…彗ちゃん」




