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彗星のように  作者:
19/26

生霊探索④

「昨日はお楽しみだったか」


 後ろから声をかけられて振り向くと亜貴がいた。


「びっくりさせるなよ」

「ごめんな。昨日、お前が京介と二人で帰ったのが鼻に付いて……つい話しかけた」

「そうか」

「1人で帰るのは寂しかったぞ」

「ごめんって今日は一緒に帰れるから」

「ほんとか。また、俺を差し置いて帰るなんて言ったら」

「大丈夫だってば」


 亜貴も、何も話さず沈黙が流れる。

 亜貴にあのことを言わないと……でも、どんな反応されるだろうか。話し始めはどうしたらいいだろう。あの話題に触れるか、否か頭の中で自問自答していた。周りからは、うじうじしているだけに見えるだろう。だが、こっちは亜貴の気持ちを考えながら台詞を考えるのに必死なんだ。


 「いい加減、現実を見てください。現実受け入れないと亜貴さん、助けられないでしょ!」昨日の彗の台詞が頭の中でリピートされる。

 ようやく、この問題から逃げない決心がついた。


「あのさ、亜貴に憑いた生霊の主が誰か分かったんだ」

「ほんとか!?」

「ほんとだ。でも、人がいるところでは話しにくいから帰りに話すよ」


 まだ、亜貴が生霊の主だとを話す勇気まではない。それに、亜貴の胸の中に秘めるものがここに出てきては困る。


「嗚呼、分かった。ごめんな、お前や京介を変なことに巻き込んじまって」


「そんなことない!」


 そんな台詞と共に何かが俺たちにのしかかってきた。


「うぐっ、京介!?」

「悪い、亜貴の台詞せりふを聞いたらイライラしてきてな。俺たちはやりたいからやってるだけだ。お前に心配される筋合いはない」

「そうだけど」

「少しは俺たちを信用しろよ」

「そうだな。げ、お前ら急がねぇと間に合わないぞ」


 腕時計に目をやると、登校時間が目前に迫っていた。


「やっべ、また坂本に怒られる」


 亜貴や京介はそんなことを言いながら急いでいる。けれど、俺にとってはどうでもよかった。放課後、亜貴に本当のことを打ち明けることばかり考えていたから。

 幸いにも坂本に捕まる前に席に着けた。


◆◆◆


 「起立、ありがとうございました」

 

 ホームルームも終わって放課後かぁ……

 色々、考えていたら学校が一瞬で終わっていた。


「じゃあ、話してくれよ」

「そうだな」


 京介にもこっちに来るように目配せする。


「ここはまだ、人が多いからちょっと行ったところでな」


 そう言って、ふらりふらりと歩いていく。 学校から離れていくと放課後なのに、人の気配は少なくなっていく。

 気づくと河川敷まで来ていた。麦色に染まった草木が秋風にそよいでいる。ここら辺なら打ち明けてもいいだろう。


「なぁ、いつになったら話してくれるんだよ」


 亜貴もそろそろ限界のようだ。

 俺は心を落ち着かせるために思いっきり息を吸い込んで、吐いた。

 決心はついた……だから、眼鏡を取る。

 やはり、亜貴の周りには紫黒の空気。それに俺が吐いた不安が浮かんでいる。


「人のけがれが滞るここに、清き風よ……舞い踊れ!」


 紫黒の淀みは空高く舞って、辺りが晴れていく。

 亜貴の後ろに黒い影がしがみついているのが見える。彗が祓った後にまた亜貴の感情で育っていったんだろう。

 だが、これで周りの雰囲気に邪魔されず、本心をぶつけ合える。


「今のは何?」

「気持ちを落ち着かせる御呪おまじいみたいなもんだよ」

「それで、俺に生霊を飛ばしていたやつは誰なんだ」


 「亜貴自身だ」って言うのは気が引けるな。でも、現実から目を背けないって決めたんだ。


「お前に生霊を飛ばしていた奴はな……亜貴自身なんだ」

「えっ、噓だよな。俺は何も、何も知らないぞ」


 友人の俺だって動揺したんだから本人はそれ以上だろう。だが、この問題を解決するために亜貴自身も受け入れなきゃいけない現実――


「噓じゃない、本当のことだ」

「そんなら、証拠……証拠を見せろ」


 俺が見た紫黒の靄や生霊は亜貴に見えるわけではない。「証拠を出せ!」と言われたところで出せるものがなく、俺は口ごもってしまう。

 そんな俺を見かねて京介が答えてくれた。


「一昨日、先輩に会ってきたんだ。「亜貴が家の前に居たり、ゆめにでてくる」」

「それがどうしたって言うんだ」

「お前、先輩に嫉妬してたんじゃないか。ここで全部言ってくれ。それがお前の問題を解決してくれる」


 図星を突かれて、亜貴の顔から力が抜けていく。

 やはりそうか、あの先輩は全国大会に出場するほどの腕前のようだし嫉妬するのも……


「もう、全部知られてしまったか。嗚呼、その通りだ。先輩の周りにはいつも誰かが居る。それが羨ましかった」


 あれ、何かがおかしい――


「俺はな、クラスでは周りに人が集まってくるけど、部活では、先輩が俺にだけ「コートで練習しよう」とか言ってくる。だから、同期の奴らとはあんまりいい関係を築けてないんだ……、そのせいで飛んじまったのかもしれない」


 予想外な返答に俺と京介は啞然とした。こういう時にどう声をかけてやればよいだろう。


「そりゃ、驚くよな」

「なるほど。お前は部活でも人気者になりたかったというわけか」

「俺に失望したか。残念ながらこういう人間なんだよ」

「人間はどこまで行っても欲深いんだからお前は普通の人間だ。ただ、欲が常人より多いだけのな」

「そうだ。お前のような人間どこにだって溢れてる。意外に先輩だってそう思ってるかもしれないぞ」

「俺は普通なのか。こんなに欲深いのに……」

「ちょっとのことで、普通じゃないなんて言うなよ。お前がそう簡単に《《キチガイ》》なんかになれるわけないだろ」

「俺が普通……」

「いつまで、蛆みたいにそんな事を言ってるんだ。反吐が出る。それにお前らしくない」


 亜貴はどれだけ自分を追い詰めていたのだろう。常人の域を抜けないというのに……


「そうだな。これは俺らしくない」

「健司のくせに毒舌吐くんだな」

「これは知り合いの受け売りで」


 なんだかいつの間にいつもの雰囲気へと変わっていた。

 亜貴の背後に目をやると、それはまだ消えていない。亜貴の打ち明けた真実を受け入れたというのに――


「丁度いいから、胸の内を打ち明けていいか」

「早く、早く聞かせてくれ」

「おいおい、そんなに焦るなよ」


 生霊がまだ消えていなくて焦ってしまったか。早とちりはよくないな。


「俺な極度の寂しがり屋なんだ」


 それに関しては薄々、勘付いていた。亜貴は帰る時はいつも俺たちについて来たから。


「驚かないのか」

「前々から分かってた。お前が寂しがり屋、ついでに執着屋なところもな」

「そんなところまで、どうして……」

「お前の登校時間がいつも俺と同じなのはおかしいだろ。いつの間にか、位置情報アプリでも入れたんじゃないか」

「そこまで分かってたのか。なのにどうして、俺と友達でいてくれるんだ」

「ストーカー程ではないし、俺たちはお前がいい奴って分かってるからな。それで、なんで俺たちなんだ。クラスにはお前と仲いい奴、いっぱいいるだろ」

「このクラスになって、お前らがいっちゃん最初に仲良くしてくれたんだぜ。そこらのやつとは違うんだ」


 思えばそうだったかもしれない。入学したての頃は、彗のことばかり考えてて周りには適当に返事していたからな。


「お前、さては忘れてるな」

「ぼんやりとは……」

「まあいい、これが俺のすべてだ。こんな俺だが、本当に……本当に受け入れてくれるのか」

「当たり前だろ。今までも、そしてこれからも親友だ」

「ありがとう、ありがとう」


 亜貴の目からは一筋の涙が見えたけど、何も言わないでおいた。

 そして、亜貴の背後を見ると影は跡形もなく消えていた。ようやく、亜貴は生霊から解放されたようだ。


「それで、生霊はどうなった」

「亜貴が全部吐き出したから消えたよ。もう、嫉妬とか執着すんなよな。俺たちはずっと親友だし、お前のことは受け入れてやるからさ。それで聞きたいんだけど身体が少し軽くなった気はしないか」

「そうだな。胸の内を全部明かしたら、すっと軽くなった」

「てか、お前って生霊とか見えてたのか」

「そう言えば、どうやって消えたのを確認したのか気になっていた」


 京介がごく当たり前の質問をする。それに亜貴まで乗っかってきた。俺は色々ありすぎて、言っていたと思っていたんだがな。


「言ってなかったっか」

「「言ってない!」」


 2人で、ハモられたということは言ってないのだろう。


「実は俺、昔からそういうのが見えていたんだ」

「へ~凄いな」


 こんな一般人が見えないものを見る能力が凄い……?

 そんなことを一回も思ったことはなかった。


「何も凄くなんかないよ。言ったら、キモがられるし」

「そんな奴が居ても、俺たちは受け入れるけどな」

「ありがとう。せっかく、川原に来たんだし水切りでもしないか」

「いいな」

「こんなの久しぶりだな」


 こうして、俺たちは今までの日常へと戻っていく。やっぱり、調べ回るよりこっちの方が落ち着くな。なんか、疲れた。

 これからも、こんな時間が続けばいい。

 水切りをして俺たちは別れる所まで一緒に行って、それぞれの帰路についた。

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