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彗星のように  作者:
18/26

放課後陰陽道塾③

 星ヶ嶺大社の境内にたどり着いた。

 だが、彗の姿がどこにも見えない。

 少し待っていると、俺が上ってきた階段の方から人の気配がした。

 彗だ。


「遅くなってすみません……今日はやけに早いですね」

「たまには、早く来てみようと思って」


 亜貴のことを早く彗に聞きたくて来たんだ。

 でも「亜貴が生霊の主」と答えられるのが怖くて言い出せない。本当は、独りよがりな考えで不安が大きくなる前に聞いておきたかった。

 聞きたいのに、聞けない。このもどかしさが俺の胸を締め付けていく。


「今日は何を教えましょうか、ふぅん。昨日は、空気の見方を教えたので、浄化の方法にしましょう。さ、眼鏡を取ってください」


「嫌だ!」


 眼は見たくないものまで映してしまう。それがどうしょうもなく恐かった。彗はそんな事を知らず眼鏡のフレームに手をかける。


「空気の色が見えないと教えられません。だから、外してください」


 頑なに外そうとしないのを見て、フレームから手を離す。


「何かありましたか」


 彗の声が俺の心に問いかける。その声につい、口を滑らせた。


「なぁ、彗。生霊の主を知ってるって言ったよな」

「ええ、言いましたよ」

「亜貴は……生霊の主じゃないよな」

「あぁ……気づかれましたか」


 ……へっ


「あの方の周りに紫黒の空気が見えました。生霊を祓っても、その空気は消えなくて……」

「彗も嘘つくのか」

「私は、事実を述べているだけです」


 その言葉に動揺を隠せない。

 亜貴が、あの亜貴が生霊を飛ばすはずが……

 あいつが生霊を飛ばすほど、人を恨んでいるところを俺は見たことが一度もない。

 きっと、京介も彗も俺を脅かしたかったんだろう。これが現実だったら受け入れられない。

 なんだか、頭が狂ってしまいそう。

 「アハハ、アハハ……そんなわけがない。アハハ、アハハ……」


 ()()ッ!

 

 彗の強烈なビンタを顔に食らった。親にもされたことがないのに……


「痛った、いきなり何するんだよ」

「はぁ、正気に戻って……良かった」


 その顔は、少し涙ぐんで安心していた。


「いい加減、現実を見てください。現実受け入れないと亜貴さん、助けられないでしょ!」

「でも……」

「いつまでも蛆虫うじむしみたいにうじうじしないでください。反吐が出ます」


 ここまでされたら、現実だと受け入れられる。この現実と向き合わなければ、問題を解決できないことくらいは分かっていた。

 ただ、のどにつっかえていたものが取れなかっただけなんだから。


「もう問題ない」

「それじゃあ、眼鏡を外してください」


 まだ少し恐かったけど、現実と向き合うために眼鏡を取った。

 眼鏡を取ると、やはり色のついた空気が宙を舞っている。


「眼鏡外したけど……」

「えらいですよ。よしよし」


 さっきみたいにまた壊れないように、よしよししてくれたのだろう。

 でも、俺は認められた気と好きな女の子に()()()()されたのがとっても嬉しかった。亜貴を助けなきゃいけないって時なのに、下心が出る俺を許せない。


「それで、どうやって空気を浄化するんだ」

「一旦、見ていてください。人の穢れが滞るここに、清き風よ……舞い踊れ!」


 彗がそう言うと色のついた空気が空高く舞って、消えていった。

 ここから、どんよりとした感じが消えて澄んだ空気が流れ込んでくる。清々しい。


「透き通った感じがしますね」

「そうだけど……どうやってやった」

「ただ呪文を唱えるだけですよ。前に祓いの呪文ができた貴方ならできるでしょう。一旦、やってみましょう」


 そう言うと、懐から壺を出す。

 昨日、俺はあの壺の中に入っている穢れた空気に気絶させられた。その記憶が脳内に蘇って身体がビクンと震える。


「壺の蓋を取ったりなんてしないよな……頼むからそれだけはやめてくれ」


 俺の声に耳を傾けず、慣れた手つきで蓋を取ってしまう。

 瞬時にその場が紫黒の空気に支配される。気分が悪い。

 頭をフル回転させて、彗の唱えた呪文を思い出す。


「人の…穢れが、滞る…ここに、清き風よ………舞い踊れ!」


 そう言うと、靄は晴れていく。彗は、いつの間にか遠の方へ離れていて、俺を見ていた。俺が靄を払ったのに気づくとこっちに走って来る。


「何であっちに居たんだ」

「巻き込まれたくないんで、蓋取ってすぐにあっちに行きましたよ」

「良くやりましたね。よしよし」


 俺がちょっと苛々していたのを見越したのか、今日、2度目のよしよしをする。


「今のは、亜貴を救うのに役に立つのか」

「亜貴さんの周りを漂う空気を追い払うくらいは出来ますよ」

「そうか……昨日、彗には解決できないって言ってたけどどういう事だ。彗は俺よりも能力あるだろ」

「生霊というのはその人の心の問題を解決しない限り、何度祓っても生まれ続けるっていう話はしましたよね」

「その話は聞いたけど、それがどうって言うんだ」

「だから、祓う能力があったところで、亜貴さんの心の問題は解決できないです。亜貴さんと親しい貴方や友達の方にしか解決できないんです。だから、あなたがたで頑張ってください」

「色々ありがとな」

「いきなり何ですか」

「ウジウジしてた俺を励ましてくれたり、役に立つこと教えてくれたじゃん」

「あれはただ、貴方を陰陽師として教育しただけですから……」


 そう言い捨てると、スタスタと家へと去っていった。


「それでは帰りましょうか」


 何で御許さんは、こうもタイミング良く居るんだろう。超能力者なのだろうか。


「いつもありがとうございます」


 明日こそ、亜貴から生霊を飛ばすほどの感情を鎮めてやりたい。

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