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彗星のように  作者:
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生霊探索③

 昨日、彗から空気に流れる人の感情の見方を教わってから眼鏡を外せないでいた。

 眼鏡を取ると人の感情がこの目に映ってしまう。幸せの鮮やかな色が見えるだけなら良い。

 だが、怒りや嫉妬、絶望――負の感情がの紫黒しこくもやのように見えて胸を締め付ける。

 負の感情なんて見たくない。見た拍子に俺を標的にされるのが恐ろしいから。


「健司、なんで眼鏡かけてるんだ。視力よかっただろ」

「ちょっと、色々あって……」

「お前、ゲームやりまくってたしボロが出たんだな」


 眼鏡をしていることに違和感を持たれなくて良かった。高校という思春期が集まる中で、眼鏡を外したら感情の情報で気絶するかもしれない。

 昼休みになったら京介から、亜貴をストーカーだと思う先輩との話が聞けるだろう。


 昼休みのチャイムが鳴る。


「お前、今日はパンを食べれるように頑張れよ」


 亜貴に情けをかけられた。

 でも、今日の俺にそんなものは要らない。

 なぜなら、昨日までの反省を生かしてお弁当を作ってきた。俺がかばんからお弁当の包みを取り出すと亜貴がたまげている。


「そのお弁当どうしたんだ」

「俺が作ってきた」

「お前が料理できるなんて聞いたことないぞ。後で、中身を見せろ。本当にお前が作ったか審査してやる」


 校舎裏へ行くとまだ誰もいなかった。

 当たり前のことだ。今日の俺は購買に行かず、すぐにここへ来たんだから。

 でも、誰もいない校舎裏はコケが生い茂る日陰になっていて、幽霊が出そうな寂しい場所だった。


「あぁ、やっと来たか」

「ごめん、遅れた」


 そんな遅刻の謝罪をする京介の手には1つのプリンがあった。購買合戦に敗れてしまったんだろう。

 いつもはお弁当を持ってくるのに、購買で昼食を買うなんて珍しい。


「なんで、購買飯なんだ」

「昨日、夜更かしたせいで寝坊して弁当作る時間すらなかった」

「そんなことより、あの健司がお弁当を作ってきたんだ。早く見せてくれ」


 俺は二人の視線を浴びながら弁当の包みを開く。弁当箱の蓋を取ろうとするときには二人の顔は俺の真横にあった。

 開けづらい……

 蓋を開けると2人は、弁当を見つめたまま言葉を失っている。作った俺でさえも上出来だと思うほどだから当然だ。


「今日のお弁当は、2つのおにぎりに玉子焼き、枝豆、マカロニサラダ。そして、ブロッコリーやミニトマトをトッピングしたんだ」

「お前に料理の才能があったなんて悔しい」


 そして、お弁当を食べる。

 京介はもうプリンを食べ終わって、ひもじそうに両手でからのプリンカップを抱えている。その姿を見ていると昨日の俺を思い出す。

 そんな京介の姿を見て、プリンカップに卵焼きを投げ入れた。


 「京介、その先輩と話してどうだった」

「先輩と話してきたんだけど……」


 京介は亜貴の方をちらりと見る。

 亜貴に気を使うことでもあるのだろうか。


「健司、今日は俺と帰らないか」

「なんで」

「いいから俺と帰ってくれ!話したいことがある」


 亜貴本人がいる前で粗末な誘いを展開してきた。それじゃあ、亜貴が不審に思うだろう。


「なんで先輩にいちゃもんをつけてくるのか俺自身も知りたい。ここで話してくれ」

「それはできない……」

「どうしてだよ」


 そんな事が1つも進まない話が展開される中で、俺は締めの味噌汁を飲むことにした。味噌汁は、秋の寒さに凍えた身体を温めてくれる。

 寒い日だったから味噌汁からは湯気が立っていた。

 味噌汁の湯気が眼鏡を曇らせる。

 俺は勢いのままに眼鏡の曇りを取ろうとして眼鏡を外す。


 目の前には紫黒の靄……

 見た途端に吐き気をもよおすほどの負の感情。

 それが亜貴から出て、くうに漂っている。なんで、なんで亜貴から出ているんだ。

 亜貴と京介は何も変わらずにじゃれあっている。

 だから、これは眼鏡に慣れていなくて風景がぼんやりとしただけだろう。

 それか、亜貴にいた生霊だろう。

 亜貴に憑いた生霊が亜貴から出たものなんてそんな事はない。


 俺は受け入れがたいものを見てすぐに眼鏡をかけなおした。眼鏡をかけてしまえば視界は元通り。空気も透明だ。


「健司、顔色が悪いぞ。何かあったか」

「ちょっと味噌汁がのどに詰まっただけ……」

「やっべ、もうすぐ授業が始まるぞ」

「急がないと」


 見てはいけないものを見て、今日の校舎裏の密談は終わった。


◆◆◆


「亜貴、それじゃあな」


 亜貴は、俺と京介が二人で帰るという提案に素直に乗ってくれた。

 京介は、俺が星ヶ嶺大社に行く途中までついて行くそうだ。


「先輩についての話、してくれるか」


 京介は周りをキョロキョロしてから口を開いた。それだけで緊張感が漂う。メガネの効果で感情の色が見えなくても感じる。


「真面目な顔で言うんだよ」

「『亜貴が家の前に立っていた』って」

「それだけじゃない。寝てるとき、亜貴の声が頭に響いてうなされるらしい」

「その話、本当に信じてるのか」

「嗚呼、あの人は嘘ついてないと思う。だって、思い出すだけで身体を震わせてた」

「それで……それで何を言いたいんだ」

「亜貴には生霊が憑いたんだよな」

「そうだが」

「ちょっと俺も調べてみたんだ。この世界には生霊返しってのがあるらしい。亜貴が先輩に飛ばした生霊が亜貴自身に戻ってきたんだろう」


 この話を信じたらさっき見た靄が亜貴から出ている事を受け入れることになってしまう。


「あの亜貴だぞ。心優しいあいつが生霊を飛ばすなんて信じられない」

「表面には見せない事もあるだろ。感情なんて分からないんだから」

「だいたい、亜貴が生霊の主だとしてどうやって解決するんだ」

「それは……」


 亜貴を生霊の主だと考察したところで解決策は何も持ち合わせてなかったか。


「先輩の話はそれだけか」

「先輩、途中で怖くなってその場から去っていったから最後まで聞けてないんだ」

「そうか。こっちでも調べてみる。それじゃあな」


 京介の話を信じたくなくて半ば逃げるように別れてしまった。

――彗は生霊の主が誰か分かっていると言っていた。きっと、彗なら亜貴が生霊の主ではないって言ってくれるはずだ。

 小さな希望を胸に抱えて星ヶ嶺大社へ急ぐ。

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