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彗星のように  作者:
14/26

放課後陰陽道塾①

学校が終わって星ヶ嶺大社へと向かう。

昨日、彗に「放課後、お祓いの仕方を教える」と言われたからだ。

帰宅ラッシュ前の電車はまだ空いていて、座席にはぽつ、ぽつと人が座っている。

その中で、俺はゆらり、ゆらりと揺れていた。

窓からはオレンジの陽光が差し込み、どこか寂しさを強調する。


誰が生霊の主という情報はこれっぽちも得られなかった。でも、京介が協力してくれることになったから収穫はあったということにしよう。


なんだかんだで、これから彗に会いに行けるんだよな〜

心のどこかで感じている「もう彗に会えないかもしれない」という不安が少しは和らぐ。


外には刈り上げられた田園風景が広がっている。

土曜日は雪も降り出していたし、もうじき冬が来るのだろう。


田園風景が途切れれば、昨日行ったRound1や住宅街が見えてくる。田園風景とは打ってかわって、人の気配が感じられ始める。ここらへんの2、3駅で空の電車に帰宅者が入ってくる。

いわゆる帰宅ラッシュというものだ。


陽はすっかり沈んだ。

建物の明かりが少しずつ灯り始める頃、俺は星ヶ嶺大社前駅にたどり着く。

駅の目の前は、中学の修学旅行で見た皇居のような広い広場になっている。

広場の中央にある階段を上れば彗に会えるんだな。


彗に会うために何回もここへ来たことはあった。

でも、彗と会えたのは初恋を忘れようとしていた最近のこと。

会って話し合ってしまえば、思ったより早く仲良くなれた。

まったく、不思議な縁を持ったな。


「遅いですよ、何していたんですか?」


階段の上で彗が待ち構えていた。


「高校からここまで遠いんだ」

「明日はもう少し早く来てくださいね。この頃は日暮れも早いんですから」

「それで、昨日みたいにお祓いをするのか?」

「とりあえず、それもしますか」


ここでは稽古はできないみたいだ。

俺は星ヶ嶺大社から少し行った森の中へ案内された。

そこで行燈一つ置いて稽古されるようだ。

彗が小壺を懐から取り出す。

小壺の蓋を外すと黒いモヤが溢れてくる。

モヤは異形へと姿を変えていく。

髪の長い女の姿。

――昨日祓った怪異だ。

なんでこんな所に居るんだろう?


「これを見たことあるような顔してますね」

「当たり前だ。これは昨日祓ったじゃないか」

「貴方の力では完全に祓えなかったんです。残りカスが階段の下を這いずっていたので、私が生け捕りにしました」


怪異を生け捕りにしたことを話す彗の顔は少し愉しんでいるようで怖かった。


「それで、これは少々型破りなんですけど…」


そう言うと、怪異の頭部を左手でガッシリと掴んで持ち上げた。


「あぁあぁ、痛い、あぁ痛い」


頭が割れそうなほど怪異はもがき苦しんでいる。


「怪異のくせになんで、そういう顔をするんでしょうね」


女の子にあれ程の力があるんだろうか。

彗は更に力を加えていく。

頭に、陶器のようなヒビが入る。

次の瞬間――皿を地面に落としたような音とともに、砕け散った。

昨日と同じ断末魔が広がる。

怪異はすぐに灰になって消えていく。


「健司さん、下を見てください」


そこにいたのは小さい人間?

鋭い眼光でこっちを睨みつける。

この顔はさっきの怪異だ。


「ふふ……怪異って意外としぶといんですよね。だから、こうやってこの地の霊脈の力で回復させると元通りに戻ります」


痛ぶって、痛ぶって回復させるなんて人間の所業では無い。

それにその女は怪異なのにプル、プル震えている。今は彗の方が怪異に見えなくもない。


「あれ、昨日の威勢はどうしたんですか?」


彗が話しかけていると、女は腰を抜かしてしまった。


「怪異ならもっと恨みの籠もった顔をしなさい。そうしないと人間と怪異の見分けが付かなくなるでしょう。そうなるとね、人間は弱さを見せてしまうの。それを襲うのでしょ。私はそれが許せないです」


「誰か……誰か助けて!」


それを聞いてまた、頭に手をかけた。

けれどすぐに離す。


「怪異が戯言を……さ、貴方も祓ってみて」


さっき、彗がやってるのを見ると手が震えてしまう。


「何しているんですか?さあ、さあ」


そんな冷静でいられるのが不思議だ。

頭部破壊なんてしたくないし、できることならもう見たくない。

だから、死者の魂を弔うお経を検索する。

俺の家の近くの寺から出ているものを見つけた。この霊は、こんな事されて「この世に留まりたい」なんて思えないだろう。

俺はその女の前に立つ。


「今、成仏させてやるからな」


その人は救われたような顔をしていた。

そして、お経を唱え始める。

お経を唱えているとその女は、ほろほろと青い光となって宙へ舞っていく。


「ねぇ、何故成仏させているんですか?」

「それは、あの人が頭部……」

「あれに同情してしまったんですね」


図星だ。

頭の中を読まれている気がして…

頭が真っ白になって何も言えなくなった。


「怪異に同情するのは良くないですよ」


俺があの人の前に立った時に怯えていたんだ。

人の表情をしていたんだから怪異にだって気持ちがあるはずだ。それをああやって、同情もするなって……


「人の魂をああやって弄ぶのは良くないだろ」

「それを貴方が言いますか…今まで怪異に悩まされていたんでしょう。それに昨日、あれは私たちに襲いかかってきましたよね」

「今までは、生き物ではない何かだと思っていた。でも、あの人は人の表情をしたんだってば」

「そうやって同情していると痛い目見るんですからね。あれはこの世から消えたかったみたいですけど……」


そこまで同情するなと言ってくるということは過去に辛い思いをしているんだろうか。


「これからは、あの呪文で祓うよ」


こんな事言っていても、また同情してお経を唱えてしまうかもしれない。

やっぱり、こうやって上辺だけの言葉で取り繕うのは良くないことだよな。


「私も言い過ぎました……怪異に同情するという思考は理解できませんけど。くれぐれも、怪異に同情だけはしないようにしてください……これは忠告ですから」


「お嬢様、お父様が呼んでいらっしゃいます」


向こうから御許さんがやって来た。

彗は「あっヤバい」と言葉をこぼしてもと来た道を戻っていった。


「初めての稽古、どうでしたか?」

「怪異の祓い方はなんとなく分かったよ」


でも、どうにも後味が悪い。


「そうですか…お嬢様に「もう、夜が更けて危ない」と言われましたので、家まで私がお送りいたします」


◆◆◆


車は家に向かって走る。

それでも、30分くらいはかかるだろう。

そんな中で御許さんが口を開いた。


「お嬢様と口喧嘩でもしたんですか?」


流石、彗の執事だけのことはある。

でも、どうして分かるんだろう。


「そうですけど、なんでわかったんですか?」

「戻る際のお嬢様の顔が暗かったものですから。こうやって付いていると分かるものですよ」

「考えのすれ違いから喧嘩したんです。怪異は成仏させるものだと思ったけど、彗は消滅させるものみたいで…」


頭部破壊なんていうやり方は、すぐにでも忘れてしまいたい。


「御許さんは怪異には感情はあると思いますか?」


「人間と全く同じものではないと思います。ですが少なからずはあると思いますよ…嗚呼、お嬢様のあれをみたんですね」


あの御許さんが佇まいは微動だにしていなくても指先が少し震えている。きっと思い出したくないのだろう。


「私の家系を辿れば仏教にあたりますので、お嬢様のあれには耐え難いものがあります」


御許さんって人の心が分かる人なんだな。

祈祷の時に全然話さないから鉄仮面だと思っていた。

彗に直接注意できるのはこの人しか居ない気がする。


「それじゃあ、それを止めるように言ってもらえませんか?」

「私はお嬢様の執事なのでそれは出来ません」


微妙なところで家に着いた。

玄関先にはまた、塩が置いてある。

頭に塩をかけ、お風呂に入って布団へ直行した。

お腹は空いていたけど、その気力すらない。

今日は、学校も相まって昨日より疲れてしまったから。


明日は亜貴と関わりのある人について探ってみようか。それに、彗があれだけ「怪異に同情しないように」と言っていたのには秘密があると思う。

何があったのか慎重に聞いてみよう。

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