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彗星のように  作者:
12/26

友導(ともしるべ)⑥

亜貴や京介と別れた後、俺だけ彗に呼び止められた。彗の茶室へと案内される。

茶道の作法なんて、これっぽちも知らない。


「茶菓子をどうぞ」


おまんじゅうだ。

こういうのって、食べ方があったっけ。

知らないので一口で食べきった。


「一口で食べないでください。普通は懐紙の上で二つに分けて食べるんですよ」


「それで、俺は何をするんだ」

「早とちりしないでくださいよ」


お抹茶を淹れてくれる。

シャカ、シャカという音が心地良い。

泡がキメ細かくなっていく。


「こういう作法も知っておいて損はありませんよ。どうぞ」


お茶を俺の前に置かれる。


「茶碗を左手に乗せて右手を添えて…」

「こうか?」

「そうです。2度回し、味わって飲んでください」


飲んでみると苦かった。

苦さに耐えきれず、一口で飲み切る。

彗が淹れてくれたのに勿体ない事したかもしれない。


「あ、一口で飲み切りましたね…二口くらいは飲むものですよ」

「こういう作法知らないんだってば」

「では、早く覚えてくださいね。飲み終えたら口を付けたところを指で拭うんですよ」


あまり、口つけたところに触れたくないな〜

視線が怖いので、恐る恐る拭いた。


「この手、洗ってきていいか?」

「その手はこの懐紙で拭くんです。本来なら着物に挟めておきます。今日は手元にあるもので拭いてください」


こうして、茶道教室は終わった。

緊張して肩が痛い。

彗は茶会が出来て嬉しそうにしている。


「それでは本題に入りましょうか」


これを待っていた。

今までのは、要らなかったんじゃないだろうか。


「貴方の事をちょっと調べてみました。そしたら貴方、陰陽師なんですね。」


いつの間に俺の個人情報が漏れてるんだ?


「昔、お祓いの試験とか受けたことありましたか?」


お祓いの試験。

そんな事をしたことがあったかな。

一つ思い当たる節があるとすれば…


「小学生の時に親父になんかやらされたな」


でも、どんな事をしたかは覚えていない。


「陰陽師のくせに…この落ちこぼれ。いえ、なんでも無いですよ」


ずっと前の事だし仕方ないよな。

にしても、その毒舌はいつ収まるんだろうか。


「ただ、陰陽師の称号が勿体ないなと思って…私がこれから毎日、お祓いの仕方や色々教えてあげましょう」


毎日、彗に会えるというなら行きましょう。

楽しみだな〜


「だから、放課後に家に寄ってください。ニマニマして…何がそんなに嬉しいんです?」


そうか、顔に出ていたのか。

顔に出ても仕方がないことなんだ。

だって、彗と居れるのが本当に嬉しいのだから。


「亜貴が無事だったからかな〜」

「そのうち、貴方にもあれくらいは出来るようになってくださいよ」

「さっきの稲妻は彗がやったのか」

「亜貴さん憑いた生霊を祓ったのが見えていたんですね。っていうか、貴方にもそういうのが見えるんだ…ふ〜ん」

「貴方はもう、無事なのか?」

「嗚呼、それも頼みたかったんです」

「やっぱりまだ…」


亜貴は大変な事になっている。

今まで、ずっと1人で抱え込んでいたんだな。

素直に話してくれればいいのに…


「生霊は祓いました。でも、亜貴さんが恨まれてる限り生霊は湧き続けますよ」

「何も解決になっていないじゃないか!」

「だから、生霊の持ち主を見つけて欲しいです。」

「友達のためならそれくらいやるって」

「ありがとうございます。生霊を何度祓うのは面倒くさいのでね…」


なんか愚痴をこぼした気がする。

やっぱり、彗の面倒事を減らすのを手伝わされているよな。

外に出るとすっかり夜が更けていた。


「もう、夜も遅いですね」

「そうだな」

「階段を下りたところまで送ってあげましょう」


◆◆◆


彗と階段を降りていった。

隣を歩くのもここまでか…

なんだかロスが大きい。


「それでは、また明日」

「じゃあな」


先の方に死装束を着た髪の長い女が立っている。

目と目が合う。

そして、その女がゆっくりとこちらへ歩きだした。


「ちょっと待って」

「あれはやっぱり、怪異なのか?」

「そうですね…面倒くさい。そうだ、貴方に祓ってもらいましょう」

「俺にそんな力無いってば」

「一応、貴方は陰陽師なんですし…出来ますって」

「それなら…どうすれば良いんだ?」


彗から1枚の紙が渡された。

急急如律令?

漢文のような文字が並んでいる。

さっき彗が生霊を祓ったからなのか、怪異が居ても安心する。


「最初のところは、『きゅうきゅうにょりつりょう』と言うんですよ。私が隣で唱えてあげますから一緒に続けてください。そして、あれに手をかざして」


「もう、何やってるんですか?手が震えていますよ。私が手を据えてあげますから」


本当に手が震えている。

俺はあれを恐れているのか。

でも、彗が手を据えてくれるから安心だ。


「近づいて来ますよ」


あれはカタ、カタとした動きでこちらへ迫ってきている。

髪がザラッとはけた。

悍ましい目つきでこちらを見る。


「さ、早く読み上げましょう」

「そうだな」

「「急急如律令」」


あれが俺に襲いかかるところまで来ていた。

刹那、俺の手から稲妻が走る。

何とも無いように見えた。

でも、瞬時に断末魔をたてて灰となって消えていく。


「祓えました。やはり、陰陽師というだけあって素質はあるんですね」


そうか、祓えたのか。

彗に手を据えられて、俺の手が蒼く光っていた気がする。

心地良い夜風がふいていく。

どっと疲れてしまった。


「なんで、そんなやり切った感じでいるんですか?あれはそこら辺の小物に過ぎないのに…」


あれが小物?

可笑しな話もあるものだな


「あれが小物って?あれはどんな怪異なんだ?」

「おそらくあれは地縛霊の類でしょう。きっとこの霊地へ引き寄せられたのでしょう」

「地縛霊ってそんな小物なのか?」

「地縛霊にも強いものから弱いものまで、幅広く居ますけどさっきのは浮遊霊にも近い小物でしたよ。今のを唱えれば生霊も祓えますよ」

「これで俺は一人前?」


醜いものでも見るような眼差しだ。


「1日では、一人前なんかになりませんよ。私のようになるには10年くらいかかるでしょう」


時刻は20時を回っていた。

まずい、親父に怒られる。


「それじゃあな」

「また明日、ここでお待ちしておりますよ」


俺は一目散に帰る。


◆◆◆


自宅へ帰ると玄関先に塩が置いてあった。

きっと、彗が親父に一連の出来事を説明してくれていたのだろう。


明日からは、亜貴を恨んでいる人を探して放課後に彗に会いに行くのか。

亜貴は本当にいい奴だ。

アイツを恨む奴なんて本当にいるのだろうか。

今までそういう事を見ぬふりしていただけなのかもしれない。

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