友導(ともしるべ)⑥
亜貴や京介と別れた後、俺だけ彗に呼び止められた。彗の茶室へと案内される。
茶道の作法なんて、これっぽちも知らない。
「茶菓子をどうぞ」
おまんじゅうだ。
こういうのって、食べ方があったっけ。
知らないので一口で食べきった。
「一口で食べないでください。普通は懐紙の上で二つに分けて食べるんですよ」
「それで、俺は何をするんだ」
「早とちりしないでくださいよ」
お抹茶を淹れてくれる。
シャカ、シャカという音が心地良い。
泡がキメ細かくなっていく。
「こういう作法も知っておいて損はありませんよ。どうぞ」
お茶を俺の前に置かれる。
「茶碗を左手に乗せて右手を添えて…」
「こうか?」
「そうです。2度回し、味わって飲んでください」
飲んでみると苦かった。
苦さに耐えきれず、一口で飲み切る。
彗が淹れてくれたのに勿体ない事したかもしれない。
「あ、一口で飲み切りましたね…二口くらいは飲むものですよ」
「こういう作法知らないんだってば」
「では、早く覚えてくださいね。飲み終えたら口を付けたところを指で拭うんですよ」
あまり、口つけたところに触れたくないな〜
視線が怖いので、恐る恐る拭いた。
「この手、洗ってきていいか?」
「その手はこの懐紙で拭くんです。本来なら着物に挟めておきます。今日は手元にあるもので拭いてください」
こうして、茶道教室は終わった。
緊張して肩が痛い。
彗は茶会が出来て嬉しそうにしている。
「それでは本題に入りましょうか」
これを待っていた。
今までのは、要らなかったんじゃないだろうか。
「貴方の事をちょっと調べてみました。そしたら貴方、陰陽師なんですね。」
いつの間に俺の個人情報が漏れてるんだ?
「昔、お祓いの試験とか受けたことありましたか?」
お祓いの試験。
そんな事をしたことがあったかな。
一つ思い当たる節があるとすれば…
「小学生の時に親父になんかやらされたな」
でも、どんな事をしたかは覚えていない。
「陰陽師のくせに…この落ちこぼれ。いえ、なんでも無いですよ」
ずっと前の事だし仕方ないよな。
にしても、その毒舌はいつ収まるんだろうか。
「ただ、陰陽師の称号が勿体ないなと思って…私がこれから毎日、お祓いの仕方や色々教えてあげましょう」
毎日、彗に会えるというなら行きましょう。
楽しみだな〜
「だから、放課後に家に寄ってください。ニマニマして…何がそんなに嬉しいんです?」
そうか、顔に出ていたのか。
顔に出ても仕方がないことなんだ。
だって、彗と居れるのが本当に嬉しいのだから。
「亜貴が無事だったからかな〜」
「そのうち、貴方にもあれくらいは出来るようになってくださいよ」
「さっきの稲妻は彗がやったのか」
「亜貴さん憑いた生霊を祓ったのが見えていたんですね。っていうか、貴方にもそういうのが見えるんだ…ふ〜ん」
「貴方はもう、無事なのか?」
「嗚呼、それも頼みたかったんです」
「やっぱりまだ…」
亜貴は大変な事になっている。
今まで、ずっと1人で抱え込んでいたんだな。
素直に話してくれればいいのに…
「生霊は祓いました。でも、亜貴さんが恨まれてる限り生霊は湧き続けますよ」
「何も解決になっていないじゃないか!」
「だから、生霊の持ち主を見つけて欲しいです。」
「友達のためならそれくらいやるって」
「ありがとうございます。生霊を何度祓うのは面倒くさいのでね…」
なんか愚痴をこぼした気がする。
やっぱり、彗の面倒事を減らすのを手伝わされているよな。
外に出るとすっかり夜が更けていた。
「もう、夜も遅いですね」
「そうだな」
「階段を下りたところまで送ってあげましょう」
◆◆◆
彗と階段を降りていった。
隣を歩くのもここまでか…
なんだかロスが大きい。
「それでは、また明日」
「じゃあな」
先の方に死装束を着た髪の長い女が立っている。
目と目が合う。
そして、その女がゆっくりとこちらへ歩きだした。
「ちょっと待って」
「あれはやっぱり、怪異なのか?」
「そうですね…面倒くさい。そうだ、貴方に祓ってもらいましょう」
「俺にそんな力無いってば」
「一応、貴方は陰陽師なんですし…出来ますって」
「それなら…どうすれば良いんだ?」
彗から1枚の紙が渡された。
急急如律令?
漢文のような文字が並んでいる。
さっき彗が生霊を祓ったからなのか、怪異が居ても安心する。
「最初のところは、『きゅうきゅうにょりつりょう』と言うんですよ。私が隣で唱えてあげますから一緒に続けてください。そして、あれに手をかざして」
「もう、何やってるんですか?手が震えていますよ。私が手を据えてあげますから」
本当に手が震えている。
俺はあれを恐れているのか。
でも、彗が手を据えてくれるから安心だ。
「近づいて来ますよ」
あれはカタ、カタとした動きでこちらへ迫ってきている。
髪がザラッとはけた。
悍ましい目つきでこちらを見る。
「さ、早く読み上げましょう」
「そうだな」
「「急急如律令」」
あれが俺に襲いかかるところまで来ていた。
刹那、俺の手から稲妻が走る。
何とも無いように見えた。
でも、瞬時に断末魔をたてて灰となって消えていく。
「祓えました。やはり、陰陽師というだけあって素質はあるんですね」
そうか、祓えたのか。
彗に手を据えられて、俺の手が蒼く光っていた気がする。
心地良い夜風がふいていく。
どっと疲れてしまった。
「なんで、そんなやり切った感じでいるんですか?あれはそこら辺の小物に過ぎないのに…」
あれが小物?
可笑しな話もあるものだな
「あれが小物って?あれはどんな怪異なんだ?」
「おそらくあれは地縛霊の類でしょう。きっとこの霊地へ引き寄せられたのでしょう」
「地縛霊ってそんな小物なのか?」
「地縛霊にも強いものから弱いものまで、幅広く居ますけどさっきのは浮遊霊にも近い小物でしたよ。今のを唱えれば生霊も祓えますよ」
「これで俺は一人前?」
醜いものでも見るような眼差しだ。
「1日では、一人前なんかになりませんよ。私のようになるには10年くらいかかるでしょう」
時刻は20時を回っていた。
まずい、親父に怒られる。
「それじゃあな」
「また明日、ここでお待ちしておりますよ」
俺は一目散に帰る。
◆◆◆
自宅へ帰ると玄関先に塩が置いてあった。
きっと、彗が親父に一連の出来事を説明してくれていたのだろう。
明日からは、亜貴を恨んでいる人を探して放課後に彗に会いに行くのか。
亜貴は本当にいい奴だ。
アイツを恨む奴なんて本当にいるのだろうか。
今までそういう事を見ぬふりしていただけなのかもしれない。




