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第61話(後編):奪還の号令――黄金の雨と、魔導の咆哮

 王都『セント・ルミナス』の夜空が、一瞬にして昼間のような輝きに塗りつぶされた。

 私の宣戦布告に応じるかのように、雲を割り、次元を切り裂いて現れたのは、商人王ハシムが誇る空中艦隊『黄金の獅子』号を筆頭とする、数百隻もの魔導商船団だった。


 船体には無数の金貨が装飾として編み込まれ、マストには異国の極彩色の絹が張られている。だが、その華やかさに惑わされてはいけない。それぞれの船底からは、私がハシムにライセンス提供した『高圧縮魔導収束砲』の砲門が、冷酷なまでに聖都の方向を向いて突き出していた。


『……待たせたな、リリアーヌ。……俺の宝に泥棒猫が手を出したと聞いて、全財産(艦隊)を叩いて駆けつけたぞ。……報酬は、後で君の身体で、じっくりと支払ってもらうからな』


 通信機から響くハシムの不敵な笑い声。

 画面に映る彼は、既に略奪者の瞳をしており、その背後では山のような魔導石が、エネルギーとして次々と炉に投入されていた。


「……ハシム様。……ご協力、感謝しますわ。……でも、私の身体で支払うのは、貴方の艦隊が教会の門を一番に粉砕してからのお話ですわよ?」


(……キ、キターー!! 課金王ハシムによる【物理的な札束(艦隊)の暴力】! 私が開発した『物流用反重力エンジン』が、こんなに恐ろしい空中要塞を浮かせているなんて……! 開発者として、少しだけゾクゾクしちゃうわね!)


 私は軍艦のタラップに立ち、眼下に集結した帝国軍、影の軍勢、そして黄金の艦隊を見渡した。

 

「……皆様、よくお聞きになって。……これまで私が皆様に提供してきた『エアコン』、そして『Wi-Fi』。……それらはすべて、快適な生活のためだけにあるのではありませんわ。……熱量を操作できるなら、氷点下のレーザーも撃てる。……電波を飛ばせるなら、敵の脳内魔導回路をジャックすることもできる。……さあ、私の『技術』が、本気で人を殺し(デバッグし)にかかるとどうなるか、その目に焼き付けなさい!」


 私が指先で空中に仮想キーボードを展開し、一気に複雑な術式を打ち込んだ。

 

 ――ピキィィィィィィン!!

 

 王都全域に設置されたマギ・アクセスポイントが、一斉に攻撃モードへと切り替わる。

 目に見えない魔導波の「檻」が、聖都から伸びていた教会の探知魔法をすべて『圏外』へと追いやり、聖域の結界の脆弱性を瞬時に解析スキャンして、座標を全軍へ共有した。


「……リリアーヌ。……準備は整ったようだな。……私の『氷結の巨神』号が、道を作る」


 ゼノス公爵が、私の腰を強く抱き寄せ、冷徹な一喝を放った。


「全艦、一斉点火! ……教会の石畳を、北海の底よりも冷たく凍らせてやれ!」


 ズドォォォォォン!!

 

 帝国の魔導砲が放たれ、夜空を青白い光が切り裂く。

 それと同時に、私の足元でずっと静かに怒りを溜め込んでいたシルが、これまでにないほど神々しい、白銀の光を全身から放ち始めた。


「……キュ、キュアァァァァァァァァァッ!!!」


 シルの咆哮が、物理的な衝撃波となって空気を震わせた。

 完全体となったシルの翼が羽ばたくたび、教会の『聖なる結界』に、まるでもろいガラスのようにヒビが入っていく。

 主人の「推し」を奪われた聖獣の怒りは、神の守護さえも紙屑かみくずのように引き裂いていく。


「……お嬢様。……影の航路、開通いたしました。……教会の連中が、自分たちの祈りが届かない暗闇に怯える姿、楽しみにしていてください」


 シオンが私の耳元で囁くと、軍艦の進む先に、巨大な影の道が空に敷かれた。

 その影の中では、いかなる教会の防御魔法も無効化され、ただリリアーヌの進撃だけが許される。


「……さあ、野郎ども!! ……私たちの『光』を、あのアナログな泥棒猫の手から奪い返しに行きますわよ!! ……全速前進ですわ!!」


 リリアーヌの高らかな号令と共に、黄金と鉄、そして漆黒の影が混ざり合った混成軍が、聖都へ向けて発進した。

 

 空を埋め尽くす艦隊の轟音は、旧王国の終わりと、教会の崩壊を告げる葬送曲。

 

 かつての悪役令嬢は、今や一国の軍隊を凌駕する「知の魔王」として、アリアという名の救済を求めて、神の懐へと殴り込みを開始した。


(待ってなさい、アリアちゃん! 今、私が貴女を縛るすべてのバグ(理)を、物理的に削除してあげますわ!!)


 夜空に尾を引く黄金の光。

 それは、リリアーヌが描く、最も贅沢で非情な『奪還作戦』の始まりだった。


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