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第37話:旧王国の降伏と、バカ王子の買収計画

 帝都エーテルヘルムの離れ。

 今日も魔導エアコンが最適な室温を保ち、窓の外では聖獣シルがアリア様と一緒に、冷たい噴水の前で涼しげに水遊びをしている。

 そんな平和極まりない光景の中に、場違いなほどに「汚れた」一団が、ゼノス公爵の騎士たちに引き立てられてやってきた。


 中心にいるのは、かつての輝かしい黄金の甲冑を影にボロボロにされ、泥にまみれたエドワード王子。

 そして、青ざめた顔で震える王国の重臣たちだ。


「……リリアーヌ。……旧王国の降伏使節団だ。……国境での軍の瓦解、そして王都での暴動。……彼らに、もはや抗う術はない。……第一王子エドワード、跪け」


 ゼノス公爵の氷のような命令に、エドワードは唇を噛み締めながらも、力なく石畳に膝をついた。

 かつて私を衆人環視の中で断罪し、アリア様を「偽物」と罵ったその男が、今は私の足元で、震えながら許しを乞おうとしている。


(……キ、キターー!! 『純七』における最大級のざまぁイベント、『王子の失墜』! これ、ゲームならここで彼を許す聖女ルートがあるけれど……。私は悪役令嬢リリアーヌよ? そんな生温いこと、するはずがないじゃない!)


 私は、シオンが捧げ持った冷たいアイスコーヒーを一口飲み、扇子を優雅に広げてエドワードを見下ろした。


「……あら、エドワード様。……随分とお顔の色が悪いようですわね。……三万の軍勢で帝都を火の海にするというお話、楽しみにお待ちしておりましたのに。……まさか、自分たちの影に怯えて逃げ帰ってくるとは、思ってもみませんでしたわ」


「……っ。……リリアーヌ、貴様……! ……何をした、我が軍に……我が民に、何を吹き込んだ! ……王都の食料が、魔石が……すべて枯渇しているのだぞ!」


「あら、私は何もしておりませんわ。……ただ、貴方が『無能』であることを、帝国の最新技術を使って世界中に高画質で配信してあげただけ。……そして、貴方が捨てた『聖女の加護』が、どれほど価値のあるものだったか……それを経済的に分からせてあげただけですわよ」


 エドワードの背後で、王国の重臣が泣きながら頭を床に擦り付けた。


「……リリアーヌ様! ……いえ、聖女様をお守りする真の女神様! ……どうか、どうか我が国への制裁を解除してください! ……このままでは、冬を越せずに民が、貴族が、飢え死んでしまいます!」


 ゼノスが冷ややかに鼻で笑った。


「……今更、命乞いか。……君たちが彼女を追い出した時、その『損失』を計算できなかった報いだ」


「……待って、閣下。……ただ滅ぼすだけでは、魔石の無駄ですわ」


 私は立ち上がり、エドワードの目の前まで歩み寄った。

 シオンがすかさず、私の汚れないように影の絨毯を足元に広げる。


「……エドワード様。……貴方を助けるつもりはありませんが、貴方の『国』には、まだ利用価値がございます。……そこで、提案ですわ。……旧王国を、私が『買い取って』差し上げますわよ」


「……買い取る、だと? ……国を、物のように……!?」


「ええ。……現在、旧王国の国家予算は底を突き、外債……すなわち帝国への借金は天文学的数字に達しています。……それを、私の個人的な資産――この数週間で稼ぎ出した、特産品の売上と特許料で、すべて肩代わりして差し上げます」


 サロンが、静寂に包まれた。

 

(……ふふふ。これがやりたかったのよ! 『国ごと買収』! エドワード王子を王位から引き摺り下ろし、旧王国を私の『個人的な工房兼、もふもふ牧場』に書き換えてやるんだから!)


「……その代わり、条件は三つですわ。……一つ、エドワード王子の廃嫡と、永久追放。……二つ、旧王国の魔導流通権のすべてを、私とゼノス閣下の共同管理に置くこと。……そして三つ目」


 私は、庭園でシルと遊んでいたアリア様を指差した。


「……三つ。……アリア様を『偽聖女』と呼んだすべての聖職者、および貴族は、全財産を没収の上、アリア様のライブ会場の『清掃ボランティア』として一生奉仕すること。……いかがかしら?」


「……そ、そんな……。屈辱だ……。あまりに……」


「……あら、嫌なら結構ですわよ? ……今すぐこの通信機で、旧王国のすべての魔導炉を遠隔停止させて差し上げますわ。……暗闇の中で、飢えと寒さに震えて滅びるのも、また一興ですわね?」


 私が『シル・フォン』を指先で弄ぶと、エドワードは絶望の表情で顔を伏せた。


「……わ、わかった。……承諾する。……すべて、貴様の……お前の思い通りだ、リリアーヌ……!」


「……よく言えましたわね。……シオン、契約書の準備を。……ああ、それから、エドワード様たちが帰る際の馬車、一番古い『エアコンなし』のものを用意して差し上げて。……外の暑さを、じっくり堪能しながら、自分の無能さを噛み締めていただきたいですもの」


「承知いたしました、お嬢様。……あのアホ王子の座っていた場所は、後で影で徹底的に消毒しておきますね」


 シオンが、完璧な執事の礼をしながら、獲物を憐れむような瞳でエドワードを見た。

 

 ゼノス公爵が、私の肩を抱き寄せ、耳元で愉しげに囁いた。


「……リリアーヌ。……君は、一国の王よりも冷徹で、そして誰よりも強欲だな。……帝国にとって、君を味方にしておいて本当に良かった。……さあ、祝杯を挙げようか。……旧王国の『買収完了』を祝して」


「あら、閣下。……祝杯の前に、買収した土地に、シルのための巨大なドッグラン……いえ、聖獣ランを建設する計画を立てなきゃいけませんわ」


 私は、呆然とする旧王国の使節団を尻目に、次の『推し活拠点』の設計図を脳内で描き始めた。

 

 悪役令嬢による、国家規模の「ざまぁ」。

 それは、復讐という名の、究極の「推し活環境整備」でもあった。


(見てなさい、エドワード。……貴方が守れなかった国を、私はアリアちゃんのための『楽園』に作り替えてあげるんだから!)


 太陽の光が、勝利したリリアーヌの背中を、眩しく照らし出していた。


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