表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/103

第25話:ライバル登場? 帝国一の天才魔導技師との対決

 帝都の離れ、私専用の魔導工房。

 そこは今や、アリア様への献上品(特産品)を生み出す聖域と化していた。

 だが、その静寂を、乱暴な靴音と理屈っぽい叫び声が切り裂いた。


「どけ! そこをどけ! 私は帝立魔導研究所の主任、アルベルト・フォン・シュタインだ! この屋敷に潜伏しているという『稀代の詐欺師』を、私の理論で論破しに来たのだ!」


 扉が勢いよく開け放たれ、一人の青年が飛び込んできた。

 銀縁の眼鏡を光らせ、白衣を翻す姿は、まさに『理系インテリ』そのもの。


(……あ、アルベルト! 続編でゼノス公爵に無茶振りされて過労死寸前まで働かされる、あの不憫可愛い眼鏡技師じゃない!)


 私は内面の興奮を抑え、優雅に魔導ペンを置いた。


「……随分と騒がしいお客様ですわね。シオン、この方に『お行儀』というものを教えて差し上げなさい」


「承知いたしました、お嬢様。……ちょうど、この男の口に影を詰めて、永遠に静かにさせて差し上げようと思っていたところです」


 シオンが音もなくアルベルトの背後に立ち、その首筋に冷たい殺気を当てた。

 アルベルトは一瞬で顔を青ざめさせたが、私の机の上に置かれた『聖女の吐息』の試作瓶を見ると、恐怖よりも学究心が勝ったのか、声を荒らげた。


「ひっ……!? だ、だが私は引かん! リリアーヌ・アステリア様、貴女だ! 貴女が作ったこのクリームの術式構成案を拝見した。……支離滅裂だ! 魔力流動が既存のガウス式を無視している。こんなものは、たまたま動いているだけの欠陥品だ!」


 アルベルトが机に魔導計算盤を叩きつける。

 

(……ふふ。既存の数式に縛られているわね、眼鏡くん。この世界の『魔法工学』は、まだ基礎体温……じゃなくて、基礎理論が未完成なのよ)


「あら、アルベルト様。……既存の式が間違っているとは考えないのかしら?」


「何……!? 我が帝国が百年かけて築いた理論を否定するのか!」


「否定はしませんわ。ただ、『古い』と申し上げているの。……シオン、彼が持っているその『魔導式自鳴琴オルゴール』を貸してくださる?」


 アルベルトの腰に下がっていた、帝国最新の魔導具。

 私はそれを受け取ると、蓋を開け、内部の複雑な魔導回路を一瞥した。


「……この音律維持の術式、第四階梯の同期がコンマ二秒ズレているわ。だから高音が僅かに割れるのよ。……それから、魔力の供給路が長すぎてロスが出ている。……こうして、ここをバイパスして、三進法で組み替えれば……」


 私は手近なピンセットを使い、アルベルトが心血を注いだであろう傑作の回路を、無慈悲に、かつ流麗に書き換えていった。


「な、何をしている! それは私が三年かけて……」


「――聴きなさいな」


 私がゼンマイを巻くと、そこから流れ出したのは、かつてないほど清澄で、魂を震わせるような完璧な音色だった。

 

「…………っ!? そ、そんな。音が……透き通っている。……術式密度が、私の計算の三倍以上に跳ね上がっているだと!?」


 アルベルトは眼鏡をずらし、自鳴琴に顔を近づけて絶句した。

 彼の『解析眼』(ゼノスほどではないが)が、私の書き換えた回路の「美しさ」を理解してしまったのだ。


「……私の理論が、間違っていた……? いや、そもそも私の理解を超えた、新しい『数学』がここに……」


 アルベルトがその場に膝をついた。

 彼は震える手で私のドレスの裾を掴もうとし、シオンの靴に踏みつけられた。


「……お嬢様に触れるな、下等生物」


「……リ、リリアーヌ様……っ! いえ、師匠! お願いします、今の術式の組み方を、私にご教授ください! 私は……私は、自分がどれほど井の中の蛙だったかを思い知りました!」


(チョロい! 眼鏡インテリ、攻略(弟子入り)完了!)


 私は勝ち誇ったように扇子で口元を隠し、高らかに笑った。


「あら、弟子なんて取らない主義ですわ。……でも、私の工房の『掃除』と『資材管理』を完璧にこなすなら、たまに数式を見せてあげてもよろしくてよ?」


「喜んで! 今すぐ帝立研究所の主任を辞任して参ります!」


「待て、アルベルト。勝手な真似は許さん」


 工房の影から、不機嫌そうなゼノス公爵が現れた。

 彼は、床に這いつくばる部下と、それを見下ろすリリアーヌ、そして殺意を放つシオンという地獄のような構図に、深く溜息をついた。


「リリアーヌ。……君は、私の最高の技師まで奪うつもりか」


「あら、閣下。有能な人材が私の元へ集まるのは、自然の摂理ですわ。……これで帝国の技術開発も、十倍は加速いたしますわよ?」


 ゼノスは呆れたように肩をすくめたが、その瞳には「リリアーヌがいれば、帝国は無敵になる」という確信が宿っていた。


「……シオン。この眼鏡を客室へ放り込め。……明日から、彼はリリアーヌの『雑用係』だ」


「……承知いたしました。……まずは、影の中で『主人への絶対服従』を叩き込んでおきます」


 シオンがアルベルトの襟足を掴み、影の中に引きずり込んでいく。

 

(……ふふ。これで帝国の公的機関(研究所)とのパイプもできたわ! 特産品開発の量産体制、これで完璧ね!)


 私は、自分への新たな「崇拝者(被害者)」が増えたことを喜びつつ、次のプロジェクト――アリアちゃんを輝かせるための『光る舞台衣装』の開発に戻ることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ