第21.5話:夢に見るのは、異世界の聖地と限定グッズ
深い、深い眠りの中。
私は、懐かしい「戦場」に立っていた。
コンクリートの巨大な建物。夏の湿り気を帯びた熱風。そして、視界を埋め尽くすほどの大行列。
私の手には、使い込まれたイベントカタログと、軍資金が詰まった財布が握りしめられている。
(……あ、これ、ビッグサイトだ! しかも『純七』の公式ファンイベント当日じゃない!)
前世の私、佐藤結衣は、一人のオタクとしてこの日を待ちわびていた。
狙うは、会場限定100セットの「シオン・アステリア抱き枕カバー(描き下ろし・添い寝ボイスCD付き)」。
「……列が、動かない……。でも、耐えるわ。推しのためなら、五時間の待機なんて瞬きの間に過ぎない……!」
地面から這い上がる熱気に耐え、周囲の猛者たちの熱気に飲まれそうになりながら、私はひたすらスマホの攻略Wikiを眺めて精神を安定させる。
だが、不意に視界が歪んだ。
目の前に、なぜか「完売」の二文字が踊る看板が掲げられる。
「嘘よ……! あと五人で私の番だったのに! 私の添い寝シオンがぁぁぁ!!」
絶望に打ちひしがれ、アスファルトに膝をついた瞬間。
背後から、聞き覚えのある低く甘い声がした。
「……お嬢様。そんなに悲しまないでください。……私が、ここにいるではありませんか」
振り返ると、そこには白衣を着た現代パラレル風のシオンが、本物の「抱き枕」を抱えて立っていた。
「シオン!? なんでここに……」
「……この絵の中の私よりも、生身の私の方が、もっと可愛がって差し上げられますよ? さあ、帰りましょう。……この行列の全員の記憶を消して、世界を二人きりにしたっていい……」
シオンの手が、私の頬に触れる。
その瞬間、イベント会場の喧騒がスッと消え、私は地下工房の椅子の上で跳ね起きた。
「……ハッ!? 完売!? 私のシオン……っ!」
「……お嬢様。何が完売なのですか? 私は、売るほど安いつもりはありませんが」
目の前には、夢の中の白衣姿ではなく、完璧な執事服に身を包んだ「生身の」シオンが、怪訝そうな顔で私を覗き込んでいた。
(……ああ。夢か。……良かった、シオンはここにいたのね。……でも、あの添い寝ボイス、ちょっとだけ聴きたかったかも……)
私は額の汗を拭い、再び魔導回路の設計図に向き合った。
推しが実体として隣にいるという事実に、改めて「転生最高」と心の中で小さくガッツポーズをしながら。




