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観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第九章 静かな日々が結ばれるとき

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第八話 繋がりを結ぶ準備

フォルティナが王都の喧騒を離れ、領地フォルツへと帰還したのは、当初の予定よりも数日早いものだった。


街の喧騒が遠のき、見慣れた景色が目に入る。

屋敷の重厚な扉をくぐったその瞬間、ようやく息を吐く。


帰ってきた――


その実感と共に、肩に乗る責任の重さもまた戻ってくる。


◆◆◆


執務室


外套を脱ぎ、執務室の椅子に深く腰を下ろした彼女の視界に入ってきたのは

整然と並ぶ書類と、机の片隅に置かれた

「中央監察局」の刻印が入った封書だった。


――橋渡し役


中央監察局からフォルティナに定められた正式な立場

空白地帯の主である「静」

そしてその傍らにいる観測の聖女「セリナ」


近づきすぎてもいけない

離れすぎても意味がない


干渉せず、しかし断絶もしない。


その距離を保つこと。それが自分に託された役目だった。


だが――


目を閉じれば浮かんでくるのは、あの屋敷で過ごした暖かな時間。


静の穏やかな眼差し

セリナが淹れてくれた香りの良いお茶

足元でじゃれ合っていたツキやあかね

そして、《ルミナ・ヴェール》の面々が交わしていた屈託のない笑い声


そこにあったのは政治でも秩序でもなく――

ただの暮らしだった。


何気ない会話、共に過ごす食事の時間

それらが作り出す空気はどこか懐かしくて、そして――

守るべきものだと、強く感じさせた。


ふと思い出す。


静から提案された事を思い出す

炊き出しと簡易的な診療の場

困っている誰かに手を差し伸べるという純粋な善意


フォルティナはゆっくりと顔を上げた。

その瞳からは迷いが消え、意志の光が宿っていた。


これは力を示すためのものではない。

人と人を結ぶ、小さな繋がりになるはずだ。


◆◆◆


数日後、フォルティナの迅速な手配により準備は整った。


仮設診療所の場所として確保したのは

フォルツの中心部からわずかに離れた、人通りの多い広場の一角

炊き出しのための大鍋、薪など資材も手配を終えている。


あとは――静たちの都合を聞き、日程を決めるだけだった


フォルティナは机の上に置かれた、対となった通信魔道具を手に取った。

それは魔力を流し込むことで、特定の相手に短文を送ることができる

貴重な古代遺物の模倣品である。


彼女は慎重に魔力を込め、文字を綴っていく。

――《準備完了》

――《相談希望》


短く、簡潔に余計な言葉は要らない。


◆◆◆


所変わって王都の一角

冒険者ギルドの最上階


フレイアはデスクの上で淡い光を放った魔道具を取り出した。


受信内容を確認し彼女の口角がわずかに上がる。

「仕事が早いわね、ティナは」


彼女はすぐに返信の魔力を込める。


――《受信》

――《詳細?》


◆◆◆


フォルティナの元に数分と待たず、返信が届く。

すぐに短く返答。


――《場所確保》

――《診療可》

――《炊き出し準備済》


少しだけ迷い――それでも必要なことだと判断して追加する。


――《日程調整必要》


◆◆◆


「そうよね。あっちの都合を聞かなきゃ始まらないわね」

フレイアは小さく笑った。


――《了解》

 《静側確認》


彼女は別のより高度な秘匿性が保たれた魔道具を取り出す。


――《フォルツ準備完了》

――《日程相談希望》


◆◆◆


空白地帯の静の屋敷


アリアが通信を受け取り、静とセリナへ伝えると

自然と相談が始まった。


「ついに始まるんですね、炊き出し」

セリナが期待に満ちた表情で静を見やる。


そんなセリナに静が聞く

「あまり急ぎすぎて準備不足になるのも良くないし……

 いつ頃がいいかな?」


セリナは少し考え、ふわりと微笑んだ。

「一週間後くらいが準備にも余裕があって良さそうですね。」

「それと……子どもたちにも喜んでもらえるように

 焼き菓子も少し用意しましょうか」


その言葉に、三匹が一斉に反応した。


ツキが「にゃ」と尻尾を揺らし

ルゥが「くぅ……」と嬉しそうに喉を鳴らし

あかねが「きゅっ」と小さく跳ねる


その可愛らしい合いの手に、皆が思わず笑みをこぼす。


「……決まりだね。一週間後にしよう」


静が穏やかに微笑み、場の空気がさらに柔らかくなる。


アリアはそれを確認し、手早く返信を打ち込んだ。


――《一週間後希望》


◆◆◆


王都、冒険者ギルド


フレイアはその返信を確認すると、即座にフォルティナへ情報を転送した。


――《静側》

――《一週間後可》


フレイアの手はそこで止まらなかった。

文字だけでは肝心な「温度」が伝わらない。

今回の件は単なる業務連絡以上の意味を持っている。


少し間を置き、彼女は追加のメッセージを送る。


――《直接相談希望》


◆◆◆


フォルツの執務室


フォルティナはその六文字を見て少しだけ驚き、それから深く納得した。

フレイアの言いたいことはわかる。

これは王都、フォルツ、そして空白地帯。

三つの拠点が初めて協力して行う一歩なのだ。


彼女は迷わず、一言だけ返した。


――《歓迎》


◆◆◆


王都

フレイアは魔道具を机に置いた。


文字だけでは足りない。

顔を合わせてこそ整うものがある。


彼女はサブマスターのレオンへ視線を向けた。

「レオン、フォルツまで行ってくるから、あとの差配は任せたわよ」


レオンは静かに頷いた。

「承知しました、お気をつけて。」


◆◆◆


こうして――

一つの小さな準備が整った。


それは大きな計画ではなく、お腹を空かせた誰かに温かいスープを出し

傷ついた誰かの痛みを和らげるためのただそれだけの場。

けれど人と人を結ぶ、繋がりの始まり。


イメージソングを作成してみました。

もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。

物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。

https://suno.com/@10monoshin8


カクコムでも先行掲載しています。

もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

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