第一話 王都へ、報告の始まり
王都ルミエール
転移を終えたフォルティナとフレイアは、王宮へ向かう前に
王都冒険者ギルド本部へと足を運んでいた。
王都ギルド――フレイアが統括するルミエール本部
フォルツ訪問の間、その留守を預かっていたのはサブマスターであるレオン
冷静沈着な実務家、現場を知りながら組織の調整もこなす
フレイアが最も信頼を置く副官の一人だった。
扉をくぐった瞬間、受付の視線がわずかに動き
すぐに奥からレオンが姿を見せた。
「ギルドマスター」
深く一礼する
「お帰りなさいませ」
その声音は、いつも通り落ち着いていたが、わずかに安堵が滲んでいる。
予定よりも一週間以上早い帰還。
何かあったのではないかと、内部でも憶測が飛び交っていたのだろう。
フレイアは軽く頷いた。
「留守、ありがとう」
レオンは短く首を振る。
「問題ありません」
「ただ――」
一瞬、フォルティナへ視線を向け、すぐに言葉を止めた。
事情がある。
それ以上を問うべきではないと、瞬時に判断したのだ。
フレイアはそれを受け取り、簡潔に告げる。
「報告があるわ」
「緊急扱いで」
レオンの表情がわずかに引き締まる。
「承知しました」
◆◆◆
上層の応接室
外部向けではなく、本部中枢の会議にも使われる部屋だった。
重厚な木製のテーブルと壁一面に並ぶ書架
この部屋で多くの重要な決定が下されてきた。
レオンが同席する。
留守を預かった代理として、報告の正式な受領者となる立場
フレイアは簡潔に話した。
空白地帯への訪問
接触の成立
敵意の不存在
そして――友誼の形成
評価は加えない
事実のみ
レオンは最後まで黙って聞いた。
その間一度も口を挟まない。
表情も変えない。
ただ、すべてを受け止めている。
話し終えた後、彼はゆっくりと問いかけた。
「……敵対の兆候は?」
フレイアは首を振る。
「ないわ。少なくとも、私たちが見た限りでは」
レオンは静かに頷く。
「理解しました」
一拍置いて、視線をフォルティナへ
「領主としての判断を、信頼に足るものと受け取ってよろしいですね?」
それは確認であり、同時に敬意でもあった。
フォルティナは小さく頷く
「はい」
レオンはすぐに応じた。
「では、教会中央監察局および王宮外務局へ、準備段階の通知を行います」
「内容は最小限で」
フレイアが言う。
「ええ」
レオンは即座に理解する。
主導は王国側にあるべき、ここでギルドが先走るべきではない。
「承知しました」
その判断の速さにフォルティナは内心、静かに驚いた。
(……さすが)
フレイアが信頼する理由がよく分かる。
無駄に詮索せず、必要なことは確実に押さえる。
◆◆◆
報告の準備のため、レオンが席を外すと応接室に静けさが戻った。
フォルティナは背もたれにわずかに身を預けた。
胸の奥に小さな重みがある。
友誼を結べた事、それは確かだ。
だが――
(どう伝える?)
静たちの在り方を
敵ではないと
脅威ではないと
そして、関係を築く価値があると
誤ればただの楽観と取られる。
強すぎれば過剰接触と受け取られる。
(……領主として)
正しく言葉にしなければならない。
無意識に指先に力が入る。
それに気づいたフレイアが隣に腰を下ろした。
「……そんなに構えなくていいわよ」
フォルティナは視線を向ける。
フレイアは小さく笑った。
「ここまでは上出来よ」
「……でも」
「でも、じゃないわ」
軽く肩をすくめる。
「あなた一人で背負う話じゃないでしょ」
「私も見たわ」
その言葉はギルドマスターではなく、フレイとしてのものだった。
フォルティナの胸の奥が、少しだけ軽くなる。
「……フレイ」
フレイアは続けた。
「そんな固くならなくて大丈夫」
そして、静かに
「私がついてる」
その一言が不思議なほど、安心をくれた。
フォルティナは小さく息を吐き
「……ありがとう」
とだけ言った。
窓の外を見る。
王都の街並みが広がっている。
人々が行き交い、日常が続いている。
(……この街も守りたい)
そして空白地帯の穏やかな日常も、両方を守るために正しく伝える。
◆◆◆
やがてレオンが戻る。
「王宮外務局より、正式召喚準備に入るとの返答です」
やはり早い。
王宮もこの報告を待っていた。
フォルティナはゆっくり立ち上がる。
胸の重みは消えていない。
だが――
(大丈夫)
一人ではない
「行きましょう」
フレイアも立ち上がる。
「ええ」
王都ギルドを後にし、二人は王宮へと向かった。
街路は賑やかだ。
商人が声を上げ、子供たちが走り回っている平和な光景。
その平和を守るために、フォルティナは静かに決意を固める。
友として
そして――それぞれの責務を背負う者として
王宮の白い壁が近づいてくる。
フォルティナは深く息を吸う
(……ここから、始まる)
報告が未来を変える
それを信じて、二人は王宮の門をくぐる。




