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観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第八章 静かな理解と選ばれた距離

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閑話 神は応え声は揺れる

その祈りは確かに――届いた


観測の女神ルーナフィリスは、いつもよりほんのわずかに目を見開く


(……これは)


人の祈りが神域へ届くこと自体は珍しくない。

だが今回のそれは質が違った。


澄み切っていて、歪みがなく、何より――

観測を必要としない祈りだった。


(セリナ……)


聖女セリナ

自らを誇示せず

神に問いを投げつけることもなく

ただ「届くならば、届けたい」と願った祈り


ルーナフィリスはほんの一瞬、静かに息を整えた。


(……大きいわね)


事の大きさに驚きがなかったわけではない。

それでも同時に理解もあった。


(空白地帯の主と共にある理由がよく分かる)


祈りを受け取ったまま、ルーナフィリスは視線を巡らせる。


問題になっているのは、三つ

そのうち一つはすでに解決している


――観測の聖女について

これは《ルミナ・ヴェール》の判断もあり

人の側でも「正しい配置」として受け止められている。

問題は残りの二つだった。


◆◆◆


「……フレアリア」


名を呼ぶと、火属性神フレアリアが少し弾んだ気配で姿を現した。


「なに、姉さん?」


どこか機嫌が良さそうなのは、隠しきれていない。

紅の髪が、柔らかく揺れている。


「あなたの神託について確認したいの」


フレアリアは首を傾げ、あっさりと言った。


「え?ああ、あれ?」


『炎晶の焔守護竜が、生まれた』

『それは、争いのために在らず』

『探すな、呼ぶな、害するな、ただ、知れ』


「あの子が生まれて、嬉しかったから伝えただけよ?」


悪びれもなく、むしろ当然のように


「争わせる気も、誰かに探させる気もないし」

「ただ、"そういう存在が生まれた"って知らせただけ」


ルーナフィリスは、静かに頷いた。


(やはり)


「問題はないわ。ただ――」


「"焔守護竜"という言葉が、人の側で少し先走った解釈をされたようね」


フレアリアは一瞬考え、それから肩をすくめた。


「まあ……それは、ありそう」


人は、神の言葉に意味を求めすぎる。

そして過剰に解釈する。


「じゃあ、"守護を行う存在として生まれた"それだけでいいわね?」


「世界を陰ながら見守る。それ以上でも、それ以下でもない」


「うん、それでいいと思う」

あっさりと合意が取れた。


「姉さん、それならすぐに神託を出すわね」


フレアリアは集中し、真剣な表情で紡ぐ。


『炎晶の焔守護竜はただ"守るため"に生まれた。争いを求めず、誰の敵にもならない。その在り方こそ、静かなる守護の証である。』


「よし!これで大丈夫!姉さん、あとは任せたわね」


フレアリアは一仕事終えた、といった様子でその場を後にする。


それを見て苦笑しながらも、ルーナフィリスはもう一柱を呼ぶ。


◆◆◆


「……ルートミア」

少し間があり、土属性神ルートミアが現れる。


その表情はどこか困惑している。

土色の瞳がわずかに揺れていた。


「……聞いている」


声に微妙な戸惑いが混じっていた。


「私は……神託など行っていない」


「……分かっているわ」


ルーナフィリスは即答する。

「あなたが発したのは、ただの"思念"ね」


ルートミアは小さく頷いた。


「……あの時の食事が……とても美味しかった」

「力と力が混ざり合って、調和して……」

「素直に"良い"と思っただけ」


それが人の側では――


『カレート・ハン・バーグは、最凶の存在』

になってしまった。


「……なぜ、そうなる」


ルートミアは本気で困っており、その表情には珍しく感情が浮かんでいる。


「それは……」

ルーナフィリスは少しだけ言葉を選ぶ。


「"神託"という言葉に、人が重みを乗せすぎただけ」


沈黙


神の何気ない感想が人の世界では

「神託」として受け取られる。

それは仕方のないことだ。

だが今回はその誤解が大きすぎた。


しばらくして、ルートミアがぽつりと言った。


「……誤解は……解いた方がいい」


「ええ、お願いするわ」


「……新たに神託を行う」


ルートミアの提案に、ルーナフィリスは静かに了承した。


内容は短くていい

明確で、だが断定しすぎない言葉

人が受け止められる形で

ルートミアはゆっくりと言葉を紡ぐ


『……案ずるな』

『神の声は……時に、揺れる』

『カレート・ハン・バーグは……災厄ではない』

『力が混ざり……ひとつになる……調和のしるし』


「……それでいい」


ルーナフィリスはその言葉を静かに受け取った。


(十分ね)


これで人の世界の混乱は少しずつ収まるだろう。


◆◆◆


祈りは届いた。

誤解は整えられ、神は世界を導かない。

ただ壊れないように見守る。

人が壊さないように、少しだけ――手を添えるだけ。


ルーナフィリスは再び視線を人の世界へ向けた。


空白地帯の奥。祈りを捧げる少女と

その傍らにある"在り方"を思いながら


(セリナ……あなたの祈りは、確かに届いたわ)


その想いは言葉にはならない。

だが確かに伝わるだろう。


光は静かに流れ、神域は再びいつもの静けさへ戻っていく


フレアリアの神託

ルートミアの訂正


それらはやがて人の世界へと降りていく。


世界を揺るがした二つの神託

その真意がようやく正しく伝えられる


ルーナフィリスは小さく微笑んだ。


(静……あなたの作る料理が、こんなにも世界を混乱させるなんてね)


それは誰にも聞こえない独り言

だがその声には確かに、温かさが滲んでいた。


神域の時間はゆっくりと流れている

人の世界とは違う速度で

確かに繋がっている


祈りを通じて

想いを通じて

そして――料理を通じて


ルーナフィリスはもう一度だけ人の世界を見つめた。


(……また、届けてくれるかしら)


次はどんな料理が神域に届くのか

そんなことを考えながら、女神は静かに微笑んだ。

イメージソングを作成してみました。

もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。

物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。

https://suno.com/@10monoshin8


カクコムでも先行掲載しています。

もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

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