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観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第八章 静かな理解と選ばれた距離

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第四話 支配ではなくい在り方

屋敷の中は不思議なほど静かだった。

物音がないわけではない。


風が通り、木が軋み、どこかで小さな足音がする。

それでも騒がしさとは無縁の空気が、すべてを包み込んでいる。


フォルティナはその静けさの中で、ずっと気を張ったままだった。


威圧されているわけではない

緊張を強いられているわけでもない

それでも――気が抜けない


静は特別な説明もなく、ただ屋敷の奥へと歩いていく。

振り返らない、急かさない。


「……こちらです」


それだけを告げて進む


フォルティナは一瞬だけ足を止め、その背中を追った。


背は高くない。体つきも細く、どこか中性的な印象すらある。


空白地帯の主

教会と王国が明確な言葉にできないまま恐れてきた存在


そう知っているはずなのに、目の前の人物から威圧的な気配は感じられなかった。


――なのに


この場そのものが彼を中心に成り立っているような

感覚だけがはっきりと伝わってくる。


◆◆◆


屋敷の奥へ進む途中、フォルティナは思わず足を止めた。

小さな礼拝堂が視界に入ったのだ。


扉は開かれており、中には柔らかな光が満ちていた。

朝日が差し込んでいるだけのはずなのに

その光はどこか特別なものに見える。


祭壇の前で一人の少女が祈りを捧げている。


儀式めいた動きはない

定められた文言を唱えている様子もない


ただ静かに、自然に、そこに立ち祈っている。


――それだけなのに


フォルティナの胸がわずかに締めつけられた。


(……なに、これ……)


エルフでもない

魔力に敏感な体質でもない

ただの人間である自分にすら、はっきりと分かる

この空間は――神聖だ


神殿に足を踏み入れたときに感じる、厳かな空気とは違う

権威でも信仰の重みでもない

もっと静かで、もっと深い


空間そのものが、「見られている」ことを拒まず

選ばれた者しか立たせないような感覚


少女の祈る姿がひどく――

神々しく見えた


(……教会の聖女とは……違う)


そう思った自分にフォルティナは驚いた。


違いは形式ではない

衣装でも、儀礼でも、立場でもない

――格が……違う


理由は分からない。

各国にあるどの神殿で見た聖女よりも

この少女の祈りは明らかに"上"に感じられた。


(……知らないはずなのに)


知識としては何も持っていない。

それでも身体が理解してしまう。


「……すごい……」

思わず漏れた声は、自分でも驚くほど小さかった。


その横でフレイアは一瞥しただけで、特に何も言わない。

まるで当然のことのように受け入れている。


静もこの光景を特別なものとして扱っていない。

それがフォルティナにとっては、さらに異様だった。


――この神聖さがこの場所では"日常"なのだ。


「……行きましょうか」


静の声にフォルティナははっと我に返った。

礼拝堂から目を離し、改めて屋敷の奥へと足を進める。

胸の奥に、言葉にならない感覚を抱えたまま。


◆◆◆


部屋に通され席に着く。

静は向かいに腰を下ろし、何も言わずに待っていた。


沈黙


フォルティナは背筋を正す


ここは対話の場


「――あらためて、フォルツ領主 フォルティナ=フォルツ=リーネと申します」

声は少しだけ震えていたが言葉は明瞭だ。


教会中央監察局

王国

正式訪問であることを、一つずつ言葉にする。


静は最後まで遮らず、ただ聞いていた。

穏やかな表情のまま目を逸らさずに


言い終えたときフォルティナは

自分の喉が乾いていることに気づく。


静は少し考え、それから柔らかく微笑んだ。

「ちゃんと話してくれて、ありがとう」


その一言でフォルティナは悟った。


――この人は支配者だ


人を従わせるための支配者ではない


「……恐れていました」


自然と言葉が零れた

「空白地帯を……そして、その主という存在を」


静は否定しない


「そうだと思います」


短い言葉


「ここは知らないと……怖い場所……らしいですよね」


静は苦笑しながら答える。言い訳でも、説得でもない。

ただの事実として告げられた言葉に、フォルティナは息を呑んだ。


「では……」


勇気を振り絞り問いかける


「なぜ、迎えに来てくださったのですか?」


静はほんのわずか考えてから答えた。


「……たぶんこの場所が怖いんじゃないかと思ったので」

「それに空白地帯の境界を越えるのは、誰だって躊躇すると聞いていました」


そして、付け加えるように


「それに……フレイアさんが一緒だったから、信頼できるかなと思って」


隣でフレイアが小さく笑う


「やっぱり、そういう人よね」


静は肩をすくめる。


「今日は軽く話すだけにしましょうか。

 きっと気を張っていて疲れもあるでしょうし」

「判断は急がなくていいんじゃないかと思います」

「まずは疲れを取って、明日ちゃんとした話をしましょう。

 答えられることはお答えしますので」


その言葉を聞きながら、フォルティナは思った。

この方は想像していたような、支配者のような人ではない。


優しく気遣いのできる普通の人……


この場所は、確かに支配されているエリア

しかしそれは――

壊さないための在り方なのだと


絶対に敵対してはいけない

この方の周りを乱してはいけない

それだけは、はっきりと理解できた。


◆◆◆


その後、静は二人を客室へと案内した。

「少し休んでください。夕食の時間になったら、また声をかけますので」


フォルティナは深く頭を下げる。

「ありがとうございます」


静が部屋を出ていった後、フォルティナはベッドに腰を下ろした。


(……信じられない)


空白地帯の主

未知の存在

世界が恐れる脅威


そう聞いていたのに


(あんなに……普通の人)


いや、普通ではない

この屋敷の神気、礼拝堂の聖女、すべてが異常だ

だが静本人は


(……優しい人だった)


フォルティナは窓の外を見つめた。


空白地帯の風景が、静かに広がっている。

(ここは……敵対する場所じゃない)

そう、確信した。


隣の部屋ではフレイアも同じことを考えていた。


(やっぱり、静は静ね)


力を持っていても、それを振りかざさない。

誠実に穏やかに、ただそこにいる。


(……だからこそ、守らないと)


フレイアは静かに拳を握った。

この場所を、この人を、世界の誤解から守る。

それが、今の自分にできることだと。


夕方の光が屋敷を優しく照らしていた。

イメージソングを作成してみました。

もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。

物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。

https://suno.com/@10monoshin8


カクコムでも先行掲載しています。

もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

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