第二十三話 優しい光と香ばしい導き
第二十三話 優しい光と香ばしい導き
倒れ込んでいる女の子の元へと一番に駆けつけたセリナは、膝をついて優しく女の子を抱き起こした。
「大丈夫ですか?どこか痛いところはありますか?」
優しく静かな声で語りかけながら、セリナは手際よく女の子の全身を確認し、怪我の状態を確かめる。
セリナと一緒に駆けつけたツキやルナ、サンも、泣いている女の子を慰めるようにそっと身体を擦り寄せたり、「にゃぁ」「くぉん」と温かな声を掛けたりして気を紛らわせようとしていた。
ツキは女の子のすぐ隣にちょこんと座り、心配そうに顔を覗き込んでいる。
ルナは小さな尻尾をゆっくりと振りながら、女の子の手元へ鼻先を近づけた。
その上空ではサンが「ぴぴっ」と小さく鳴きながら、ふわふわと翼を羽ばたかせている。
あまりの可愛らしさとセリナの優しい温もりに、女の子も次第に落ち着きを取り戻してきたのか、涙を拭いながらぽつりと答えた。
「お、おねえちゃん……足が痛いよぅ……っ」
「すぐに治してあげるからね。痛いの、飛んでいけー」
セリナは女の子の目線に合わせて優しく微笑み、怪我をしている膝へそっと手をかざした。
「少しだけ、温かくなりますからね」
「う、うん……」
女の子が小さく頷く。
セリナの手のひらから、淡く温かな光の粒子がふわりと溢れ出し、擦りむいていた膝の傷口を優しく包み込んでいく。
痛みを和らげるように、じんわりとした温もりが膝から身体へ伝わっていく。
「……あったかい……」
女の子が驚いたように呟く。
セリナは安心させるように微笑みながら、しばらくそのまま手をかざしていた。
光がすっと消え去った頃には、赤くなっていた皮膚は元通りの綺麗な肌へと戻っていた。
「あっ……! 痛くない……!」
女の子は目を丸くして驚き、自分の膝をさすったあと、セリナを見上げてパッと顔を輝かせた。
「おねえちゃん、ありがとう!」
「どういたしまして。ふふ、他に痛いところはありませんか?」
「うん! もうどこも痛くないよ!」
元気いっぱいに答える女の子に、足元のツキたちも「にゃ」「くぉん」「ぴぴっ!」と嬉しそうに声を重ねた。
女の子はそんな三匹を見つめ、先ほどまで涙で濡れていた瞳をぱっと輝かせた。
「わぁ……可愛いなぁ!」
女の子が小さな手を伸ばし、まずはツキの頭をそっと撫でる。
ツキは逃げることもなく、気持ちよさそうに目を細めて喉を鳴らした。
「にゃ……」
「ふふ、気持ちいいの?」
女の子が嬉しそうに笑う。
その隣では、ルナが自分も撫でてほしいと言わんばかりに、女の子の手元へ頭を寄せていた。
「こっちの子も?」
「くぉん!」
ルナは嬉しそうに尻尾をふりふりと振る。
「わぁ、ふわふわ!」
女の子が両手で優しく撫でてあげると、ルナはさらにご機嫌になった。
その様子を見ていたサンも「ぴぴっ!」と元気よく鳴きながら、女の子の頭上を小さく旋回する。
「わぁ! 小さな鳥さんも飛んでる!」
女の子が空を見上げると、サンは嬉しそうに羽をパタパタと揺らした。
「ぴぴっ!」
「可愛いー!」
女の子の明るい声に周囲にいた子どもたちも興味を引かれたようだった。
「何してるの?」
「わぁ、猫ちゃんがいる!」
「こっちの子、ワンちゃん?」
「あっ、鳥さんもいるよ!」
その光景をきっかけに、周りで遊んでいた子どもたちがわらわらと集まってくる。
「お姉ちゃん、魔法で怪我を治しちゃうなんてすごい!」
「この黒猫ちゃん、毛並みがすごくツヤツヤしてる!」
「わぁ、こっちのワンちゃんも撫でていい!?」
「鳥さん、触れるかな?」
一気に集まってきた子どもたちに、ツキたちも少しだけ驚いたように顔を上げた。
セリナはそんな様子を見て、くすりと微笑む。
「ふふ、みんな一度に触るとびっくりしちゃいますから、順番に優しく撫でてあげてくださいね」
「はーい!」
子どもたちは素直に返事をすると、我先にと騒ぐのをやめて、きちんと順番を作り始めた。
最初にツキを撫でた男の子が、
「すごい! 本当にふわふわだ!」
と声を上げる。
次の子がルナの背中をそっと撫でれば、
「この子、尻尾が嬉しそうに動いてる!」
と笑い声を上げる。
サンが頭上を飛ぶたびに、
「ぴぴっ!」
「また飛んだ!」
と子どもたちから歓声が上がった。
さっきまで泣いていた女の子も、すっかり元気を取り戻している。
「お姉ちゃん、本当にありがとう!」
「ふふ。元気になってくれて良かったです。でも、今度から走る時は前をよく見てくださいね」
「うん!」
女の子は元気よく頷いた。
「みんなと遊ぶのは楽しいですから、怪我をしないように気をつけて遊んでくださいね」
「はーい!」
子どもたちの明るい返事が広場に響いた。
あっという間にセリナとツキたちは子どもたちの人気の中心となり、温かな笑顔の輪が広がっていく。
少し離れた場所でその様子を見守っていた静たちも、ホッと胸を撫でおろしていた。
「大怪我じゃなくて本当に良かったね」
静がそう呟くと、フォルティナも穏やかな笑みを浮かべる。
「ええ、本当に。……それにしても泣いている子を見て真っ先に駆けつけるなんて、セリナさんはやっぱり優しい方ですね」
フォルティナが深く感銘を受けたように微笑むと、フレイアも頼もしく頷いた。
「そうねぇ。セリナさんはこういう時、何も考える暇もないくらい自然に身体が動く人なのよね」
「本人にとっては、ただ助けてあげたいと思っただけなのでしょうけれど……」
フォルティナは子どもたちに囲まれて微笑むセリナを眺めながら、どこか嬉しそうに続ける。
「その優しさが、こうして周りの人たちまで笑顔にしているのですね」
静もその言葉に頷きながら、楽しそうに子どもたちと触れ合っているツキたちへ視線を向けた。
「うん。セリナらしいよね」
やがて子どもたちとの別れの時間が近づくと、セリナは一人ひとりに優しく声を掛けていった。
「みなさん、今日は一緒に遊べて楽しかったです。でも、転ばないように気をつけてくださいね」
「うん!」
「お姉ちゃん、また来てね!」
「猫ちゃんたちもね!」
「鳥さんも!」
子どもたちの声に、ツキは「にゃ」と鳴き、ルナも「くぉん」と応える。
サンも「ぴぴっ!」と一声鳴いて羽ばたいた。
最後まで手を振って見送る子どもたちに、セリナも笑顔で手を振り返す。
◆◆◆
子どもたちに丁寧にお別れを告げ、セリナが少し照れくさそうに静たちの元へと戻ってきた。
「申し訳ありません、静様。泣いているのを見たら、放っておけなくて……」
「ううん、全然問題ないよ。セリナらしくて素敵だねって、フォルティナさんたちと話していたくらいだしね。ツキもルナもサンもお疲れ様」
「「「にゃー!」「くぉん!」「ぴぴっ!」」」
静に撫でられ、幼体たちも満足そうに誇らしげな声を上げた。
セリナは少しだけ恥ずかしそうに頬を緩める。
「ありがとうございます、静様」
「うん。それに、あの子も最後には笑ってくれてたからね」
「はい。元気になってくれて、本当に良かったです」
セリナは先ほどまで子どもたちがいた広場を振り返る。
そこには何事もなかったかのように、子どもたちが元気いっぱいに走り回ってる。
その光景を見たセリナは安心したように微笑んだ。
ちょっとしたハプニングもあったが、一行は再び昼過ぎの集合場所である中央広場へ向かって歩き出す。
「さてと、昼過ぎの集合時間までまだ少し時間があるし、せっかくだから何か食べていこうか」
静がみんなを見渡して提案すると、セリナが嬉しそうに目を輝かせた。
「静様、それなら通りに並んでいる出店や屋台で、色々買って食べてみませんか?」
「いいわね! きちんとした食堂に入るのも良いけれど……このあたりの出店って、歩いているだけで立ち昇ってくる香りがすごく魅力的なのよね。ティナも、普段の領主館では食べられないような活気ある屋台料理を体験できて楽しいと思うわよ?」
フレイアの言葉に、フォルティナも興味津々に頬を緩めた。
「まあ、それはとても素晴らしい考えですね! みなさんが普段どのような美味しいものを召し上がっているのかも分かりますし、とっても楽しみです」
「よし、じゃあその辺りで色々買って食べてみようか。……美味しいお店を見つけるのはツキが得意だよね。ツキ、頼めるかい?」
「にゃにゃ!」
任せてと言わんばかりに胸を張ったツキは、その場で鼻先をクンクンと動かし、周囲の香りを念入りに探り始めた。
「にゃっ!」
やがて何か魅力的な香りを捉えたツキは、しっぽをぴんと立ててみんなを先導するようにトコトコと歩き出した。
「ふふ、ツキが何か良いお店を見つけたようですね」
セリナが楽しそうに笑いながら後を追う。
「これは期待できそうね」
フレイアも笑いながら歩き出し、フォルティナも興味津々にツキの後ろ姿を見つめた。
「いったい、どんなお店を見つけてくれたのでしょう?」
静たちはそんな会話を交わしながら、ツキの後を追って香ばしい匂いの漂う通りを進んでいく。
しばらく歩くと風に乗って漂ってくる香りが次第に強くなってきた。
香ばしく焼き上げられた生地の匂い。
その奥から漂ってくるジューシーな肉の焼ける香りや、溶けたチーズの濃厚な香り。
「わぁ……これは美味しそうな匂いですね」
セリナが思わず足取りを速める。
「にゃ!」
ツキも嬉しそうに尻尾を揺らしながら、匂いの元へ向かっていく。
やがて一行は香ばしく焼き上げられた生地と、肉やチーズの食欲をそそる匂いがふんわりと立ち昇る、活気あふれる一軒の出店の前へと辿り着いた。




