第十九話 春のセレニアと賑やかな街巡り
第十九話 春のセレニアと賑やかな街巡り
毎朝の日課である礼拝堂での感謝のお祈り、畑の収穫、そして賑やかな朝食を全員で美味しく終え、一行はいよいよセレニアへの出発準備を整えていた。
「みんな、準備はいいかな? そろそろセレニアへ行こうか」
静が微笑みながら声をかけると、みんなが楽しそうに応じる。
「ええ、問題ないわ。あかねに何か美味しいものでも買ってあげようかしら?」
「きゅきゅー!」
アリアが足元のあかねを見下ろすと、あかねも大賛成とばかりに愛らしく鳴いた。
「今日は何を食べようかな♪ ハルも美味しそうな食べものを探してね」
「ひゅん! ひゅん!」
フィアが跳ねると、肩のハルも元気よく風を切る声を返す。
「ルゥが好みそうな、美味しいドライフルーツなんかがあると良いわね」
「くぅ」
ミレイアが腕の中のルゥに優しく微笑みかけると、ルゥも甘えるように一声鳴く。
「掘り出し物の魔導具や、何か面白い本や雑貨があると嬉しいわね」
「ぷぷぅー」
手帳を抱えたリーナの横で、マルも同調するように丸い身体を揺らした。
「ルナ、みんなに喜んでもらえる素敵なお土産を探しましょうね」
「くぉん!」
フォルティナが優しく語りかけると、ルナは機嫌よく尻尾を振る。
「サンは初めて行く街だから、あまり離れないように着いてくるのよ?」
「ぴぴっ!」
フレイアの言葉に、サンも上空を旋回しながらお返事をした。
「静様、良い調味料や珍しい食材がたくさん見つかると嬉しいですね」
セリナの隣に立つツキは、大人しくすまし顔を決めていたが、お出かけするのがよほど嬉しいのか、黒い尻尾がご機嫌にゆらゆらと揺れていた。
「あはは、みんな本当に楽しみにしてくれているみたいで良かったよ。それじゃあ、行こうか!」
静が右手を軽くかざすと、ふわりと柔らかな光の粒子が全員を優しく包み込んだ。心地よい浮遊感ののち、光がさらりと収まった瞬間には、一行の姿は春の温かな日差しが差し込むセレニアの街の、人の気配がない物陰へと移動していた。
◆◆◆
静が周囲の状況を確認してから、みんなを振り返る。
「さてと、みんなで一緒に移動してもいいけど、せっかくだし別れて好きなところを見て回ろうか?」
アリアが腰の剣帯を整えながら頷いた。
「そうね、それぞれ見たいものも違うだろうから、何人かで別れて昼過ぎくらいに街の中央広場で集まりましょうか」
「さんせーい! アリア、一緒に美味しいものの食べ歩きしようよー!」
「じゃあ、私たちは雑貨や本が見たいから、販売系の露店巡りでもしましょうか」
「いいわね。露店なら、見たこともない珍しい掘り出し物がありそうよね」
フィアの提案にアリアが苦笑しながら頷き、ミレイアとリーナも楽しそうにグループを組む。
「俺たちはバルドランさんの工房に行きながら、お店を色々見て回ろうか」
「はい、とても楽しみですね」
「静さん、街の案内よろしくお願いしますね」
「サンもルナも、はぐれないようにしっかり着いてくるのよ?」
セリナ、フォルティナ、フレイアが静の周りに集まり、グループ分けが完了した。
「じゃあみんな、昼過ぎに中央広場でね。もし遅れそうになったら連絡板で教えてね」
静の言葉を合図に、一行はそれぞれ思い思いの目的のためにセレニアの街へと繰り出していった。
◆◆◆
【アリア・フィア組】
冒険者組の中でも特に活発なアリアとフィアは、真っ先に屋台が立ち並ぶ通りへと向かった。
フォルツや王都よりも北西に位置するセレニアは、少し涼しさが残るものの心地よい風が吹き抜けている。立ち昇る香ばしい湯気と肉の焼きあがる匂いに、フィアは目を輝かせた。
「アリア見て! あの炙り焼きソーセージ、すごく美味しそう!」
「本当ね。あかね、どれが食べたい?」
「きゅきゅー!」
あかねが鼻先をピクピクと動かして指し示した大きなソーセージを買い、みんなで熱々のまま頬張る。ハルもフィアの手から分けられたお肉を「ひゅん♪」と嬉しそうに啄み、アリアとフィアはお屋敷へ持って帰るための燻製肉もたっぷりと買い込んでいた。
「ねぇアリア、あっちの屋台、甘い蜜がけのお団子売ってるよ! デザートに一つずつ食べようよ!」
「もう、フィアったら際限がないわね……。まあ、たまにはいいでしょう」
苦笑しながらも付き合うアリアにフィアは満面の笑みでお団子を頬張った。あかねも小さくちぎってもらった分を「きゅ」と嬉しそうに味わい、ハルもフィアの肩の上で満足げに羽を休めていた。
◆◆◆
【ミレイア・リーナ組】
一方、ミレイアとリーナは、本や珍しい小道具、ドライフルーツなどを扱う販売系の露店をじっくりと見て回っていた。
「あら、この蜜漬けのドライフルーツ、すごく甘くて上質ね。お屋敷のお茶請けに買っていきましょうか」
「そうね。こちらの古い羊皮紙の記述も興味深いわ……」
二人が露店で買い物を楽しんでいる間、マルとルゥも路地の片隅で仲良く遊んでいた。
マルが路地の隙間に咲いていた小さな野花の根元へ近寄ると、短くて丸い前足で土を「ぽむぽむ」と丁寧に叩き始める。すると、固かった土がふんわりと柔らかく解ぐれていった。
その横へルゥがそっと近づき、マルが叩いた周りを小さくくるくると回る。回り終えると、草花の根元に向かって静かに「ふぅ……」と息を吹きかけた。
すると、土がしっとりと湿り気を帯び、野花が嬉しそうに元気に葉を揺らしたのだった。
マルが誇らしげに「ぷぷぅ」と胸を張り、ルゥも静かに尻尾を揺らして寄り添う。
その光景を目撃したミレイアが、不思議そうに首を傾げた。
「あら?……なんだかあのお花、少し湿り気と元気が出たような気がするわね?」
「へぇ……あの子たちの種族的な何かかしらね?」
手帳を開いたリーナも感心しながら覗き込んだが、二人は「そんな気がする」程度に微笑ましく受け止め、再び買い物を再開するのだった。
その後も二人は、古い装丁の魔導書や、可愛らしい意匠のガラス細工などをいくつか見つけては、楽しそうに品定めを続けた。
「これ、屋敷の書庫に置いたら素敵じゃないかしら」
ミレイアが手に取った小さなランプを掲げると、リーナも「いいわね、明かりの魔石も上質そうだし」と頷き、迷わず購入を決めるのだった。
◆◆◆
【静・セリナ・フォルティナ・フレイア組】
静たち一行は、街並みを散策しながら、バルドランの工房やお店があるエリアへと向かってのんびりと歩を進めていた。
セリナとフォルティナは、この地域特有の色使いの衣服やお洒落な雑貨に目を奪われ、フレイアもサンと一緒に珍しいスパイスの露店を眺めて楽しんでいる。
「このスパイス、香りがとても良いですね。静さんの草芋料理にも合いそうね」
フレイアが小瓶を手に取って香りを確かめると、静も興味津々に覗き込んだ。
「本当だ、いい香りだね。それも買っていこうか」
セリナも隣の露店で、可愛らしい刺繍の入ったハンカチを見つけて目を輝かせている。
「静様、これ、エナさんへのお土産にいかがでしょう?」
「いいね、エナもきっと喜ぶよ」
ツキはセリナの隣をトコトコと歩き、ルナもフォルティナの足元で嬉しそうにしっぽを振り、サンはフレイアの肩の上で興味津々に周囲を見回していた。
「バルドランさんの『醤』、フレンツさんたちにも喜んでもらえると良いですね」
「ええ、領主館の食堂のフレンツも、首を長くして待っているはずですよ」
フォルティナと静が和やかに会話を交わしながら角を曲がった、その時だった。
「……ん? 静様、先の方で何か人だかりができていますね?」
セリナが指差す先の通りでは、大勢の町の人々が集まり、ざわめきとともに何やら賑やかな人だかりが出来上がっていたのだった。




