第十八話 収穫の宴とセレニアへの誘い
第十八話 収穫の宴とセレニアへの誘い
草芋の各種調理テストが無事に終わり、庭のキッチンからは何とも香ばしく甘い香りが漂い始めていた。
「よし、テストの結果も分かったことだし、本格的に夕飯の準備に取り掛かろうか!」
静が腕をまくると、セリナやフォルティナにミレイア、そしてアリアたちがエプロンを身につけて手際よく手伝いに加わる。
今夜のメニューはまさに豪華な『草芋尽くしのフルコース』
出汁と醤油の香りが食欲をそそる『草芋のホクホク炊き込みご飯』をはじめ、外はカリッと中はねっとり甘い『特製草芋コロッケ』、煮崩れしない白草芋をゴロゴロと入れた『クリーミーシチュー』、黄色い草芋を千切りにして香ばしく焼き上げ、濃厚なチーズをたっぷり絡めた『草芋ガレット』、そしてサクサクのフリットが次々と仕上がっていく。
キッチンの奥では、ミレイアが丁寧に潰した草芋を、リーナが優しく団子状に丸めていく共同作業も進められていた。
「ふふっ、リーナも出来る様になったじゃない」
ミレイアが微笑みかけると、リーナが「これくらいなら出来るわよ」と照れたように言っていた。
「静ー、コロッケ揚がった? 味見の手伝いならいつでもできるよー!」
「あはは、フィア、さっきも試食したでしょう。熱いから気を付けてね」
静が揚がりたての丸いコロッケを一つ渡すと、フィアはハフハフと熱がりながら「んん〜っ! サクサクで甘くて最高!」と幸せそうに頬を緩めた。
足元でも幼体たちが集まり、静が小さく冷まして切り分けたコロッケをもらうと、「にゃ!」「きゅきゅ!」「くぅ!」「ぷぷぅ!」「ひゅん!」「くぉん!」「ぴぴっ!」と大満足の声を響かせていた。
静は自分たちの夕食だけでなく、一番出来の良かった最初の一皿や、大樹で貰った黄金の樹蜜、そして出来立ての特製『草芋団子』を丁寧にお重とトレイに盛り分けた。
「良い食材や樹蜜がたくさん手に入ったからね。一番良いところを女神様へお裾分けしようか」
「はい、静様。本日も素晴らしい恵みをいただきましたものね」
セリナが愛おしそうにお供えのトレイを抱えると、セリナの足元へツキがトコトコと歩み寄り、当然のような顔でその隣に並んだ。セリナが向かう礼拝堂へ、ツキが寄り添うように一緒について歩き出す。
◆◆◆
澄み切った清らかな空気が満ちるお屋敷の礼拝堂。
祭壇の前へと進んだセリナは、トレイをそっと捧げ置き、静かに膝をついて胸の前で手を重ねた。
「女神ルーナフィリス様。本日も無事に探索を終え、たくさんの温かな恵みをいただくことができました。大樹の三層目では、とても可愛らしい晶石の庭師さんたちと出会い、甘い樹蜜を頂いたり、皆で草芋堀を楽しみました」
穏やかで温かな声で近況を報告し、深く感謝の祈りを捧げる。
セリナの隣にちょこんと座っていたツキの額の黒晶が、神聖な空気に呼応するように「ぽわ……」と小さく淡い輝きを明滅させた。
次の瞬間、トレイの上に並べられた出来立ての草芋料理や黄金の樹蜜が、ふわりと柔らかな光の粒子に包み込まれた。光がゆっくりと引いていくと、お供え物は跡形もなくスッと消失し、神域へと届けられていた。
胸の奥がじんわりと温かくなるような微かな気配を感じ、セリナが目元を緩めて微笑む。
その無事の到着を見届けたツキが、満足そうに「にゃ」と短く一言合図を送ったのだった。
◆◆◆
礼拝堂からセリナとツキが戻ると、いよいよ待ちに待ったお屋敷の夕食タイムだ。
ダイニングテーブル一面に並べられた出来立ての草芋料理を前に、全員で「いただきます!」と声を揃えて手を合わせる。
「……美味しい! このガレット、表面がすごく香ばしくてチーズのコクとお芋の甘みが絶妙に合わさっているわね!」
アリアが驚きに目を丸くすると、フォルティナもシチューを一口運んでうっとりと目を細めた。
「まあ……シチューの中のお芋がとってもトロリとしていて、スープの旨味がしっかりと染み込んでいますね。本当に美味しいです」
「お芋ご飯も出汁が効いていてお箸が進むわね。今度お屋敷の厨房で、私も作り方を教えてもらおうかしら」
フレイアが嬉しそうに語りかけると、周囲から楽しそうな笑い声が弾けた。自分たちで汗を流して収穫した食材ということもあり、会話も弾んで箸も大いに進み、大満足のまま食後の温かいお茶の時間へと移っていった。
静は食後、フォルツの街の孤児院やエナたちへのお土産として多めに作っておいた『草芋団子』を、冷めないうちに大切に空間の彼方へと収納しておいた。
◆◆◆
お茶を飲みながらひと息ついたところで、静がみんなへと視線を向けた。
「フォルティナさん、フレイアさん。明日はお休みの最終日ですけれど、どこか行きたい場所や予定はありますか?」
静の問いかけに、フォルティナは少し考えを巡らせてから微笑んだ。
「そうですね。この何日間か、大樹の素晴らしい景観や不思議な体験をたっぷりと堪能させていただきましたし……明日は、私たちがお休みの間、代わりに頑張ってくれている領主館のみんなに何か素敵なお土産を買いたいですね」
「それも素敵ね! それなら、またセレニアの街へ行って、あちらの珍しいものを買い込むのも良いかもしれないわね」
フレイアの提案に、フォルティナが静へとお願するように目を向けた。
「静さん、もしよろしければ、明日はセレニアまで連れて行っていただけますか?」
「もちろん、いいですよ! それに、俺もそろそろバルドランさんの『醤』を補充したかったところなので、ちょうど良かったです」
「まあ、あの美味しい調味料ですね! 実は領主館の食堂でも大好評でして、料理長のフレンツも『あの醤をぜひまた入手してほしい』と熱烈に話していたんですよ」
フォルティナが嬉しそうに語ると、隣のフレイアもくすりと笑う。
「そうそう。フレンツの熱意を聞いて、ティナも行商人に頼んで仕入れるよう手配していたくらいだものね」
「へぇ、フレンツさんにもそんなに気に入ってもらえたんですね。作ったバルドランさんも喜ぶだろうなぁ」
「ええ。次の行商で届く予定ではありますが……一足先に少し購入してお土産にするのも喜ばれそうですね」
「領主館のみんなには、日頃の感謝を込めて温かい防寒具や美味しいお菓子を選びたいですね」
フォルティナが指折り数えながら話すと、フレイアも頷いた。
「そうね、ロベルトさんにも何か贈りたいわね。いつも私たちのことを気にかけてくれているもの」
「ロベルトなら、渋いお酒とか、上質な茶葉なんかも喜んでくれそうね」
フォルティナも嬉しそうに手を叩いた。
お茶を注ぎ足していたセリナが興味津々に言葉を重ねた。
「静様、セレニアは雪の降る寒い地域ですから、きっとあの草芋料理に良く合うような、温まるスパイスや珍しい調味料も色々とあると思いますよ」
それを聞いていたフィアが、待ってましたとばかりに身を乗り出した。
「静! 絶対に美味しいものが他にもあるはずだから、明日は宝探しみたいに探そうよー!」
「「「にゃー!」「きゅきゅ!」「ぷぷぅー!」」」
『美味しいもの』という言葉に敏感に反応した幼体たちも、フィアに賛同するように一斉に鳴いてアピールを始める。
静は和やかに笑って頷いた。
「あはは、分かったよ。じゃあ明日はみんなでセレニアに行って、美味しいものや珍しいお土産をいっぱい見て回ろうか!」
「良いわねぇ。あそこの街の本格的なソーセージや燻製肉も本当に絶品なのよね。草芋の濃厚なスープに入れたら最高じゃないかしら?」
アリアが嬉しそうに提案すると、ミレイアもサファイア色の瞳を輝かせる。
「あそこには美味しいドライフルーツや木の実の蜜漬けなんかもあったわね。ちょっとしたおやつにぴったりなのよね」
「久しぶりに違う街の活気を見て回るのも、魔術師としてとても興味深いわ。新しい発見がありそうだわね」
手帳を開いたリーナも期待を寄せる。
明日のセレニアでの買い物やお散歩に思いを馳せながら、みんなの楽しそうな雑談は尽きることなく、お屋敷の夜は温かく更けていく。




