第十七話 もふもふのお手入れと草芋の味覚テスト
「それじゃあ、一度お屋敷に戻ろうか」
静が右手を軽くかざすと、ふわりと柔らかな光の粒子が全員を優しく包み込んだ。心地よい浮遊感ののち、光が静かに収まった瞬間には、一行の姿はお屋敷の広々とした庭へと一瞬で移動していた。
「ふぅ、無事に戻ってきたわね」
アリアとフィアが手早く探索道具や籠をまとめ、片付けを始める。一方、採取してきた貴重な魔法植物や薬草類は、扱いに最も長けたエルフ組の出番だ。
「この薬草は湿度に弱いから、魔法保存庫の第二棚へ保管しておきましょう」
「そうね、こちらのハーブは風通しの良い乾燥用の部屋へ持っていくわ」
リーナ、ミレイア、フレイアの三人が、大切そうに魔法植物を保管庫へと丁寧に運び込んでいく。
◆◆◆
その頃、庭の洗い場では静とセリナ、そしてフォルティナが幼体たちを洗ってあげる準備を進めていた。
大樹での芋掘りや祠の掃除で、幼体たちの毛並みにはうっすらと土埃や泥がついてしまっていた。
普段から静やお屋敷のみんなと一緒にお風呂に入る幼体たちは、すっかり大のお風呂好き。たらいにお湯が張られると、嬉しそうにしっぽを振って集まってきた。
「みんな、綺麗サッパリ洗おうね」
静たちが石鹸を泡立てると、幼体たちは泡で「もこもこ」になりながら気持ち良さそうに目を細める。
そんな中、楽しさのあまりテンションが上がったあかねとルナが、前足をパシャパシャと動かして周りに泡を飛ばし始めてしまった。
「にゃ!」
セリナの隣で洗われていたツキが、すぐさま首を向けて「大人しくしなさい」とお姉ちゃんらしく短く一喝する。
あかねとルナは「きゅぅ……」「くぉん……」と少しすぼんだ顔で大人しくなったが、実はツキ自身、静やセリナに優しく泡で撫でてもらうのが気持ち良くてたまらず、誰にもその至福の時間を邪魔されたくなかったというのが本音だったりする。
一通り綺麗に洗い流した後は、魔力で動くドライヤーでの乾燥。
「さぁ、ふかふかにしましょうね。」
セリナが優しく風を当てて毛並みを整えていくと、幼体たちの毛並みは普段以上に「もふもふ」に膨らんでいく。
そのあまりの愛らしさと柔らかさに、見守っていたフォルティナが限界を迎える。
「~っ! ルナ、あまりにも可愛らしすぎます……!」
フォルティナは我慢できずに、ふわふわに乾いたルナをぎゅっと抱きしめた。ルナも「くぉん」と甘えるように顔を擦り付ける。
ツキもご機嫌で静やセリナの足元へスリスリと体を寄せて甘え、片付けから戻ってきたアリアたちやフレイアの元へも、あかねたちやサンがそれぞれ駆け寄って可愛がられていた。
◆◆◆
幼体たちのお手入れが一段落し、落ち着いたところで、静が庭キッチンのテーブルに先ほど収穫してきた草芋を広げ始めた。
「夕飯までまだ少し時間があるし……手に入れたこの草芋がどんな料理に使えるか、試してみようか」
静が腕をまくると、セリナが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「静様、この丸っこくてツヤのあるお芋は、煮物にすると味がよく染み込みそうですね。こちらの細長い芋はじっくり焼くと甘みが増す形をしています」
ミレイアも興味津々で覗き込み、ナイフで少しだけ断面を確かめた。
「このお芋、断面が真っ白だからポテトサラダに向いているわね。こちらの黄色みが強い方は、ホクホクしていてバターとの相性が良さそうだわ」
手帳を開いたリーナも、魔力の帯び方から観察して補足する。
「この黄色いお芋、かすかに魔力が残っているわね。油で揚げると香りが一気に引き立つかもしれないわ」
「へぇ……みんな本当に詳しいなぁ」
静が仕分けを感心して見ながら、調理場で手際よく芋を切り分けていく。
そこへ、どこからともなく美味しそうな気配を察知したフィアがやってきた。
「静ー! 試食係のお手伝いに来たよー♪」
「フィア、いつの間に……まぁいいけどさ。火を使うから気を付けてね」
静が苦笑いしながら作業を始めると、香ばしい香りに誘われて幼体たちも興味津々で周りをウロウロと取り囲み始めた。
◆◆◆
準備が整い、いよいよ各種調理テストがスタートする。
【蒸し芋】
セイロでじっくり蒸し上げた丸いお芋を静が包丁で切り分けると、ホカホカの湯気とともに甘い香りが周囲一面に広がった。
「んんっ! これ、食べる前から絶対に美味しいやつだよ!」
フィアが目を輝かせると、足元からも一斉に声が上がった。
「にゃっ!」「きゅ!」「ぷぷぅー!」
幼体たちが一斉にお芋へと群がろうとする。
「ちょ、ちょっと待って! 出来立てで熱いから気をつけてね!」
静が慌てて少し冷ましてから切り分けると、みんなハフハフと嬉しそうに頬張り始めた。
【焼き芋】
じっくりと弱火で焼き上げた細長いお芋は、表面の皮が少し焦げ、そこから濃厚な蜜がじんわりと滲み出ている。
「これ……『甘光芋』という種類の野生種かもしれないわね。加熱するとすごく甘くなるのよ」
ミレイアが解説する横で、フィアが一口かじって頬を落とした。
「んんん〜っ! 甘いっ! ねっとりしてて、フィアこれ大好き!」
【揚げ芋(素揚げ)】
一口大に切ってカリッと揚げたお芋を、静が小皿に差し出す。
「やっぱり……油で揚げると香りがさらに強くなるわね。魔力が熱で刺激されたのかもしれないわね」
リーナが分析していると、ハルが「ひゅん! ひゅん!」と嬉しそうに跳ねながらお芋を口に運んだ。
「ハル、そんなに跳ねながら食べると転ぶよ……あ、転んだ」
案の定、体勢を崩してころんと転がったハルに、周囲から温かな笑い声が漏れる。
【バター焼き】
香ばしく焼き目をつけた黄色いお芋の上に、セリナがひとかけらのバターを落とした。ジュワッと音を立ててとろけるバターの香りが、一気に鼻腔をくすぐる。
「静様、これは絶対に美味しいです……!」
「じゃがバター風だね。うん、ホクホクしていてすごく甘い……これは本日の夕飯に文句なしで採用だな」
「採用! 大採用だよ静ー!」
フィアが両手を挙げて大はしゃぎする。
【軽い煮物テスト】
最後にミレイアが小鍋でお出汁と一緒に軽く煮込んでみせる。
「出汁を入れて煮込んでも全く煮崩れしないわね。スープやシチューの具材にもぴったりだわ」
一口もらったルゥが「くぅ〜」と大満足そうに頬を膨らませて味わっていた。
◆◆◆
一通りの試食を終え、静が満足そうに頷いた。
「よし、じゃあまとめると……」
「丸いお芋は煮物やスープ向きですね」
セリナが指折り数えると、ミレイアも微笑む。
「断面が白いお芋はサラダ向きね」
「黄色いお芋は焼き芋や揚げ物、バター焼きに向いているわ」
リーナがまとめると、フィアが元気に結論を出した。
「甘いのは焼き芋! カリカリのは揚げ芋! 全部美味しい!」
「「「ぷぷぅ!」「にゃっ!」「きゅ!」」」
幼体たちもフィアの言葉に大賛成とばかりに鳴き声を揃える。
静はみんなの楽しそうな表情を見渡し、頼もしく笑った。
「よし! それじゃあ今日の夕飯は、贅沢に『お芋祭り』にしようか!」
その言葉に、ずっと見守っていたアリアが呆れたように、けれどどこか嬉しそうに肩をすくめた。
「静……あなたって、どんな場所に行っても本当に食べ物のことばかり考えているわね」
アリアのツッコミに、セリナもミレイアもフレイアも、みんなで顔を見合わせて弾けるような笑い声を響かせるのだった。




