第十四話 小さな恩返しと温かな絆
晶石ゴーレムたちとの和やかな時間を過ごし、彼らに温かく見送られながら、静たち一行は大樹の表皮に沿ってゆっくりと歩を進めていた。
水晶の柱が立ち並ぶ森を抜けた頃、視界の先には隣へと伸びる別の大枝の雄大な姿が見え始めてくる。
「そろそろ、この場所も終わりみたいだね。今までの感じからすると、また隣の大枝へと渡る回廊があるんじゃないかな?」
静が足を止めて見上げると、手帳を抱えたリーナが納得したように頷いた。
「そうね。これまでの感じだと……またどこかに回廊に繋がる場所がありそうよね」
足元ではマルが「ぷぷぅ」と、同意するように丸い身体を揺らして相槌を打つ。
「じゃあ、またみんなで二手に分かれて探そうよ♪」
フィアが楽しそうに跳ねると、肩に乗ったハルが「ひゅん!」と風を切るような元気な声を返した。
「いいわね。ふふ、今度こそ私のサンが一番乗りで見つけてみせるわ」
フレイアが頼もしく微笑むと、サンも「ぴぴっ!」と胸を張って旋回してみせる。
「ふふっ、みなさん本当に楽しそう。みんなのお姉ちゃんも負けていられないですね」
セリナが優しく語りかけると、セリナの肩に乗ったツキは任せてと言わんばかりに「にゃ!」と可愛らしく胸を張った。
「あら? 私のルゥだって、何かを探すのはとっても得意なのよ? ね、ルゥ」
ミレイアが腕の中のルゥに目を向けると、ルゥも「くぅ」と愛らしく鳴いて見せる。
「ふふ、手分けして探すのはいいけれど、一応警戒だけは怠らないようにね」
アリアが苦笑いを浮かべながら剣の柄に手を置くと、足元にいたあかねも「きゅきゅ」と同意するように鳴いた。
「ふふっ、ルナは昨日見つけてくれましたから、今日はのんびり探しましょうね」
フォルティナが優しく声をかけると、ルナは甘えるように「くぅん」と鳴き、フォルティナの足元へ擦り寄っていった。
「それじゃあ、あんまり遠くへ離れすぎないようにして、みんなで探してみようか」
静の言葉を合図に一行はそれぞれのパートナーの幼体たちとともに、周囲の表皮や結晶の陰を捜索しに向かった。
◆◆◆
「……おかしいなぁ。また俺一人になっちゃった?」
仲間たちが思い思いの場所を探しに行き、ふと気づくと静の周りには誰もいなくなっていた。静が大げさに肩をすくめて少し寂しそうに呟いたその時。
後ろから「てく……てく……」と、聞き覚えのある小さな足音が聞こえてくる。
静が不思議に思って振り返ると、水晶の森の方から、一体の晶石ゴーレムがトコトコと歩いてくるところだった。
「あれ? 君はさっきの……最初に出てきてくれた案内役の子じゃないかな? どうかしたの?」
静がしゃがみ込んで尋ねると、晶石ゴーレムはすっと静の足元まで歩み寄ってきた。体内を巡る光が「ぽわ……ぽわ……」と優しく温かな色合いで揺らめいている。
ゴーレムは静を見上げると、ひんやりとした琥珀の小さな手で、静の足を「ぽむ」と優しく叩いた。そして、クルリと向きを変えると、まるで「ついてきて」と言っているかのように少し歩いては振り返って見せる。
「もしかして……回廊の場所を教えてくれるのかな?」
静が後を追って歩き出すと、ゴーレムは大樹の表皮の近くにある大きな琥珀の塊の前に立ち、小さな手で「よいしょ、よいしょ」と押すようにしてゆっくりと押し退け始めた。
琥珀の影になっていた大樹の表皮には、精巧な飾りが施された古い石板がひっそりと埋め込まれていた。
「こんなところにあったんだね。教えてくれてありがとう」
静が屈み込み、感謝を込めてゴーレムの小さな頭を撫でてやると、体内の光が嬉しそうにパッと明るくなった。ゴーレムは小さな丸い手を合わせ、「キィン」と綺麗な音を響かせて全身で喜びを表現している。
その甲斐甲斐しく愛らしい姿を見ていた静はふと思いつき、何もない空間へそっと手をかざし、ごく自然な手つきで小さな魔力結晶を取り出した。
静は膝をつき、そっとゴーレムの目の前へと魔力結晶を差し出した。
「案内してくれてありがとう。これ、お礼だよ。気に入ったら……受け取ってくれると嬉しいな」
晶石ゴーレムは静の手の上にある魔力結晶をじっと見つめた。
体内の光が「ぽわ……ぽわ……」とゆっくり明滅し、まるで小さな心臓の鼓動のように優しく揺れている。
やがてゴーレムは小さな手足を伸ばし、魔力結晶へとそっと指先を触れさせた。
「……こてん」
触れた瞬間、魔力結晶が淡く輝き、ゴーレムの体内の光がふわっと一段と明るくなる。
静が驚いて目を瞬くと、ゴーレムは嬉しそうに両手で魔力結晶を抱え込み、そのまま自分の胸のあたりへゆっくりと押し当てた。
すると——。
魔力結晶はまるで水に溶けるように、ゴーレムの体内へとすうっと吸い込まれていったのだった。
透明な体の中を、七色の光の粒がくるくると綺麗に巡り、琥珀と水晶の欠片が内側から透き通るような美しい光を放ち始める。ゴーレムはくすぐったそうに身体を小さく震わせ、嬉しさを表すように光をぽわぽわと明滅させた。
静は思わず目元を緩め、温かく微笑んだ。
「気に入ってくれたんだね。よかった」
ゴーレムは再び静の足に「ぽむ」と触れ、まるで「ありがとう」と伝えているようだった。
その時、静の胸の奥でふわりと温かな気配が静かに波紋を広げた。まるで屋敷コアに支配エリアコアをつないだ時の様な心地よい感覚だった。
「あれ?……気のせいかな?」
静が不思議そうに胸に手を当てていると、満足した晶石ゴーレムの子は、「てくてく」と可愛らしい足音を響かせながら、再び水晶の森へと戻っていった。
その名残惜しい後ろ姿を笑顔で見送り、静は大樹の表皮に埋め込まれた石板へそっと手を触れる。
「キィン……」と澄んだ金属音が周囲に心地よく響き渡り、大樹の表皮がさらりと光となって消失した。そこには、隣の大枝へと続く新しい幻想的な回廊が出現していた。
◆◆◆
その澄んだ音を聞きつけたのか、遠くで探していた仲間たちが次々と駆け戻ってきた。
「静、今の音は……あーっ! 回廊が出現してる! 静が一番乗りで見つけたんだ、すごいね♪」
フィアが一番に駆けつけ、目を丸くして跳ね上がった。肩のハルも「ひゅん! ひゅん!」と嬉しそうに空中で旋回する。
アリアも追いつき、手にした長剣の鞘を叩いて感心したように笑った。
「私たちより先に見つけるなんて、静ってもしかすると冒険者の素質があるんじゃないかしら」
あかねもアリアの足元で「きゅきゅー!」と、誇らしげに胸を張っている。
「静、一応古代の遺物なんだから、一人で軽々と触ったらダメよ。何が起きるか分からないんだから……」
リーナが少し心配そうに眉をひそめると、となりのマルが「ぷぷぅー」と静を庇うように鳴いて見せた。ミレイアがそれを見てクスクスと笑う。
「リーナったら、本当は石板が開く瞬間を一番近くで見られなかったのが悔しいんじゃないかしら?」
「そっ、そんなことないわよ?」と頬を染めるリーナの横で、ミレイアの腕の中のルゥも「くぅ」と楽しそうに鳴いた。
「静様、お疲れ様です。一人で見つけてしまうなんて、本当にすごいです」
セリナが自分のことのように嬉しそうに目元を緩めると、肩のツキも「にゃ!」と誇らしげに静を称えるように一鳴きした。
「静さんも宝探しを楽しめたみたいで良かったです」
フォルティナが優しく微笑むと、足元のルナも「くぅん!」と機嫌よく尻尾を振る。
「静さんと一緒にいると、現役の冒険者時代にもなかったような驚きや発見ばかりで、本当に楽しいわね」
フレイアが深緑の瞳を輝かせると、上空を舞うサンも「ぴぴっ!」と賛同するように綺麗な鳴き声を響かせた。
みんなの絶賛に、静は照れくさそうに頭をかきながら苦笑いした。
「いやぁ、実はね……さっきの最初に会った晶石ゴーレムの子が、ここまでついてきて案内してくれたんだよ。流石に俺一人じゃ見つけられなかったよ」
「晶石ゴーレムの子が……? ここまで追いかけてきて案内してくれたのね。やっぱりこの大樹の中は、不思議で魅力的なことばかりだわ」
リーナが感心したように手帳へペンを走らせる。
「やっぱり静は、あの子にすっかり気に入られていたのね。珍しい生きものに懐かれる才能でもあるんじゃない?」
アリアが楽しそうに笑うと、静も「あはは、そんな才能ならすごく嬉しいね」と笑い返した。
セリナがみんなの様子を見渡し、優しく微笑んで提案する。
「静様、そろそろお昼に良い時間ですし、このあたりで美味しいお昼ご飯にして、食後にあの回廊へ向かってみませんか?」
「さんせいー! お腹すいちゃった!」
フィアが元気に一番手を挙げ、幼体たちも一斉に「きゅ!」「くぅ!」「ぷぷぅ!」「ひゅん!」「くぉん!」「ぴぴっ!」「にゃ!」と大賛成の声を上げたのだった。




