第八話 草陰の秘密と小さな発見者
竹林や川からの恵みをたくさん集め、カゴや鞄の荷物を軽く整えた一行は、さらなる先へと意識を向けていた。緑の風がそよぐ中、アリアが手慣れた手つきで長剣の鞘を整え、静のほうへ振り返る。
「静、そろそろ先に行ってみない? 次の大枝とか上層に続く祠があるかもしれないわ」
「いいわね! また何か不思議な物が見られるかもしれないし、行きましょう!」
アリアの言葉が終わるか終わらないかのうちに、手帳を抱えたリーナがパッと顔を上げて身を乗り出した。その熱のこもった勢いは、二層目へ上がる石階段で目にした古代の壁画を思い出したせいか、少し食い気味でどこか嬉しそうだ。
フィアが肩を揺らしてくすくすと笑う。
「あはは! リーナの食いつきがすごいね! フィアのこと言えないよー♪」
いつも自分が静の作るご飯やお菓子に真っ先に食いついているのを思い出したのか、フィアは楽しそうに尻尾を振った。隣のミレイアもサファイア色の瞳を和ませる。
「そうね。リーナも不思議な出来事や知識には目がないものね」
そんな和気藹々とした会話と柔らかい笑い声が、一行の足取りをいっそう軽やかにしていく。
「ふふ、みんな本当に楽しそうね。この先にも何か面白いものがありそうなの?」
フレイアが好奇心に目を輝かせると、静も穏やかに頷いた。
「今までの感じだと、次の場所へ繋がる仕掛けがありそうだけど、どうかな?」
「次の場所……ですか? なんだか本当に冒険者になったみたいで、すごく楽しいですね!」
嬉しそうに頬を緩めるフォルティナに、セリナも隣で優しく微笑みかける。
「ええ。アリアさんたちと違って、普段は公務や執務でお忙しく、冒険をする機会もありませんから、新鮮で楽しく感じられますよね」
「うんうん。それに、アリアたちやフレイアさんも居てくれるから、安心して進めるのが嬉しいよ」
静が素直な感謝を口にすると、フィアが誇らしげに胸を張った。
「任せて! 何かあっても私たちがしっかり守ってあげるね!」
「あはは、その時はよろしくね」
頼もしい言葉に笑い合いながら、一行は木々が鬱蒼と生い茂る大枝をさらに奥へと進んでいった。
◆◆◆
やがてしばらく歩くと、茂る木々の合間から大枝の端の光が見え始めてくる。
「そろそろ大枝の端の方だから、また何か隠れているかもしれないね。みんなで探してみようか」
静が声をかけると、リーナが目を輝かせて足元へ視線を落とした。
「マル、今度は私たちが一番に見つけるわよ!」
「ぷぷぅ!」
マルが「ぽむぽむ」と短く前足を打ち鳴らしてやる気を見せると、それを見た他のメンバーも負けじと自分のパートナーへ声をかけ始めた。
「あかね、私たちも行くわよ!」
「きゅ!」
「ハル、行くよー♪」
「ひゅん!」
「ふふっ、ルゥ、私たちも探しましょうか」
「くぅ!」
「面白そうでいいわね。サン、私たちも負けていられないわよ?」
「ぴぴっ!」
「ちょ、ちょっとフレイ、待ってください! もう……本当に楽しそうなんだから。ルナ、私たちも負けずに探しましょうね」
「くぅん!」
フレイアの無邪気な対抗心に苦笑しつつも、フォルティナもルナと共に楽しそうに草むらへと向かっていく。
次々と散らばっていく仲間たちの賑やかな姿を見送り、静は隣のセリナと顔を見合わせて笑った。
「いやぁ、みんな張り切っているね。セリナ、ツキ、俺たちも探そうか」
「にゃ……」
ツキはお姉ちゃんらしく、足をそろえて落ち着いた風を装っていたが、耳をピクピクと動かして尻尾をそわそわと揺らしているのが丸わかりだった。セリナがそんなツキの愛らしさを愛おしそうに見つめる。
「それじゃあツキ、一緒に探しに行きましょうか」
セリナが声をかけると、ツキは待ってましたとばかりにパッと駆け出し、「にゃ!」と「早く早く!」と促すように振り返って鳴いた。
「ツキも普段はみんなのお姉ちゃんをしているけれど、まだまだ子供らしくて可愛いね」
「ふふ、はい。いつものツキも可愛いですけれど、まだまだ愛らしい子猫ちゃんですからね」
二人で温かく目元をゆるめながら、ツキの軽やかな後ろ姿を追いかけていく。
◆◆◆
あかねは茂みの匂いを嗅ぎまわり、マルは土の感触を確かめるようにあちこちを掘り返し、ハルは上空から見渡すように飛び回る。ルゥは水気の多そうな場所を中心に、サンは瞬雷の速さで木々の間を駆け巡っていた。
各自が木々の根元や草むらを熱心に探して回ること、数分。
大枝の端に近い背の高い草むらの奥で、ルナが足を止め、鼻先をひくひくと動かした。深緑の葉を前足でそっとかき分けると、そこには苔に覆われた古い石造りの小さな祠が静かに佇んでいた。
「くぅん!」
ルナが嬉しそうに声を張り上げ、フォルティナへ向かって尾をぶんぶんと振る。
「まぁ……ルナ、祠を見つけてくれたのですか!?」
フォルティナが急ぎ駆け寄って草むらを覗き込むと、そこには小さな石造りの祠があり、その内部にはひんやりと静かに佇む『休止中のエリアコア』が収められていた。
「手伝ってくれてありがとう、ルナ」
フォルティナが嬉しそうに目元を和ませ、ルナのふさふさとした頭を優しく何度も撫でてやる。ルナは得意げに「くぅん!」と喉を鳴らし、フォルティナの手に頭を擦り寄せて甘えていた。
「あ! 見つかっちゃった!」
ルナの声を聞きつけたフィアが最初に駆け寄ってきて、悔しそうにしながらも楽しそうに目を丸くした。
「ルナ、すごいねー! 次は負けないからね♪」
「素晴らしいわ、ルナ。手柄はルナのものね」とアリアも感心して頭を撫で、あかねやハル、ツキたちも集まってきて「きゅ!」「にゃ!」とまるで「お手柄だったね」と言わんばかりに周りをくるくると回る。
「ルナが一番に見つけてくれたんです。さすがルナです」とフォルティナは嬉しそうに言う。
賑やかな歓声に気づいた静も、セリナやツキと共に駆け寄ってきた。
「わぁ、本当だ。こんなところに祠があったんだね」
静が屈み込んで祠の中の『休止中のエリアコア』をそっと覗き込むと、リーナが手帳を片手に興味深そうに近づいてきた。
「静、前に見た大樹の階層を繋ぐエリアコアと、同じような雰囲気がするわね。もしかしたら、これに触れるとまた新しい場所に繋がるのかもしれないわ」
「へえ、そうなんだ。じゃあ、ちょっと触ってみようかな」
静が興味津々に手を伸ばし、そっとエリアコアへ触れてみる。すると、コアがほんのりと淡い光を灯した。
次の瞬間、大樹の表皮が一部スッと消え、その奥から上層へと続く螺旋状の石階段が静かに姿を現した。
「あっ、奥に螺旋階段が見えるよ!」
フィアが目を輝かせて声を上げると、ルナも自分の見つけたものが変化していく様子に「くぅん!」と誇らしげに一鳴きした。
「みんな見て、ルナのおかげで、また新しい場所に行けそうだよ」
静が優しく微笑みながらルナの頭を撫でると、ルナは得意満面で「くぉん!」と応えるのだった。
フォルティナの腕の中で満足そうに鼻を鳴らすルナを中心に、大枝の端には温かな祝福の歓声が広がっていくのだった。




