↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第十九章 大樹の深緑と繋がりゆく笑顔

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
241/268

第七話 竹林のさざめきと土の中の宝物

キノコの採取が一段落した一行は、大樹の表皮沿いに密生する木々の合間をさらに奥へと進んでいった。


やがて周囲の樹木が少しずつ疎らになると、目の前に青々とした笹と竹が鬱蒼と生い茂る、見事な竹林が広がっていた。ひんやりとした青い竹の香りがふわりと鼻腔をくすぐり、どこからかサラサラと耳に心地よい清らかな水の流れる音が聞こえてくる。


「あっ、もしかして竹林じゃない? 綺麗な川もあるみたいだね。ひょっとするとタケノコとか、山菜みたいなのもあるかも?」


静が嬉しそうに呟くと、後ろを歩いていたフィアが耳をピクピクと動かして身を乗り出してきた。


「タケノコ? 山菜? それって美味しいの?」


「うん。ちょっとアク抜きとか手間がかかるんだけど、すごく美味しいよ。タケノコの炊き込みご飯なんか最高なんだ」


「うわー! 聞いただけでも美味しそう! 静、たくさん作ってよ♪」


「あははっ、了解。みんなでお腹いっぱい食べるためにも、たくさん採らないとね」


静が和やかに微笑みながら竹林の中へ足を踏み入れると、今度はマルが鼻先をぴくぴくと動かし始めた。竹の根元へトコトコと歩み寄ると、ここにあるよと言わんばかりに「ぷぷぅ!」と得意げに鳴き、前足で土をぽむぽむと叩いて見せる。


「静、あそこに何かあるみたいよ?」


手帳を抱えたリーナが指を差すと、静が近寄って地面を覗き込んだ。


「さすがマル。たぶんタケノコじゃないかな。周りの土を掘るんだけど……魔法で出来たりする?」


「ええ。それくらいなら魔力を通せば簡単にできるわよ。土を退けるだけでいいのね?」


「そうそう。周りの土を慎重にどかすと、埋まっているタケノコが出てくるよ」


静の言葉に頷いたリーナは、指先をすっとかざして土魔法『クレイ・アース』を発動させた。するとマルの示した地面の土が、一瞬にして水分を含んだ柔らかい粘土状へと変化していく。さらにリーナが巧みな魔力操作で、柔らかくなった土をスーッと周囲へ寄せていった。


「おおっ、すごい! こんな魔法があるんだね。土掘りにも畑作りにもすごく便利そうだなぁ」


静が心から感心して目を輝かせると、手元を見ていたフレイアがくすりと笑い、どこか呆れたように呟いた。


「『クレイ・アース』をタケノコ掘りに使うなんて、静さんくらいね……」


「ふふ、そういうところが静なのよね」とリーナも楽しそうに肩をすくめる。


「魔力操作で土を寄せるだけなら私がやるわ。リーナはマルと一緒に、タケノコのある場所を片っ端から粘土状にしていってちょうだい」


「わかったわ。じゃあマル、タケノコがある場所を探してね」


「ぷぷぅ!」


マルは誇らしげに鼻を鳴らし、次々と竹の根元を探しては「ぷぅ、ぷぅ!」と教えていく。フレイアの肩の上では、サンが「ぴぴっ!」と小さな羽をパタパタとはためかせて、魔術を操るフレイアを元気よく応援していた。


その頃、他のメンバーは竹林の周辺に群生している山菜の採取を始めていた。


「静様、こちらの山菜は和え物や天ぷらによさそうですね」


「あ、それは俺の知っているゼンマイっぽいね。こっちでは違う呼び方なのかな?」


「私は食べたことがないのですが……たしか、この独特の見た目から『渦巻草(うずまきそう)』と呼ばれていた気がします」


「見たまんまだね」


静とセリナが笑い合っていると、フォルティナも興味深そうに手元の渦巻草を見つめた。


「静さん、この渦巻草、天ぷらにするとどんな味になるのですか?」


「まだ試したことないんですけど、山菜の天ぷらってだいたい独特のほろ苦さと香りが良いアクセントになるんですよ。きっと美味しいと思います」


「まあ、楽しみですね!」


フォルティナも嬉しそうに頬を緩め、静やセリナと一緒に手際よく山菜を摘んでいく。ツキやルナも足元にぴったりと寄り添い、鼻先でみずみずしい山菜を見つけては「にゃ」「くぅん」と可愛らしく知らせていた。


一方、せせらぎの音に惹かれて川辺へ向かったメンバーたち。


ルゥがミレイアを先導するようにたたたたっと走り、清らかな川辺へと案内している。透き通る水面を見て嬉しそうに「くぅ!」と鳴くルゥのあとを追い、川を覗き込んだミレイアが声を弾ませた。


「アリア、あの川に川魚や大きなエビなんかがたくさん泳いでいるわよ!」


「へぇ、結構いそうな感じね。静のところに持って行ったら、また美味しいものを何か作ってくれそうじゃない」


「美味しいもの!? フィア、頑張って捕ってくるね♪」


フィアはハルを連れ、川の上流側へと回り込んで魚やエビを追い立てる役を買って出た。「ハル、行くよー!」「ひゅん!」と息を合わせて川に入り、バシャバシャと賑やかに獲物を下流へ追い込んでいく。


「じゃあ、こっちで私とあかねで捕まえるから、フィアはしっかり追い立てて!」


「はーい!」


アリアがあかねと一緒に浅瀬で網を構え、フィアとハルが追い込んできた手応えのある川魚や立派なエビを、手際よく次々と捕獲していく。


その楽しそうなやり取りを見送ったミレイアは、ルゥの頭を優しく撫でた。


「じゃあ、私はルゥと一緒に川辺に何か使えるものがないか探してみるわね」


ルゥと一緒に川上へ少し歩いていくと、冷たい水がサラサラと流れる浅瀬の岩陰が見えてきた。ルゥがそこに向かってトコトコと走り寄り、鼻先で岩の隙間を指し示す。そこには、ハート型の瑞々しい緑の葉をぎっしりと茂らせた植物が群生していた。


「あら……これって『水根草(すいこんそう)』じゃない? こんなに群生しているなんて珍しいわね。採って持って行ったら、きっと静も喜んでくれるわ」


「くぅ!」と誇らしげに鳴くルゥを愛おしそうに撫で、ミレイアはみずみずしい水根草を丁寧に摘み取っていった。


◆◆◆


やがて、竹林でタケノコ掘りを終えた静たちの元へ、それぞれの場所で収穫を終えたメンバーたちが次々と笑顔で戻ってきた。


真っ先に駆け寄ってきたのはフィアだった。びしょ濡れになったハルを肩に乗せ、両手で抱えた籠には元気に跳ねる川魚と、立派な赤いエビがぎっしりと詰まっている。


「静、見て見て! こーんなに捕れたよ! ハルと二人で頑張ったんだから!」


「ひゅん!」


ハルが誇らしげに翼を広げると、静も目を丸くして驚いた。


「うわぁ、すごいね! こんなに立派なエビ、見たことないよ。今夜は塩焼きと、エビを使った何かも作ろうか」


続いてアリアとあかねも網いっぱいの獲物を抱えて合流する。


「フィアが追い込んでくれたおかげで、こっちも大漁よ。あかねも大活躍だったわ」


「きゅ!」


あかねが得意げに尻尾を振ると、静はその頭を優しく撫でた。


「あかねもありがとう。二人のおかげで、今夜のおかずはお魚づくしになりそうだね」


そこへミレイアがルゥと共に、瑞々しい『水根草』を抱えて歩み寄ってくる。


「静、こちらも見てちょうだい。川辺で見つけた『水根草』よ。癖がなくて、スープに入れると綺麗な緑色が映えるの」


「くぅ!」


ルゥが自慢げに鼻を鳴らすと、静は葉を一枚手に取り、興味深そうに眺めた。


「わぁ、綺麗な緑だね。ルゥ、いいものを見つけてくれてありがとう。今夜のスープに使わせてもらうよ」


最後に、粘土状になった土からすっかり掘り出されたタケノコを抱えたリーナとフレイアも合流する。


「静、タケノコもかなりの量が採れたわよ。マルのおかげね」


「ぷぷぅー!」


マルが誇らしげに胸を張ると、静は思わず笑みをこぼした。


「マル、本当に頼りになるね。これだけあれば、炊き込みご飯もタケノコの天ぷらも作れそうだ」


セリナやフォルティナも、両手いっぱいの『渦巻草』を抱えて静の元へと歩み寄る。


「静様、こちらの渦巻草もたくさん採れましたよ」


「私もお手伝いできて、とても楽しかったです!」


フォルティナが少し得意げに山菜の束を掲げると、静は温かく微笑んだ。


「フォルティナさんも、ありがとうございます。これだけ揃えば、今夜は本当に豪華な食卓になりそうですね」


採れたての山菜や立派なタケノコ、籠の中で元気に跳ねる川の恵みを囲み、静を中心に温かな笑顔の輪が広がっていく。


「みんな、ありがとう! こんなにたくさん採れたなら、今夜はとびきり美味しいご飯が作れそうだね」


静が穏やかな笑顔で感謝を伝えると、青々とした竹林を渡る爽やかな風が、竹の葉をサラサラと優しく揺らすのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。