第六話 木漏れ日の恵みと小さな自慢箱
回廊の出口を抜けた一行の目の前に広がっていたのは、青々とした木々が静かに鬱蒼と茂る、少し薄暗くも落ち着いた雰囲気の漂う新たな大枝のエリア。
湿り気を帯びた豊かな土と若い木の匂いが漂う中、何よりも一番に反応を見せたのは静の足元にいたツキだった。
「にゃ……」
ぴんと耳を立て、鼻先をひくひくと動かして辺りの匂いを確かめたかと思うと、ツキは思い立ったように木々の根元へ向かってトコトコと歩き出した。
「ん? ツキ、何かあったの?」
静が不思議そうに首を傾げながら後を追う。
「ツキが自分から先に行くなんて珍しいですね……何か見つけたのでしょうか?」
セリナも穏やかに微笑みながら、静の隣へと続いていく。
すると他の幼体たちも一斉に鼻先をひくつかせ、そわそわと身体を揺らし始めた。ツキに負けじと、あかねやルゥ、マルたちも楽しそうに駆けていく。
「ルナ、ちょっと待ってください」とフォルティナが慌ててルナの後を追い、「サン、急にどうしたの?」とフレイアも苦笑しながらサンを追いかけていった。
静がツキの辿り着いた大木の後ろへと回り込むと、そこにはツキが誇らしげに胸を張り、「にゃ!」と自慢げに待っていた。
「ツキ、何かいい物でもあったの?」
静がツキの足元へ視線を落とすと、大木の根元には、薄茶色の傘を持った肉厚なキノコが見事な群生を作っていた。ふわりと鼻腔をくすぐる上品で芳醇な香り。見た目はまるで、とびきり大きな椎茸のようだ。
追いついたセリナがそれを見て、嬉しそうに手を打ち鳴らす。
「まぁ、静様。このキノコは『森香茸』みたいですね。とても香りや味が良く、スープや炒め物など色々な料理によく合うんですよ」
「へぇ、森香茸っていうんだ……なんだか大ぶりで立派な椎茸みたいだね」
二人や幼体たちに追いついたフレイアも、エルフらしく森の恵みを検分するように目を細めた。
「静さん、それは森香茸で間違いないわ。これほど見事に群生しているのは珍しいわね」
その少し先では、白銀の毛並みを揺らしたルナがふわりと駆け寄ってきて、小さな口に咥えていたキノコをそっとフォルティナの足元へ差し出した。
「ルナ、そのキノコは私にくれるのですか?……ありがとう」
フォルティナは目元を和ませ、嬉しそうにルナの頭を優しく撫でる。何のキノコかは分からなかったが、ルナが自分のために一生懸命持ってきてくれたことが、何よりも嬉しかった。
その様子を見ていたフレイアが、フォルティナの手元のキノコに目を留め、ハッと息を呑む。
「ティナ、それ……『清癒茸』じゃない? 病気や疲れの時に食べると、体調の回復がぐっと早くなる貴重なキノコよ」
フォルティナが驚いて手元のキノコを見つめ直すと、隣のミレイアが懐かしそうにサファイア色の瞳を細めた。
「姉さん、その『清癒茸』……私、小さい頃に体調を崩した時に食べたことがあるわ。とても美味しくて、すぐに元気になったのを覚えているもの。滅多に採れないって聞いていたけれど……」
ルナはフォルティナの膝に前足をかけ「くぅん!」と誇らしげに喉を鳴らしていた。
一方、少し離れた木の上でキノコを見つけたサンは、パチッと静電気のような小さな音と共に、瞬雷のような速さでフレイアの元へ戻ってきた。
「ぴぴっ!」
元気に鳴いて、フレイアの手のひらの上に小さなキノコをぽとんと落とす。
「あら、サンも持ってきてくれたの? 嬉しいわ」
フレイアが愛おしそうに撫でてやると、サンは誇らしげに黄色い羽毛をふわりと膨らませた。その様子を見ていたリーナがキノコを覗き込んで小さく頷く。
「フレイアさん、そのキノコって『金糸茸』じゃないかしら? 体力の回復を助けるキノコだから、『清癒茸』と一緒に食べるとすごく相性がいいわね」
フレイアは驚きに目を丸くし、サンの小さな頭をもう一度優しく撫でた。
「サン……ありがとう。とても貴重なものを見つけてくれたのね」
「ぴぃ!」
サンは嬉しそうに一鳴きすると、フレイアの肩の上へちょこんと飛び乗った。
そんな賑やかな輪から少し離れた場所では、マルが前足で一心不乱に土を掘り返していた。
「マル、そんなところを掘ってどうしたの?」
様子を見に近寄ったリーナが声をかけると、マルは土の中から黒く艶めく丸いキノコを掘り起こし、リーナを見上げて「ぷぷぅ!」と得意げに鳴いた。
「え?……マル、それって『黒宝茸』じゃない! 貴族の間では『魔力を帯びた黒い宝石』と呼ばれる最高級品よ!」
いつも冷静なリーナの驚く声が林の中に響き渡る。
さらに別の場所でも、幼体たちの見事な発見が続いていた。
ミレイアとルゥは、ぷるんとしたゼリー状でみずみずしい栄養満点の『水雫茸』を発見し、ルゥが「くぅ」と満足そうに鼻先を寄せていた。
アリアとあかねは、赤く燃えるような風味豊かな辛味香辛料の代わりになる『紅炎茸』を見つけ、あかねが「きゅ!」と誇らしげに尻尾を振っている。
フィアとハルは、傘が薄く、茎の部分を熱して食べるとマシュマロのような食感と甘味になる『風渡茸』を見つけ、フィアが「ねぇ静、これ絶対美味しそうだよ!」と大はしゃぎしていた。
やがて、それぞれが採れたての珍しいキノコを抱え、静の元へと集まってきた。
フォルティナとフレイアは、山と積まれたカゴの中身を見つめ、どこか放心したように顔を見合わせた。
「……僅かな時間で、これほどの品が集まってしまうなんて」
「本当ね……。清癒茸に金糸茸、黒宝茸まで……普通なら、それぞれ何年もかけて探すような品ばかりなのに」
二人が静かに戦慄している一方で、当の静はカゴの中身をのんびりと覗き込んでいる。
「今夜はキノコづくしのご飯にしようか。森香茸のバター炒めに、清癒茸と金糸茸を使ったスープ……あ、風渡茸はデザート代わりに炙ってみようかな」
「わぁ、それすっごく美味しそう!」
フィアが目を輝かせて即座に賛同すると、周りの幼体たちも「きゅ!」「ぷぅ!」「くぅ!」とそれぞれ期待に満ちた声を上げた。
「みんな、すごいね。こんなにたくさんの種類があるなんて……今夜のスープや炒め物が楽しみだな」
静がカゴを広げて柔らかく微笑むと、カゴを囲む幼体たちと仲間たちの温かな笑い声が、少し薄暗い林の中にどこまでも爽やかに広がっていくのだった。




