↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第十八章 悠久の大樹と繋がりゆく日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
211/268

第四話 木漏れ日の診療所と受け継がれる光

大樹での賑やかな探索から数日が過ぎた穏やかな朝。

朝食を終え淹れたてのお茶の湯気が優しく立ち上る中、セリナが和やかな笑顔でみんなに問いかけた。


「今日はフォルツの仮設診療所に行く日ですね。みなさんはどうされますか?」


「そうだね。今日は炊き出しの予定もないし、特に決めていなかったけれど……」


静がのんびりと応じると、長椅子に腰掛けていたアリアがカップを置いて口を開いた。


「私たちはセリナの護衛と、ギルドへの定期報告と納品ね」


「そうね。私とフィアはセリナと一緒に行って、護衛を兼ねて診療所の手伝いをしようかしら」


ミレイアが優しく微笑むと、隣のフィアが猫耳をぴこんと揺らし、元気いっぱいに身を乗り出した。


「そうそう! 今日はそっちを手伝うね。ハルやみんなも一緒に行って、子どもたちの面倒を見るから任せて!」


「私はアリアについていくわ。ギルドで少し調べたいことも生じたし……マルはみんなについていって、子どもたちをよろしくね」


リーナが足元を見おろすと、もふもふの毛皮を揺らしたマルが「ぷぅ!」と『任せて』と言わんばかりに力強く声を弾ませた。アリアの足元にいたあかね、フィアの肩のハル、ミレイアの腕の中のルゥも、「きゅ」「ひゅん」「くぅ」とそれぞれ頼もしく鳴いて返事をする。

ツキは当然のようにセリナの足元へ歩み寄ると、「にゃ!」と胸を張ってセリナを見上げた。


そんな賑やかな面々のやり取りを見ていた静は、ふと思いついたように手をぽんと打った。


「そっか。じゃあ、今日は僕もアリアたちについて行ってみようかな。いつもここで採れたものをどうやって納品しているのか、一度見てみたくて……ついて行ってもいい?」


「ええ、もちろんいいわよ。ここで採れた素材はもともと静のものだし、どう扱われているか見るのも面白いかもしれないわね」


アリアが楽しそうにウインクすると、フィアが「そうそう! 静って見かけによらず、ここの主様だもんね♪」とニシシと笑う。


「静はあまり気にしていないけれど、ここで採れるものは世間では一級品ばかりなの。高位素材にもなるから、喉から手が出るほど欲しがる人がたくさんいるのよ」


リーナが補足し、ミレイアも「そうね。静はそのあたりの世間の常識を知るのもいいかもしれないわ。きっと驚くと思うわよ?」と悪戯っぽく微笑んだ。


静は苦笑しながら、「そうかなぁ。ここの物ってみんなで集めたものだし、自分ひとりの物って気はしないんだけどな。……まあ、屋敷の貴重な収入源でもあるし、楽しみにしているよ」と温かく笑った。


全員の準備が整うと、静はごく自然に転移の力を発動させる。視界がふわりと淡い光に包まれた次の瞬間、一同はフォルツの街の静かな路地裏へと到着していた。


◆◆◆


「じゃあ、アリアたちとギルドに行ってくるから、そっちはよろしくね」


静が声をかけると、セリナも柔らかく目を細めた。


「はい、静様もお気をつけていってらっしゃいませ」


二手に分かれた一行のうち、セリナ、ミレイア、フィアの三人は、幼体たちを全員連れて賑やかな中央広場の脇にある仮設診療所へと向かった。


診療所に到着すると、そこにはすでに大勢の町の人々が集まっており、受診の順番を整えたり患者の誘導を手伝ったりしていた栗色の髪の少女――孤児院のエナが、セリナたちの姿に気づいて目を丸くした。以前、美味しい野菜やお菓子を届けてくれた優しいセリナの姿を見つけ、ぱっと表情を明るくする。


「あ……セリナさん!?」


小走りで駆け寄ってきたエナは、驚きと嬉しさが混ざった声を上げた。


「セリナさん、どうしてここに……? もしかして、体調でも悪いのですか?」


エナはセリナがこの診療所で治療を行う『先生』だとは思っておらず、心配そうに尋ねた。そんなエナにセリナは優しく目を細めて微笑む。


「ふふ、心配してくださってありがとうございます、エナさん。今日は体調が悪いのではなく、みなさんの診察と治療のお手伝いに来たのですよ」


「えっ……セリナさんが治療を……!?」


思いがけない言葉にエナが驚いて固まっていると、セリナの後ろから寄り添うように歩み出てきた二人――ミレイアとフィアへと自然と視線が向かった。


回復と支援魔法を司る落ち着いた知性あふれるエルフのミレイアと、猫耳をぴこんと揺らしつつ軽快で隙のない身こなしを見せる獣人のフィア。上級冒険者《ルミナ・ヴェール》たる二人の醸し出す「護衛」としての頼もしい存在感に、エナは思わずゴクリと息を呑んだ。


(セリナさんの護衛の方々……? すごく強そうで綺麗な人たち……)


そんなエナの緊張をほぐすように、フィアが明るい笑顔で手を振った。


「こんにちは! 私はフィア、こっちがミレイアだよ。セリナの護衛と子どもたちの相手をしに来たの。よろしくね!」


「あ……はい! よろしくお願いします、ミレイア様、フィア様!」


元気に頭を下げるエナの足元で、もふもふの毛皮を揺らしたマルが「ぷぷぅー!」と得意げに声を弾ませた。集まっていた子どもたちが「あ、もふもふちゃんたちだ!」「可愛い!」と歓声を上げて駆け寄ってくると、マルやあかねたちは嬉しそうに目を細めて子どもたちと戯れ始めた。


順番待ちで退屈そうにぐずっていた小さな女の子の元には、ハルがふわりと舞い降り、火照った頬にそっと「ひゅん」と優しい風を送ってやると、女の子はきょとんとした後にくすぐったそうに笑い出した。診察の順番が来るまで落ち着かない様子だった男の子の膝には、ルゥがちょこんと乗って「くぅ」と控えめに鳴き、思わずその子の顔にも笑みがこぼれる。ツキはセリナの手元をじっと見守りながら、時折「にゃ」と小さく鳴いて、診療所全体をそっと和ませていた。

そうして診療所の空気は、一瞬で温かな笑顔に包まれていく。


◆◆◆


診療が始まるとセリナは落ち着いた手つきで患者たちの傷や体調を丁寧に診ていった。

その傍らではエナは一切目を逸らすことなく、憧れと敬意の入り混じった真剣な瞳でセリナの手元を見つめている。優しいだけだと思っていたセリナが、これほどまでに手際よく、温かな光で人々を癒やしていく姿に心底感動していたのだ。


セリナはふと手を止め、肘に小さな擦り傷を作った男の子の治療にあたる際、脇で見守るエナへと優しく声をかけた。


「エナさん、少しこちらへ来て手伝ってくれますか?」


「えっ……あ、私ですか!?」


緊張した様子で隣に立ったエナの手を、セリナはそっと自身の温かな手のひらで包み込んだ。


「エナさんはとても心が優しく、人を助けたいという強い思いを持っていますね。……実はあなたの魔力にはとても綺麗で澄んだ『治癒の素質』を感じるのです」


「え……私に、治療の魔法が……?」


驚いて目を丸くするエナに、セリナは静の隣で学んだ『相手を思いやる気持ち』を言葉に乗せるように、穏やかに語りかけた。


「ええ。難しい理論や呪文ではなく……ただ『この傷が良くなりますように』『少しでも楽になりますように』と、相手を温かく包み込むイメージを持ってみてください。自分の手から、優しい光を届けるように……」


セリナの手を通して、穏やかで澄んだ魔力の流れがエナへと伝わっていく。

エナはゴクリと息を呑み、男の子の擦り傷へ小さな手のひらをかざして、ギュッと目を閉じた。


(痛いの、飛んでいけ……良くなって……!)


するとエナの小さな手のひらから、ポッと柔らかな淡い光が灯った。

男の子の肘の傷がじんわりと温かな光に包まれ――数秒後には赤みがすっと引いて綺麗に塞がっていったのだ。


「うわぁ! 痛くない! すごいよ、エナちゃん!」


男の子が歓声を上げると、エナは自分の手と男の子の肘を交互に見つめ、「できた……私、治療できた……!」と震える声でつぶやいた。


セリナは心からの温かな笑顔を向け、エナの頭を優しく撫でてあげる。


「素晴らしいですね、エナさん。あなたの優しい心が、ちゃんと男の子に届いたのですよ」


「セリナさん……! 私、もっと勉強して、セリナさんみたいにみんなを助けられるようになりたいです!」


感動で瞳を潤ませるエナに、セリナは「ふふ、はい。喜んで教えますね」と優しく頷くのだった。


◆◆◆


一方その頃、活気あふれるフォルツの石畳を歩いていた静、アリア、リーナの三人は、冒険者ギルド フォルツ支部の立派な建物の前に佇んでいた。


重厚な建物を眺めながら、静が「ここに来るのも久しぶりだな」と呟くと、隣のアリアが思い出したように楽しそうに目を細めた。


「そうね。静がフレイアさんと初めて会った時に、併設の食堂で待っていてもらって以来かしら」


「うん。あの時はなんだかドキドキしたけれど、今思うと懐かしいね。……で、今日は奥の納品窓口に行くんだよね?」


静が尋ねると、剣の柄に手を置いたアリアがニヤリと意味深な笑みを浮かべた。


「ええ。さて、静。ここから先は、あなたの『日常の常識』が少しだけひっくり返るかもしれないわよ」


「えっ……そこまで?」


何も知らずに首を傾げる静を伴い、三人は賑やかな冒険者ギルドの扉を静かに押し開くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。