↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第十八章 悠久の大樹と繋がりゆく日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
209/269

第二話 大樹の源泉と美味しいごはん

緑きらめく大枝の上で柔らかな風が葉を揺らし、心地よい葉擦れの音が響いている。

静たちが持ってきた新鮮な果物や、朝焼いたばかりの蜂蜜ボールの焼き菓子を小さくちぎって差し出すと、色鮮やかな小鳥やリスに似た小動物たちは大喜びでそれに飛びつき、夢中になって突ついていた。


「ふふ、みんな本当に美味しそうに食べますね」


セリナが隣で嬉しそうに目を細め、果物を美味しく頬張る小さな小動物の頭を優しく指先で撫でる。静の膝の上ではツキが「にゃ」と短く喉を鳴らし、小動物たちがはしゃぐ様子を穏やかに眺めていた。


「ツキは食べないの?」


静が問いかけると、ツキは我関せずといった様子でもう一度「にゃ」とだけ返事をし、静の膝の上で行儀よく丸まったまま動こうとしない。


「ふふ、ツキちゃんは味見よりも、みんなを見守るほうが性に合っているんですね」


セリナがくすくすと笑いながらツキの頭を撫でると、ツキは満足げに目を細めて喉を鳴らした。


その様子をのんびりとお茶を飲みながら眺めていたミレイアが、ふと薄紫色の瞳を細め、小動物たちへと優しい視線を向けた。


「この小さな子たち……ただの野生の小動物じゃないみたいね」


「ええ。かすかだけれど、とても澄んだ精霊の気配が混ざっているわ」


隣でハーブティーのカップを手にしていたリーナも静かに同意し、納得したように頷く。エルフやダークエルフである二人にとって、精霊の気配は幼い頃から親しんできた馴染み深いものだった。


その言葉を聞いて、静は感心したように目を丸くした。


「へぇ、精霊ってこんなに可愛くて、直接触れ合えるんだね。なんだかすごく親しみやすいな」


「とても可愛らしくて愛らしいですね。屋敷の周りのお花や木々にも、こういう優しい気配が満ちているような気がします」


セリナが柔らかく微笑むと、フィアが身を乗り出すようにして笑顔を弾ませた。


「すっごく可愛いよね! ハルたちも可愛いけど、こういうコロコロした小さな子たちも触ってるだけで癒される~♪」


フィアの肩の上で、緑毛のハルがフィアの頬に擦り寄るようにして「ひゅるぅ」と甘えた声を上げた。

アリアの足元にいたあかねや、ミレイアの腕の中のルゥ、リーナの足元のマルたちも、精霊の気配に包まれているせいか、心からリラックスした様子で小動物たちと寄り添って毛繕いをし合っている。


「あかね、そんなに毛づくろいばっかりしてると、私たちの出発が遅れちゃうわよ」


アリアが苦笑しながら声をかけると、あかねは名残惜しそうに小動物から離れ、「きゅ」と小さく返事をしてアリアの足元へと戻ってきた。


◆◆◆


賑やかで温かなお茶の時間を終え、静たちは名残惜しそうに手や尾を振る小動物たちに見送られながら、広大な大枝のエリアをさらに奥へと進んでいった。


奥へ進むにつれて、周囲を覆う葉の緑はいっそう深くなり、どこからか心地よい水のせせらぎが聞こえ始めていた。その音は進むごとに少しずつ大きくなり、やがてごうごうとした豊かな水流の響きへと変わっていく。


枝葉の開けた場所に出た瞬間、一同の視界がぱっと明るくなった。


「……うわぁ、すごい」


思わず声を漏らした静の目の前には、一層目で見かけた『大樹の泉』よりも遥かに巨大で、底の滑らかな木肌まで透けて見えるほど美しい泉が広がっていた。降り注ぐ陽光を受けて、水面がまるで宝石のようにキラキラと輝いている。


「……一層目より、ずっと大きな泉だね」


「そうですね、静様。あ……見てください、あの端の方から下の層へ向かってお水が流れていっていますよ」


セリナが指差した先を見ると、地面の代わりになっている太い大枝の隙間から、澄み切った水が幾筋もの美しい滝となって、下層へ絶え間なく流れ落ちていた。


ミレイアがその水流を目で追いながら、静かに感嘆の息を漏らす。


「ここから流れた水が、下の層の泉になっているのね……。だとしたら、ここは『源泉』といったところかしら」


「じゃあさ! ここはもう『大樹の源泉』って名前で決まりじゃない♪」


フィアが手を叩いて元気よく提案すると、その声に反応するように幼体たちが嬉しそうに声を上げた。


「きゅ!」とアリアの足元であかねが短く鳴き、ミレイアの腕の中でルゥがロップイヤーのような耳をパタパタと揺らして「くぅ」と甘える。

リーナの足元にいたマルは、広大な水面を見て気に入ったのか、大枝の苔を小さな手で「ぽむぽむ」と叩きながら「ぷぷぅー!」と得意げに声を弾ませた。


「あははっ、あかねたちもその名前が気に入ったみたいね」


アリアが楽しそうに笑うと、静は源泉の縁に膝をつき、透明な水を手で軽く掬ってみた。手に触れる水はひんやりと心地よく、驚くほど澄んでいる。少しだけ口に含んでみると、すっと身体の奥に染み渡るような優しい甘みがあった。


「うん、一層目の水もすごく美味しかったけれど、ここはさらにすっきりして美味しいね。またお屋敷に持ち帰って、美味しいお茶やスープに使ってみたいな」


「はい、静様。帰るときにたくさん汲んでいきましょうね」


セリナが隣で優しく微笑み、お互いに顔を見合わせて頷き合った。


◆◆◆


ふと、澄み切った『大樹の源泉』の中を覗き込んだ静が、水面の下で揺らめく光に目を留めた。

冷たく綺麗な水の中を銀色に輝く丸々と太った魚たちが、気持ちよさそうに群れをなして泳いでいる。


「あそこ、魚がたくさん泳いでるね。一層目の泉の魚も美味しそうだったけど、こっちのもすごく丸々としていて美味しそうだね。お昼ご飯の足しに少し捕ってみようか」


静の言葉に一番に反応したのは水辺が大好きなあかねだった。ルゥも興味深そうに身を乗り出し、水面をじっと見つめている。


「きゅー!」と声を上げたあかねは、アリアと一緒に浅瀬へと駆け寄った。


「あかね、右から回り込んで! 私はこっちから追い込むから」


アリアの指示に、あかねは「きゅっ!」と力強く返事をして即座に動き、二人の見事な連携で水面をバシャバシャと跳ねる銀色の影を浅瀬へと追い込んでいく。あかねが前足を上手に使って、見事に魚を陸へと弾き飛ばした。


「やった、あかねナイス!」


アリアがぽんぽんとあかねの頭を撫でると、あかねは誇らしげに「きゅ!」と一声鳴いて胸を張った。


ミレイアの腕の中にいたルゥは、水面をじっと見つめながら、跳ね上がった水滴が自分の鼻先に触れるたびに「くぅ」と可愛らしく鳴いて目を丸くしていた。


「ふふ、くすぐったい?」


ミレイアが笑いながらルゥの鼻先をそっと撫でると、ルゥは嬉しそうに目を細めて「くぅ」ともう一度甘えるように鳴いた。


フィアやハル、マルたちも浅瀬の周りに集まり、「ぷぅ!」「ひゅん!」と応援するように声を弾ませている。


「よし、これくらいあれば十分かな」


静たちが楽しそうに協力し合った結果、すぐに瑞々しく太った銀色の魚が何匹も捕れた。


一同は源泉のほとりにある、陽当たりの良い大きな太枝の上に大きな敷物を広げ、お待ちかねのお昼ご飯の準備を始めた。


静とセリナは、朝屋敷のキッチンで丁寧に作ってきたお弁当の重箱を開いた。きれいな黄色に焼き上がった卵焼きや、セリナが美しく飾り切りした鮮やかな野菜、香ばしく握られたおにぎりがぎっしりと並べられる。


静は先ほど捕れたばかりの新鮮な魚を手際よく下処理し、持参していた香草と粗塩を軽く振ってから木の串に刺す。持参した焚き火台に火を起こし、じっくりと炙り始めた。


パチパチと薪が爆ぜる音と共に、じゅっと香ばしい脂が爆ぜる食欲をそそる匂いが、源泉の清涼な空気の中に広がっていく。皮目がきつね色にパリッと焼き上がり、ふっくらとした身から白い湯気が立ち上った。


「わぁ……すごくいい匂い! さっきのおやつを沢山食べたのに……またお腹が鳴っちゃいそう!」


フィアが目を輝かせて身を乗り出すと、静は焼き上がった魚を一人ひとりに手渡した。


「熱いから気をつけてね。さあ、みんなで食べようか」


まずは焼きたての魚を一口かじると、パリッとした香ばしい皮の歯ごたえの後に、驚くほど柔らかくジューシーな白い身の旨味が口いっぱいに広がった。大樹の清らかな湧き水で育った魚には臭みが一切なく、香草の爽やかな風味が魚の甘みを引き立てている。


「……んっ、美味しい! 身がすっごくふわふわしてて、噛むたびにジュワッてうまみが出てくる!」


フィアが感嘆の声を上げ、アリアやリーナ、ミレイアも「本当ね、上品な味でいくらでも食べられそう」「お弁当のおかずともすごく合うわ」と笑みをこぼしながら味わっていた。


静とセリナは、幼体たちが食べやすいように身を丁寧にほぐし、小さく分けたお皿を出してあげた。


「ほら、熱くないように少し冷ましたからね」


静が差し出すと、ツキが「にゃ」と満足げに鳴いて夢中で食べ始め、あかねも「きゅー!」と嬉しそうに尾を揺らした。


「マル、そんなに慌てなくても、ちゃんと皆の分あるわよ」


リーナが苦笑しながら、頬に身を寄せたマルの口元をそっと布で拭ってやると、マルは照れ臭そうに「ぷぅ」と鳴いておとなしくされるがままになっていた。ルゥやハルも顔を見合わせながら、幸せそうな鳴き声を交互にこぼしている。


朝作ってきた心のこもったお弁当と、現地で捕れたばかりの贅沢な魚。

澄み切った『大樹の源泉』の水音と小鳥たちの涼やかなさえずりを背に受けながら、最高に贅沢でおだやかなお昼の時間がゆっくりと流れいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。