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観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第十一章 響き合う灯火と星を編む六色の絆

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閑話 六色の光、その先にあるもの

白の庭園。

星が瞬くような静謐な空間の中で、ルーナフィリスは地上を見つめていた。

無数の光の粒が夜空のように広がっている。


その一つ一つが地上に生きる誰かの灯りだ。

その中にひときわ温かく、少し不思議な輝きを放つ場所がある。


空白地帯の屋敷

ルーナフィリスはそこから視線を離せなかった。


「姉さん、また見てるの?」


フレアリアが赤みを帯びた金髪を揺らしながら

ルーナフィリスの隣に腰を下ろす。


「……見ていますよ」

「相変わらずね。で、今日は何が面白かったの?」


ルーナフィリスは少しだけ口元を緩めた。


「セリナが市場で真っ赤になっていました」

「あー! 見た見た! あの『デートみたいだね』ってやつでしょ!」

フレアリアが身を乗り出す。


「静ってば、本当に何も分かってないのよね。

 あの顔、あの声で、そんなことさらっと言っちゃうんだもの。

 セリナちゃんが可哀想なくらいだわ」


「可哀想、ではないと思いますよ」

ルーナフィリスが穏やかに言うと、フレアリアは「まあそうね」と笑った。


「むしろ嬉しそうだったもの。ツキがニヤニヤしてたし」

「ツキは……分かっていますね、きっと」

「神獣だもの。当然じゃない」


ミラシアが静かにやってきて、二人の隣に座った。

淡い水色の髪が、庭の光に柔らかく揺れる。


「フォルティナの方も見ていたわ」

「あの髪飾り、ずっと触ってるのよね」


フレアリアが言うと、ミラシアが微笑んだ。


「あの子は自分の気持ちに気づいている。でもまだ、言葉にする勇気がないのよ」

「セリナはまだ気づいていないの?」

「気づき始めている、というところかしら。

 黒晶の加護が、少しずつ背中を押しているわ」


ルーナフィリスは静かに頷いた。


思わず声をかけてしまったのは、あの夜のことだ。

礼拝堂でセリナが嬉しそうに報告してくるのを聞いて

自分でも少し驚くほど自然に言葉が出た。


(大切になさい、セリナ)


あんなに真っ直ぐに、あんなに誇らしげに報告されたら。

沈黙を守るなんて、私には無理でした。


「姉さんはもう十分過保護よ」

フレアリアが笑う。


「……そうかもしれません」

否定しなかった。


ウィスティアが風のように現れて、輪に加わった。


「ねえ、六色の星の話もしようよ。あれ、私のハルの分もあったじゃない」

「フィアちゃんの銀緑のピアス、可愛かったわね」

「ハルが嬉しそうにしてたのが一番良かったけど」


ウィスティアが軽やかに笑い、それから庭を見下ろした。

「見てよ、あの六つの光。バラバラに輝いているんじゃなくて

 お互いに細い光の糸で結ばれているわ。

 まるでお屋敷の守護が、あの子たちを包む薄衣になったみたい」


「ミレイアに贈られた『潤晶』も素敵だったわ」

ミラシアが静かに続けた。

「ルゥの力があんなに純粋な形で結晶化するなんて……

 静の魔力は本当に透き通っているのね」


「フォルティナとセリナの黒晶も」


ルーナフィリスが穏やかに言う

「あの二輪は、私の神気が最も濃く宿っている。静が二人を思って作ったから、そうなったのでしょうね」

「ふふ、そうね。あれはもう私たちの加護を超えて、あの人の『願い』そのものが形になった宝具だわ」


フレアリアが呟く。

「まったく……あの人、自分がどれほどのものを渡してしまったか、これっぽっちも分かっていないのよね」


ルーナフィリスは少し笑った。

「分かっていないでしょうね」

「それが一番すごいのよ」


フレアリアが言う。

「計算して渡したなら、あそこまでの加護は宿らない。何も考えずに、ただ喜んでほしくて作ったから……あれだけのものになったのよ」


誰も返事をしなかった。

でも、全員が頷いた。


水鏡に映る六つの光は、地上の闇の中で小さな星座のように連なり

屋敷の住人たちを優しく包んでいた。


少し離れた場所では、ルートミアがずっと地上を見つめていた。


「……育った」


短い一言、全員の視線がルートミアに集まる。


「……あの芽が土から顔を出した頃から……ここまで育った」


ルートミアは続ける。


「セリナも、フォルティナも、あかねも、この庭も……みんな」


静かな声だった。

けれどその一言の重さに、白の庭園がしばらく静まり返った。


フレアリアが小さく笑う。

「珍しく長く喋ったわね、ルートミア」

「……そうか」


ルートミアは視線を地上に戻した。

ウィスティアがくすりと笑い、ミラシアが温かく微笑んだ。

「心まで、ね」


ミラシアが静かに付け加える。

「植物だけじゃなくて……あの子たちの心も、ちゃんと育っているわ」


ルートミアは何も言わなかった。

ただ、小さく頷いた。

それで十分だった。


「あの人の光……少し異質ね」

ミラシアがふと呟いた。


「静の?」

「ええ、他の誰とも違う。強いとか弱いとか、そういうことじゃなくて

 ……何というか」

「在り方が違う、ということかしら」


ルーナフィリスが静かに言った。

「あの人は力で誰かを守ろうとしていない。

 ただ、善意を渡し続けている。それだけなのに……

 気づいたら、あれほどの光になっている」


フレアリアが腕を組んだ。

「恋を知らない者が、恋を動かしているのよね」


誰も笑わなかった。

その言葉には、からかいではなく確かな温もりがあった。


「やがてあの光は、どこへ向かうのかしら」


ウィスティアが空を見上げながら言った。

誰も答えない

全部は言わない

でも、期待だけが静かに広がった。


ルーナフィリスは再び地上へ視線を向ける。

セリナが眠っている。

黒晶の髪飾りに触れながら、幸せそうに……


静は庭を見ていた。

瑠璃星草が揺れるのを、ただ穏やかに眺めながら……


「……大丈夫」

ルーナフィリスは小さく言った。


「あの子たちは、ちゃんと歩いています」


「それだけ?」

とフレアリアが笑った。


「十分じゃない」

とミラシアが穏やかに返した。


白の庭園に静かな笑い声が広がった。

星の灯りが

今夜も変わらず瞬いていた。

イメージソングを作成してみました。

もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。

物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。

https://suno.com/@10monoshin8


カクコムでも先行掲載しています。

もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

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