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観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第十一章 響き合う灯火と星を編む六色の絆

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第十話 星の欠片と重なる足跡

夜が明けきらぬ蒼い刻、礼拝堂の静寂の中でセリナは指先を髪飾りに触れた。

ひんやりとした黒水晶の感触が、昨日の出来事が夢ではないと教えてくれる。


(……ルーナフィリス様)


セリナは瞳を閉じ、内心で観測の女神へと語りかける。

いつもは一方的な報告だ。

けれど今日は、胸の奥に灯ったこの温かさを

どうしても伝えずにはいられなかった。


(静様から、この『黒晶の髪飾り』を頂いたのです。

私に似合うからと、一生懸命作ってくださって……

私、この灯りを一生大切にいたします)


報告を終え、いつものように目を開こうとした

その時だった。


『……大切になさい、セリナ』


風が撫でるような、透き通った声が耳朶を打つ。

セリナは驚きに目を見開いた。

慈愛に満ちた、まるで母が娘の成長を喜ぶような、柔らかな響き。


「……はい」


セリナは誰にともなく、けれど満面の笑みで小さく答えた。

黒晶の加護が、彼女の心に「自分の気持ちに正直でいていい」という

静かな勇気を与えてくれていた。


◆◆◆


キッチンでは静が朝食の準備を整えていた。

「あ、セリナ。おはよう。ちょうど今、サラダができたところだよ」


「おはようございます、静様。お手伝いしますね」


今朝のメニューは庭の畑で採れた完熟トマトとルッコラのサラダ、ハーブを練り込んだ自家製ソーセージ、そしてふんわりと焼き上げたパンだ。

静が手際よく調理を進める横で、セリナは温かなスープを器に盛り付けていく。


「ねえ、セリナ。調味料も少なくなってきたし

 久しぶりにフォルツへ買い出しに行かない?

 ちょうど旬の果物も出回る時期だし」


静の提案にセリナの心臓がトクン、と跳ねた。

「ええ……! はい、ぜひ。

 今なら林檎や葡萄が美味しい季節ですから、良いですね」


◆◆◆


朝食の席で静が《ルミナ・ヴェール》の面々にも声をかける。

「みんなもどう? 一緒にフォルツへ行かない?」


すると、ミレイアが穏やかな笑みを浮かべて一番に口を開いた。


「あら、残念だわ。今日はあかね達を連れて

 ルゥがいた鍾乳洞の先を調査しに行こうって話していたのよ。

 ねえ、アリア?」


アリアは一瞬だけ目を瞬かせたが、ミレイアの意図を即座に読み取ると

口角をわずかに上げた。


「ええ、そうね。魔力の澱みが溜まりやすい場所だから、早めに見ておきたいわ。ごめんね、静。今日は二人で行ってきてもらえる?」


「あ、そうなの? 邪魔しちゃ悪いかな」


「全然! 私たちも調査に集中したいし、気にしないで!」

フィアが明るく笑って加勢し、リーナも


「……そういうことだから、セリナ」

リーナはちらりと静の方へ視線を向けてから、セリナに向き直った。


「買い出しリスト、抜けがないようにね」

静は首を傾げていた。


◆◆◆


「じゃあ、みんな気をつけてね」


静がアリアたち四人と、あかね、ルゥ、ハル、マルの四匹を

鍾乳洞の近くへと転移で送る。


四匹は自分と同じ属性の結晶がはめ込まれたアクセサリーを

アリアたちが身につけているのが嬉しいのか、甘えるようにじゃれついていた。


「にゃにゃ」

ツキが、出発前のあかねの前に歩み寄り、前足でトントンと彼女の脚を叩く。

『しっかり頑張るのよ』とでも言いたげな、お姉さんらしい仕草だ。


「きゅ!」

あかねも短い尻尾を振って、元気よく返事をした。


「にゃ」とツキが満足そうに鳴いて静の側に戻ってくる。


仲間たちを見送り屋敷に戻った静は、準備を終えたセリナへと向き直る。

「さて、僕たちも行こうか。セリナもツキも準備はいい?」

「はい、大丈夫です」

「にゃーん!」


◆◆◆


一瞬の浮遊感を経て、一行はフォルツ近郊へと降り立ち、活気ある街中の市場へと向かった。

広場には色とりどりの野菜や果物が並び、香辛料の刺激的な香りが鼻をくすぐる。


「あ、セリナさん! 久しぶりね!」

馴染みの露店の女性店主が、目ざとくセリナに気づいて声をかけた。

「あら……。その髪飾り、めちゃくちゃ素敵じゃない! 透き通った黒なんて、どこで手に入れたの? セリナさんの金髪に映えて、すっごく似合ってるわよ」


「……あ、ありがとうございます。これ、静様に頂いたんです」

セリナが少し頬を赤くして答えると、女店主は静をチラリと見て、ニヤリと笑った。

「やるわね、静さんも。こりゃ一本取られたわ」


「にゃ」

なぜかツキが胸を張り、静はどこまでも無自覚な様子で首を傾げていた。


買い物を進めるうち、お昼時が近づいてくる。

「何を食べようか。ツキ、どこかお勧めはある?」


ツキは鼻をヒクヒクさせ、しっぽをピンと立てて歩き出した。

「にゃにゃ!」


「ふふ、ツキは美味しいものには目がありませんから。

 着いていきましょう、静様」


ツキの案内で、香ばしい匂いのする串焼き屋や、揚げたてのパイを売る露店を巡る。二人と一匹で賑やかに食べ歩きを楽しむ時間は

驚くほど穏やかで、満ち足りていた。


ふと、静が人混みの中でセリナの歩調に合わせ、呟いた。


「なんだかこうして歩いていると……ちょっと、デートみたいだね」


言ってから、静は少しだけ首を傾げた。

(あれ、変なこと言ったかな)


でも特に深い意味はなかったので、そのままにしたが

セリナにとっては心臓を直接揺さぶられたような衝撃だった。


「……っ。そ、そうですね。……他の方から見たら

 そう思うこともあるかもしれませんね」


言葉はそこで終わったが、内心では冷静ではいられなかった。


(デート……今、静様がデートと……。ど、どういう意味でしょうか?

 でも静様はそんな素振りもないですし……。でも、なんだか……)


慌て、悩み、けれど胸の奥で小さな喜びが弾けるのを感じて

セリナは視線を泳がせた。


セリナが少し上ずった声で答えたのを聞いて、静はまた首を傾げた。

(やっぱり変なこと言ったかな)


でも結局よく分からなかったので

「あ、林檎も見ていこうか」

と自然に歩き出す。


ツキはそんな二人を見上げて、誇らしげに「にゃー」と鳴いた。


◆◆◆


夕暮れ時、たっぷりの買い出し袋を抱えて屋敷に戻ると、連絡板が淡く光った。

【アリア:調査終了。そろそろ迎えをお願い】


静が迎えに行くと、あかねたちは遊び疲れたのか

アリアたちの腕の中で満足そうに眠っていた。


夕食の席では市場で見つけた果物を囲みながら

それぞれの「今日の一日」を報告し合う。

屋敷に流れる夜の時間は、一段と絆が深まったように温かかった。


その夜、ベッドに入ったセリナは、暗闇の中でそっと髪飾りに触れた。

脳裏に蘇るのは市場での静の言葉と

自分自身の戸惑い。


(デート……。たとえ静様に他意がなくても

 私にとっては、とても大切な一日になりました)


セリナは幸せな溜息をつき、ゆっくりと瞳を閉じる。

窓の外では瑠璃星草が静かに、昨日よりも少しだけ明るく輝いていた。



イメージソングを作成してみました。

もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。

物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。

https://suno.com/@10monoshin8


カクコムでも先行掲載しています。

もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

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