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観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第十一章 響き合う灯火と星を編む六色の絆

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第九話 星を編む、六色の守護

黒晶の瑠璃星草を摘んだ翌日のことだった。

朝食を終えて庭に出たリーナが、一際強い光を放つ場所を見つけ目を細めた。


「……静、ちょっと。あそこに咲いてる一輪、昨日摘んだのと同じような『気配』がするわ」


彼女が指差す先の幼体たちがよく遊んでいる場所

周囲の瑠璃色の海とは明らかに異なる

陽光を受けて一際煌めく一輪がそれぞれ咲いていた。


あかねが飛び跳ねていた場所には

焔のように揺らめく赤の『炎晶』


ルゥの側には

澄み切った水底を思わせる青の『潤晶』


ハルが駆け抜けた跡には

新緑を閉じ込めた銀緑の『風晶』


そしてマルの通り道には

大地の豊穣を象徴する琥珀色の『土晶』


さらに屋敷の入り口近く――

混じりけのない神気が満ちる場所には

月光をそのまま凝固させたような、青白く透き通る一輪が凛と咲いていた。

属性に染まらない純粋な魔力結晶の『瑠璃晶』


「本当だね、一輪ずつ咲いてる

 ……せっかくだから、アリアたちの分も作ってみようかな。

 いつもお世話になっているお礼に」


静はそう言って、再び縁側に銀細工の道具を広げた。


◆◆◆


静の指先が銀の地金を鮮やかに操っていく。

スキルの再購入で揃えた質の良い銀材を打ち

それぞれの個性に合わせた意匠を凝らす。


「アリアは前衛だから、邪魔にならないように小ぶりなブローチにしてっと

 リーナは……知的なペンダントヘッドが似合いそうかな」


静はアリア、リーナ、ミレイア、フィア

それぞれの立ち振る舞いを思い浮かべながら、銀を打ち、星を編んでいく。


フィアには動きに合わせて軽やかに揺れるピアス


ミレイアには柔らかな雰囲気に馴染む花の蔓を模した髪留め


そして最後の一輪

青白く輝く瑠璃晶を静はフレイアのため

凛とした彼女の美しさを引き立てる、洗練された髪留めへと仕立て上げた。


「……よし、できた」


並べられた五色の装飾品が

昼の光を受けて互いに共鳴するように淡く明滅していた。


「セリナとフォルティナさんの黒晶と合わせれば、六色か」

静はそう呟いて、小さく笑った。


◆◆◆


昼食を終えティータイムの穏やかな空気が流れる中

静は皆を呼び止める。


「アリア、これ。みんなに、いつも守ってくれているお礼なんだ」


静がさらりと差し出した箱を見て、アリアは焔色のブローチを手に取り

その底知れない魔力に喉を鳴らした。


「……これ、私たちが預かってもいいような物には見えないけれど」


少しの間を置いて、アリアは静かに続けた。

「……ありがたく使わせてもらうわ」


「やったぁ! ハルとお揃いだ! 静、ありがとー!」

銀緑のピアスを耳元に当て、フィアが庭へ飛び出す。


「ひゅん!」

ハルが嬉しそうに後を追い、二つの銀緑が夜風の中を舞った。


ミレイアはルゥの青色を宿した髪留めをそっと髪に差し

慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

「ルゥの温かさが伝わってくるようです。大切にするわね、静」


リーナは琥珀色のペンダントを光に透かし、その完璧な結晶構造をじっと見つめた。


(……これ、一国を動かせるレベルの宝具よ。相変わらず自覚がないのね)


溜息をつきながらも、リーナはそれを静かに首にかけた。

「……大切にさせてもらうわ」


最後に静はフレイアに歩み寄った。

「フレイアさん。フォルツと屋敷を繋いでくれて、ありがとうございます。

 これは貴女に」


青白く凛と輝く瑠璃晶の髪留め

普段冷静なフレイアが一瞬だけ言葉に詰まり、視線を落とした。


けれどすぐに彼女らしい気品ある微笑みを浮かべ

それを受け取る。


「……私にまであるなんて……静さん、貴方は本当に……」


最後まで言葉にはしなかった。

それでも受け取る手は確かだった。


◆◆◆


「お揃いですね、フレイ」

フォルティナが自分の髪で輝く黒晶の花を指差して

嬉しそうに親友に微笑みかけた。


「ええ、ティナ。私たち、これで本当にこの屋敷の身内になっちゃったみたいね」


フレイアが瑠璃晶を髪に添えながら、フォルティナとセリナを交互に見た。

二人の髪には、特別な黒い星が輝いている。


(二人とも、あんなに大切そうに身につけて……。静さんは本当に罪作りな人ね)


フレイアはフォルティナの恋心を誰よりも知る親友として

そしてセリナの想いも察する理解者として

心の中で温かなエールを送った。


「同じ黒い花……静さんにとって、セリナさんもティナも

 同じように大切で守りたい存在なのね。

 二人とも、本当によく似合っているわよ」


フレイアの温かい言葉に、セリナとフォルティナは顔を見合わせ

少し照れたように微笑み合った。


嫉妬ではない

同じ人を大切に想う者同士の

静かな連帯感


◆◆◆


その頃、庭では幼体たちの賑やかな声が続いていた。


あかねがアリアのそばへ近づき

外套の胸元で光る焔色のブローチをじっと見つめた。


「きゅ」


それからアリアの足元でちょこんと座る。


「……どうしたの?」とアリアが呟くと、あかねはもう一度

「きゅ」

と短く鳴いた。


アリアは少しだけ目を細めて、あかねの小さな頭をそっと撫でた。


ハルはフィアの周りを嬉しそうに旋回していた。


「ひゅん、ひゅん」

「ハル、一緒に走ろう!」


とフィアが庭を駆け出すと、ハルが風のように後を追う。

銀緑の色が、夕暮れの庭で軽やかに揺れていた。


マルはいつの間にかリーナの足元へやってきて、そのままごろりと丸くなった。


「……なんであなたが来るの」


リーナが呟くとマルは目を細めて返事をする。

「ぷぅ……」


リーナはしばらくマルを見つめ、ペンダントをそっと握った。

心が温かかった。


ルゥはミレイアの膝元で静かに丸くなり


「くぅ」

と小さく鳴いた。


ミレイアがその柔らかな耳をそっと撫でると

ルゥは目を細めてそのままじっとしていた。


その後、ハーブティーを啜りながらリーナは静かに観察していた。

魔導士としての彼女の目には、六色の星を身につけた全員が

目に見えない光の糸で結ばれているのが見えていた。


(……この六色が揃ったことで、屋敷の結界そのものが私たちと共鳴してるわね。

 毒も、病も、外からのあらゆる害意も……

 この光を纏う私たちには届かないかもしれないわ)


静が大切な人たちを守りたいと無意識に願って作った結晶。

それは世界を支配する力ではなく、大切なものを守り抜くための

究極の『お裾分け』だった。


「喜んでもらえてよかった。みんな、とてもよく似合ってるよ」


本人はその規格外の加護に気づくこともなく、ただ満足そうに笑っている。


「それじゃあ、フォルティナさん、フレイアさん。そろそろ街まで送りますね」


楽しい時間はあっという間に過ぎ、静が二人の肩にそっと手を置いた。


「またいつでも来てください」

「はい、ありがとうございます。静さん」

「また近いうちに、ティナと一緒に伺うわ」


一瞬の浮遊感の後、二人の視界はいつもの宿の一室へと切り替わった。

静かな部屋に残された二人の髪には、屋敷の光を宿した黒晶と瑠璃晶の星がある。

いつまでも変わらぬ輝きを放っていた。


◆◆◆


屋敷に静けさが戻った。

セリナは庭の端で瑠璃星草の灯りをぼんやりと眺めていた。


指先が髪の黒晶の花にそっと触れ思う。


(フォルティナさんと、お揃いの同じ花を静様が選んで作ってくれた。)


胸の奥に温かいものがゆっくりと広がっていく。

それが何なのか、今はまだうまく言葉にできない。

でも、それでいい。


(あの花みたいに、少しずつでいい)


庭では瑠璃色の灯火が風に揺れていた。

昨日より少しだけ多く、静かに、確かに。

屋敷は今日も穏やかで温かかった。

イメージソングを作成してみました。

もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。

物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。

https://suno.com/@10monoshin8


カクコムでも先行掲載しています。

もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

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