↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第十一章 響き合う灯火と星を編む六色の絆

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
115/290

閑話 やさしい灯りのその先で

夜の空気は、凛として静かだった。


空白地帯にある屋敷の礼拝堂。

小さな祭壇の前で、セリナはいつものように祈りを捧げていた。

蝋燭の炎がゆらゆらと揺れ、淡い光が壁を柔らかく照らしている。


ここはセリナにとって、心を整える大切な場所だ。

静と出会い、この屋敷で穏やかな日々を過ごすようになってからも

彼女の祈りは変わらずここにある。


けれど——今夜は少しだけいつもと違っていた。


祈りの言葉を紡いでいても、ふとした瞬間に

昼間の光景が胸の奥に浮かんでくる。


フォルツの宿で再会した、静とフォルティナ。

二人はとても自然に言葉を交わしていた。

領主と隣人

けれどそれ以上に、深い信頼を寄せ合う者同士の温かな空気。


それを見ていた時、胸の奥がほんの少しだけ

ちりり、と

小さく、疼いた。


「……」


セリナは祈りを止め、ゆっくりと目を開いた。

祭壇の女神像を見つめながら、指先を胸元に添える。


「……どうして、落ち着かないのでしょう」


小さく呟く。嫌な気持ちではない。苦しいわけでもない。

けれど喉の奥に小さな小石が引っかかったような

言葉にならない『もやっと』が、胸の奥に残っている。


「……よく、分からないです」


セリナは小さく息を吐き、再び静かに目を閉じた。


◆◆◆


その様子を遠く離れた場所から見つめる視線があった。


――白の庭園

夜空よりも澄んだ白銀の庭で、五柱の女神が円卓を囲んでいる。

最初に口を開いたのはフレアリアだった。


「ふふ、やっと芽が出てきたね。楽しみかな」


楽しそうな声にミラシアが柔らかく微笑みながらお茶を注ぐ。

「ええ。まだ、本当に小さな芽だけどね」


ウィスティアは軽やかに肩をすくめた。

「でも可愛いじゃない。本人は全然気づいてないみたいだけど」


その時、少し離れた場所で地上を見つめていた土属性神ルートミアが

静かに口を開いた。


「……触れるな」


短い言葉に女神たちの視線が集まる。

ルートミアは琥珀色の瞳を動かさないまま、続ける。


「芽は……自分で育つ。土を掘り返せば……枯れるだけ」


「はいはい、ルートミアは慎重ね」

フレアリアが笑うと、ルートミアは静かに目を伏せた。


その輪から少し離れた場所

観測の女神ルーナフィリスは礼拝堂で祈るセリナを静かに見守っていた。


「……セリナ。その灯りを……大切にしなさい」


夜風に溶けるような静かな声

それは神託というにはあまりに私的な

一人の少女への慈しみに満ちた言葉だった。


◆◆◆


翌朝

屋敷の庭には柔らかな陽光が降り注いでいた。


静は芝生の上にしゃがみ込み、手のひらに小さな袋の中身を広げている。

フォルティナからもらった『瑠璃星草の種』

水晶のように透き通った粒が、朝の光を受けて青くきらめいた。


「さて……どこに植えるのがいいかな」


静が呟くと、一番に反応したのはツキだった。

「にゃ」

黒い小さな体がぴょんと跳ねて種を覗き込む。


その隣にルゥが寄ってくる。

「くぅ」

さらにその後ろから、あかねが顔を出した。

「きゅ」


上空ではハルが小さく旋回し

「ひゅん」

芝生の上ではマルが満足そうにごろりと転がっていた。

「ぷぅ」


「みんな興味ある? 夕暮れに星みたいな花が咲くらしいよ。

 だから夕日がよく見える場所がいいかな」


「にゃにゃ」

ツキが案内するように歩き出す。静は笑って、その後ろについていった。


その光景をセリナは少し離れた場所から見ている。

静はいつも通りだ。

穏やかで、優しくて、誰とでも自然に笑い合える。


それを見ていると、昨夜の『もやっと』が

不思議と温かなものに変わっていくのを感じた。


「ミレイアさん……少しだけ、いいですか?」


台所で後片付けをしていたミレイアの隣にセリナは立った。


「どうしたの? セリナ」

ミレイアは優しく首を傾げる。


「今日、静様が……他の方と楽しそうにお話しされているのを見て、少しだけ落ち着かなくなったんです。これは、どういう気持ちなのでしょうか?」


ミレイアは一瞬だけ目を瞬かせたが、すぐに全てを察したように

慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。

「そう」


それ以上、理由も答えも口にしない。

ただ、セリナの肩にそっと手を置く。


「それはね、セリナ。あなたが静さんを心から大切に想っている証。

 とても、素敵な気持ちよ」


「……素敵な……気持ち」


セリナはその言葉を大切に胸に仕舞い込んだ。


◆◆◆


夜

庭には月光が静かに降りていた。

静は芝生の上で幼体たちと遊んでいる。


「ほらハル、高い高い」

「ひゅん!」

空を舞うハル。その下で、マルが甘えるように鳴く。

「ぷぷぅー」


ツキは静の肩に乗り、ルゥとあかねがその周りを跳ね回る。

賑やかで、けれどどこか静謐な、この屋敷だけの日常。


セリナはその光景をテラスから静かに見守っていた。

胸の奥に灯った、まだ名前のない光。

恋と呼ぶにはまだ幼く、けれど何よりも得難い、小さな芽。


「……静様のそばに……ずっといられたら」


小さく、独り言のように呟く。

夜空には無数の星が瞬き、まだ土に植えられていない瑠璃星草の種が

静の机の上で月光を反射していた。


それはまるで、これから芽吹く二人の未来を

静かに予感させているようだった。

イメージソングを作成してみました。

もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。

物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。

https://suno.com/@10monoshin8


カクコムでも先行掲載しています。

もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。