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観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第十一章 響き合う灯火と星を編む六色の絆

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第五話 琥珀色の安堵と、小さな揺らぎ

王都から五日の旅を終え、フォルティナは慣れ親しんだフォルツの領主館へと戻った。

執務室の椅子に深く身を沈め、彼女は机の上に置いた連絡板に指先を添える。

指先がなぞった跡が淡く光り、文字が定着していく。


【フォルティナ:無事にフォルツへ戻りました。

 少しお話ししたいことがありますが、静さんのご都合はいかがでしょうか】


送信を終え、フォルティナはふぅと息を吐いた。

以前、屋敷から空白地帯の境界まで転移で送ってもらったことがある彼女は

静にとって距離が問題ではないことを知っている。

それでも、境界からこの街までの道程や、静自身の予定もあるはずだ。


だが、板はすぐに淡く呼吸するように光った。


【静:おかえりなさい。僕も街へ買い物に行こうと思っていたので

 これから伺いますね。いつもの場所でいいかな】


「……『これから』ですか」

フォルティナは思わず隣にいたフレイアと顔を見合わせた。


「相変わらず、あの人の行動力と『普通』の基準は計り知れないわね」

フレイアが苦笑しながら肩をすくめた。


「でも、そうこなくっちゃ。さ、ティナ。いつもの宿へ行きましょう。あの子たちも待ってるはずよ」


◆◆◆


フォルツの街にある上級宿屋の一室。

扉を叩く音と共に現れたのは、見慣れた黒髪をポニーテールに結んだ青年と

柔らかな微笑みをたたえた金髪の少女だった。


「こんにちは。長旅、本当にお疲れさまでした」

「静さん、セリナさん。……本当に、もう着いてしまわれたのですね」


フォルティナが感嘆混じりに迎えると、静は「買い物のついでですから」と

やはりお隣へ来たような軽やかさで笑った。


「これ、屋敷で焼いたお菓子です。セリナと一緒に作ったので、お裾分けに」

「まぁ、ありがとうございます。さぁ、こちらへ」


部屋にはフォルティナとフレイア、そして静とセリナの四人が揃った。

静が持参した籠からは、香ばしく甘い香りが漂っている。

セリナが慣れた手つきで、屋敷から持参した茶葉を使ってお茶を淹れ始めた。


「――それで、王様は何て言ってました?」

静が温かい茶杯を手に尋ねる。

フォルティナは居住まいを正し、持参した木箱を机の上に置いた。


「陛下は……この結晶をフォルツへ持ち帰りなさいと仰いました。

 善意は善意のまま使われるべきだ、と」


彼女は、王が静を『不可侵の隣人』として認め、結晶をフォルツの発展に使う許可を出したことを丁寧に伝えた。


「へえ、物分かりのいい王様みたいでよかった。

 あそこで自然に出来たものとはいえ、やっぱり縁のある場所に役立ててほしいから」

静は感心したように頷いた。


「静さん。私は、今回の王室の判断を文書化し、正式にフォルツと空白地帯の

 『協力関係』を整えたいと考えています。

 これは静さんたちの平穏を、他国や教会の干渉から守るための

 『盾』にするためです」


「……なるほど。フォルティナさんがそう言ってくれるなら、心強いよ。

 僕たちは今まで通り、みんなと笑って過ごせればそれでいいから。

 好きにしていいよ」


静が信頼を込めてそう言うと、フォルティナの表情がパッと明るくなった。

二人が視線を合わせ、和やかに今後のフォルツの未来について語り合う。


その様子は、領主と謎の隣人というよりは

志を共にする親しい友人同士のようだった。


「……」


その時、お茶を注ぎ足そうとしていたセリナの手が、わずかに止まった。


楽しそうに笑う静と、彼に全幅の信頼を寄せるフォルティナ。

二人の間に流れる空気が、あまりに自然で温かい。

胸の奥が、ほんの少しだけ、ちりりと疼く。


(……? 私、どうしたのかしら)


嫌な気持ちではない。

喉の奥に小さな小石が引っかかったような、得体の知れない

『もやっと』した感覚。

セリナは自分の感情の正体が分からず、少しだけ俯いて、静かにポットを置いた。


◆◆◆


「あ、そうだ。これ、私からのお裾分けです」

話が一段落したところで、フォルティナが小さな袋を取り出した。


「王都で見つけた『瑠璃星草(るりほしぐさ)』の種です。

 種そのものが水晶のように透き通っていて、見ているだけでも綺麗なのですが……

 夕暮れにだけ、星のような青い花を咲かせるそうです」


「わあ、本当だ。透き通ってて、宝石みたいだね」

静が袋を光にかざすと、中の種がキラキラと青い光を反射した。


「ありがとう、フォルティナさん。

 これなら、みんなも喜んで一緒に植えてくれると思う」


「静さんの庭なら、きっと王都で咲くよりも美しく咲く気がします」

フォルティナが茶目っ気たっぷりに笑うと

静も「ハードルが上がっちゃうな」と楽しそうに返した。


フレイアがその様子を見ながら、セリナにそっと耳打ちする。

「ねぇ、セリナさん。あの二人、すっかり気心が知れちゃって。

 見てるこっちが当てられちゃうわね」


「え、ええ……。本当に、仲が良くて素敵だと思います」

セリナは無理のない笑顔で答えたが、やはり胸の奥の『もやっと』は消えてくれなかった。


◆◆◆


屋敷に戻った夜。

静と幼体たちが庭で種の植え場所を相談している間、セリナは台所で後片付けをしていたミレイアの隣に立った。


「ミレイアさん……少し、相談してもいいですか?」


「あら、セリナ。どうしたの? そんなに難しい顔をして」

ミレイアが優しく首を傾げる。


「今日、フォルツで静様とフォルティナさんがお話しされているのを見て……

 なんだか、胸のあたりが少しだけ変な感じがしたんです。

 苦しいわけではないのですが、落ち着かなくて……」


セリナが指先で自分の胸元をそっと押さえる。

ミレイアは一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐに全てを察したように

聖母のような慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。


「それはね、セリナ。あなたが静さんを、それだけ大切に想っている証拠よ」


「大切に……。はい、それはもちろん、命の恩人ですから……」

「ふふ、それだけじゃないかもしれないわよ?」


ミレイアはそれ以上は言わず、セリナの肩を優しく叩いた。

セリナは一人、窓の外で月光に照らされながら

じゃれついてくるマルを可愛がっている静の姿を見つめた。


恋、という言葉を知るにはまだ少し早いかもしれない。

けれど、夜風に乗って運ばれてきた瑠璃星草の種の輝きが

彼女の心に小さな灯をともしたような気がした。

イメージソングを作成してみました。

もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。

物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。

https://suno.com/@10monoshin8


カクコムでも先行掲載しています。

もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

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