132話
夕方に車に乗って、今は高速道路を走っている。
夏は日が落ちるのが遅いとはいえ、辺りが薄暗くなってきていた。
「高速降りたらすぐ着くわよー」
ウトウトしていたところに愛菜さんの声が響いて目を覚ました。
普通の一般道を走っている時は会話が弾むのに、高速道路になると静かになるのはなぜだろう。
隣を見ると明里さんはスヤスヤと眠っている。
窓の外を見ると、当たり前だけど全然知らない場所だ。
けっこう山の中にあるインターチェンジを出て、一般道を少し走ると、辺りの景色が温泉街っぽい感じになってきた。
老舗の雰囲気が漂う旅館や高そうなホテルに目を奪われて、キョロキョロと窓の外を見ていると、なんだかお高そうな老舗旅館の駐車場に車を停めた剛志さん。
「着いたわよ、直樹くん明里起こしてくれる?」
「は、はい」
「明里、着いたってさ」と体を揺らすと、「う…んー?着いたのー?」
とまだ眠そうに目をくしくしと擦る明里さん。
「チェックインしに行こうか」
ここまで1人で運転してくれた剛志さんがそう言って車を降りたので、俺も荷物を持って車から降りた。
車から降りると、ここの標高が高いのか、俺たちが住んでいる街より少しだけ涼しかった。
「あー、なんかここにくると夏休み始まったなぁっておもうよ」
後から降りてきた明里さんが俺より一回り大きなキャリーケースを引きながら俺の隣に来た。
改めて旅館の外観を見ると、古い建物だけれども決して寂れてるわけではなくて、古き良き旅館というか、気品ある雰囲気に圧倒されてしまった。
…俺ここに泊まるの?しかも1人部屋で?ヤバくない?
そんなことを思いながら立ちすくんでいると
「直樹ー!こっちこっち!」
と、明里さん達は旅館の方へと進んでいた。
慌てて追いかけると、旅館の中から綺麗な着物を着た女性が出てきた。
「ようこそお越し下さいました。」
そう言って綺麗なお辞儀をする女性。
「ふふ、なによ改まっちゃって優香ったら」
「えー最初はやっぱり肝心でしょ?毎年ありがとうね愛菜、剛志さんと明里ちゃんも。そして明里ちゃんの彼氏の直樹くん」
急にフレンドリーになった着物の女性。
「ふふ、優香今年もお世話になるわね」
「よろしく頼みます」
「お久しぶりです!優香さん!」
「明里ちゃんったらこんなイケメン捕まえちゃうんだから!愛菜から話聞いたとき驚いたわよ!」
「よ、よろしくお願いします!」
…俺の名前伝えてるんだ。
この人が愛菜さんの知り合いの人みたいだな。
「じゃあ受付して部屋、案内するわね。連絡もらってたからご飯の準備も出来てるわよ」
「伝えてた通り、直樹くんの分も私たちの部屋で一緒にお願いするわ」
まさかの部屋での食事付き!?
玄関で靴を脱ぎ、銭湯とかで見かける木の鍵で開け閉めするタイプの下駄箱に靴を入れ、愛菜さんが慣れた様子でチェックインを済ませ、部屋に案内される俺たち。
「ここが愛菜たちの部屋よ。これ鍵ね」
愛菜さんたちが案内された部屋の柱には〝牡丹の間“と書かれていた。
「で、こっちが直樹くんの部屋よ。はい、これが鍵」
俺の部屋は明里さん達の向かいの部屋だった。
柱には〝桔梗の間“と書かれている。
「直樹くん、30分後に愛菜たちの部屋に夕食運んでくるからね」
といって優香さんは元きた廊下を歩いて行った。
「荷物置いたらそっちの部屋行くね!」
「また後でね」
そう言って部屋に入って行った明里さんたち。
1人廊下に残された俺はドキドキしながら渡された鍵を使いドアを開けて部屋に入った。
部屋に入りまず思った感想は、俺の想像する旅館というものがそのままあった。
とりあえずキャリーケースを部屋の隅に置き、ぐるりと見渡す。
畳の部屋、窓の手前に謎の椅子と小さなテーブルが置かれている空間。
入ってすぐの畳の上にあるテーブルに温泉まんじゅうとお茶セット。
そのテーブルの上に館内の施設案内の紙が置かれていた。
…大浴場夜朝7時から夜10時まで、露天風呂有り、家族風呂有り。
お土産が売っている売店。
凄いな…さすが温泉街にある旅館。
今いる畳の奥に襖があったので開けてみると、板間の部屋があって見るからにフカフカのベットが置かれていた。
一泊いくらするんだろう……それを俺のためだけに部屋を取ってくれた剛志さんたち…やば…
とりあえずベットに寝転がってみると、見た目通りのフカフカ具合だった。
〝コンコン“というノックの後にドアが開いた音がした。
「遊びに来たよー!」
明里さんが部屋に入ってきた。
どうやらオートロックでは無さそうだ。
「直樹ー?…あ、いた!」
ベットに寝転がっている俺を見つけた明里さんは、そのまま俺の隣のスペースにダイブしてきた。
「おわ!」
「フカフカのベット見るとついやっちゃうよね!」
そう言って隣で横になっている俺を、笑いかけながら見つめてくる。
同じベットに寝転がっていて、無邪気な様子にドキドキと心臓が高鳴る。
「そ、そうだ、そろそろご飯運ばれてくるんじゃない?」
耐えられなくなった俺はベットから起き上がりそう明里さんに話す。
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