第23話
ベルンハルト師の調べは、3日かかった。
結果は、わたくしの読みと同じ。封蝋の守りの術がかけられたのは、半年前のあの夜。ゲルハルト侍従長も、問い詰められて、殿下の部屋の引き出しから持ち出したと認めた。
ユリウス殿下は、陰謀には加わっていない。
それで、片がつくはずだった。
「片がつくものか」
宮中の大広間で、重臣のひとりが声を上げた。陛下の御前に、ユリウス殿下も呼び出されている。久しぶりの宮中で、殿下は束ねた髪のまま、黙って立っておられた。
「企んではおらぬ、と。結構。されど、書状の文面をお忘れか。弟君の誓いが破れることを望む、と。望んだのは、まぎれもなく兄君ご自身。その望みを、侍従長は汲んだまでのこと」
広間が、ざわめいた。
うなずく顔が、少なくない。
「望むだけで罪か」
別の重臣が言い返す。
「思うだけで裁かれるなら、この広間の誰が無事でいられる」
「王族は、思うことにも責めを負う。それが王族というもの」
声が、ふたつに割れていく。
わたくしは、ユリウス殿下を見ていた。
殿下は、言い訳をしなかった。半年前の大広間で、聖女に飛びつき、乳母の言葉を鵜呑みにした方が、今は一言も弁明しない。黙ったまま、自分について言い争う声を、ただ聞いておられる。
陛下が、片手を上げた。
広間が静まる。
「ユリウス。何か申すことはあるか」
「ございません」
殿下は、まっすぐに陛下を見た。
「書いたのは私です。望んだのも、私です。……あの夜の私は、そういう男でした」
「今は、どうだ」
殿下は、少しだけ黙った。
「わかりません。少なくとも、ルートヴィヒの命を望んだことはない。それだけは、誓えます」
「誓い、か」
陛下は、低くおっしゃった。
「そなたは一度、誓いを守れなんだ」
殿下の顔が、わずかに歪む。
それでも、目は逸らさなかった。
◇
裁きは、陛下のものではなかった。
「これは、王太子の誓いに関わる件だ。誓いを負うているのはルートヴィヒ。裁くのも、ルートヴィヒがよかろう」
広間の目が、上座の脇に集まる。
12歳の王太子殿下は、椅子から立ち上がり、兄君の前まで歩いていった。
兄と弟。背丈は、まだ兄君のほうが頭ひとつ高い。
「兄上」
「……ああ」
「明日まで、時間をください」
ルートヴィヒ殿下は、そう言った。
「私は、すぐに決めてはいけない気がします。姉上に、三条目は一条目から読めと教わりました」
広間の誰かが、小さく笑った。
ユリウス殿下は、弟君を見下ろして、何か言いかける。言いかけて、やめた。
それから、なぜか、わたくしのほうを見た。
「ヴァルデン」
殿下が、わたくしの名を呼んだ。石ころではなく、名を。
「少し、話がある。……離宮へ戻る前に」




