第18話
髪飾りを外して、机の上に置いた。
小さな砂時計は、髪飾りと一緒に机へ移る。わたくしの頭の上には、6年分の大きな砂時計だけが残った。
ルートヴィヒ殿下が、机の上とわたくしの顔を見比べる。
「何か、乗っているのか」
「はい。祭りの魔法より、ずっと少ない砂が」
わたくしは、砂の量を読んだ。落ちる速さは、祭りの砂時計で3日かけて見慣れている。大きさが違っても、砂の落ち方の癖は同じ。
「切れるのは、明日の夕刻。……殿下が、祝辞をお述べになる刻でございます」
殿下の顔から、血の気が引いた。
祝辞のあいだ、わたくしは教育係として、壇上の殿下のすぐ後ろに控える段取りになっている。殿下から、腕一本ぶんも離れていない場所に。
「何の魔法だ」
「わかりません。わたくしには、残りしか見えませんので」
けれど、見当はつく。
脅迫状は、誓いが破れると言っていた。殿下の誓いが破れるのは、わたくしが王宮から追い出されたとき。わたくしが追い出されるとしたら、どんなときか。
民の前で、わたくしが殿下に何かをしたとき。
「この髪飾りが、祝辞の最中に何かを起こす。殿下の真後ろにいるわたくしの頭から。それが何であっても、民の目には、わたくしが殿下を害そうとしたように見えます」
「そうなれば、姉上は」
「宮中には置いておけません。……殿下ご自身が、たとえ止めようとなさっても」
殿下は、拳を握りしめた。
「ゲルハルトを捕らえる」
「まだ、なりません」
わたくしは、首を振った。
「この髪飾りがゲルハルト様からいただいたものだと、知っているのはわたくしだけです。今捕らえれば、知らぬ存ぜぬで通されます。魔法がかかっていたことも、わたくしの目でしか証せません。見えないものを見たと言い張る女と、長年仕えた侍従長と。皆さまは、どちらを信じるでしょう」
殿下は、答えなかった。答えは、わかっておられる。
「では、どうする」
「魔法が切れるのを、待ちます。皆さまの目の前で。何が起きるのか、誰の目にも見える場所で」
◇
その夜のうちに、わたくしはベルンハルト師を訪ねた。
師は髪飾りに手をかざし、長いこと唸っておられた。
「強い術を、小さく畳んで封じてある。切れるときに、封が弾けて中身が出る仕掛けだ。中身までは、わしにも読めん。……ただ、良いものではなかろうな」
「明日の夕刻、王宮の中庭で、これを見張っていただけませんか。衛兵の方々と、それから」
わたくしは、少し考えて付け加えた。
「ゲルハルト様も、お呼びして」
師は、白い眉を上げた。
「本人に見せるのか」
「祝辞の刻に、殿下のおそばではなく、中庭にいていただくのです。殿下の名で、祭りの警護の確認を頼めば、侍従長は断れません」
師は、しばらくわたくしを見ていた。それから、低く笑った。
「石ころとは、よく言ったものだ。転がしてみるまで、どこへ跳ねるかわからん」
髪飾りの砂時計は、机の上で、細く細く砂を落とし続けていた。
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