第17話
千の砂時計を、ひとつずつ調べる時間はない。
何の魔法なのかは、わたくしには見えない。わかるのは、残りの量だけ。ならば、量で探すしかない。
魔術院に問い合わせると、ベルンハルト師がすぐに答えてくださった。
「祭りの飾りの魔法は、祭りの初日の朝に、院の者が総出でかける。終わりは最終日の夜半。毎年同じでな。灯籠も花も噴水も、揃って切れるようにしてある」
「すべて、同じ刻に」
「そうだ。片づけの手間が省ける」
つまり、祭りの魔法の砂時計は、どれも同じ量の砂を抱えて、同じ速さで落ちていく。
その中に、違う量のものがあれば。
それが、誰かが後からこっそりかけた魔法だ。
◇
祭りの初日の朝から、わたくしは王宮と大聖堂のあいだを行き来した。
灯籠の砂時計は、どれも同じ量。花飾りも同じ。噴水も、鐘楼も、広場の旗も。同じ量、同じ量、同じ量。
目が、だんだん痛くなってくる。
祭りの王都は、ひどく賑やかだった。
花売りの声、焼き菓子の匂い、子どもたちの笑い声。人波を縫って歩くわたくしの目には、そのすべての上に砂時計が乗って見える。花売りの籠の花にも、焼き菓子屋の窯の火にも、子どもの持つ風車にさえ。
飾りでないものの砂時計は、量がまちまちで、比べようがない。だから、祭りの飾りと、殿下の通る道筋だけに絞るしかなかった。
上ばかり見て歩く女を、すれ違う人が不思議そうに振り返る。何人かは、つられて空を見上げていく。
何も見えないのに。
2日目には、祝辞の壇を組む大工の道具まで見た。殿下の馬車の車輪も、馬の蹄鉄も、御者の手袋も。護衛の剣も、聖堂の扉の錠も。
飾りの中に、違う量の砂時計はひとつもない。道筋の品々の砂時計も、持ち主に尋ねれば、どれも説明のつくものばかり。
「見つからぬか」
夜、教育の間に戻ると、ルートヴィヒ殿下が待っておられた。
「ございません。少なくとも、祝辞の道筋には」
「ならば、ただの脅しかもしれない」
「かもしれません」
そう答えながら、わたくしは自分の言葉を信じていなかった。ただの脅しのために、名を伏せた手紙をわざわざ王太子に届ける者はいない。
何かを、見落としている。
見えるものは、全部見た。見えないものは、そもそも見えない。では、見えているのに見ていないものは。
殿下が、わたくしの顔を見上げて、眉を寄せた。
「姉上。疲れている」
「少しだけ」
「髪飾りが、さっきから傾いている」
殿下が、わたくしの髪のほうへ手を伸ばしかけて、引っこめた。
「直したほうがいい。……それ、きれいだな。新しいのか」
わたくしは、髪に手をやった。
銀の、小さな花の髪飾り。3日前に、侍従長のゲルハルト様からいただいたものだ。「春のお祝いに。日ごろ殿下がお世話になっておりますので」と。去年の秋、教育の間から本を片づけさせた、あの侍従長からの贈り物。和解のしるしだと思って、受け取った。
わたくしは、壁の鏡の前に立った。
鏡には、砂時計は映らない。けれど、自分の頭の上は、鏡を通さなくても見える。
見上げる。
6年分の、大きな砂時計。毎朝毎晩、これだけを見上げてきた。見慣れすぎて、もう景色の一部になっている砂時計。
その、すぐ下。
大きな砂時計の陰に隠れるようにして、髪飾りの上に、指の先ほどの小さな砂時計が乗っていた。
砂の量が、違う。
祭りの魔法より、ずっと少ない。
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