↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「魔力なしの石ころが王妃など笑わせるな」と婚約破棄されましたが、もう少しで聖女さまの魔法が切れますので、どうぞそのままお続けくださいませ  作者: 桜野結
第4部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/41

第17話

千の砂時計を、ひとつずつ調べる時間はない。


 何の魔法なのかは、わたくしには見えない。わかるのは、残りの量だけ。ならば、量で探すしかない。


 魔術院に問い合わせると、ベルンハルト師がすぐに答えてくださった。


「祭りの飾りの魔法は、祭りの初日の朝に、院の者が総出でかける。終わりは最終日の夜半。毎年同じでな。灯籠も花も噴水も、揃って切れるようにしてある」


「すべて、同じ刻に」


「そうだ。片づけの手間が省ける」


 つまり、祭りの魔法の砂時計は、どれも同じ量の砂を抱えて、同じ速さで落ちていく。


 その中に、違う量のものがあれば。


 それが、誰かが後からこっそりかけた魔法だ。


◇


 祭りの初日の朝から、わたくしは王宮と大聖堂のあいだを行き来した。


 灯籠の砂時計は、どれも同じ量。花飾りも同じ。噴水も、鐘楼も、広場の旗も。同じ量、同じ量、同じ量。


 目が、だんだん痛くなってくる。


 祭りの王都は、ひどく賑やかだった。


 花売りの声、焼き菓子の匂い、子どもたちの笑い声。人波を縫って歩くわたくしの目には、そのすべての上に砂時計が乗って見える。花売りの籠の花にも、焼き菓子屋の窯の火にも、子どもの持つ風車にさえ。


 飾りでないものの砂時計は、量がまちまちで、比べようがない。だから、祭りの飾りと、殿下の通る道筋だけに絞るしかなかった。


 上ばかり見て歩く女を、すれ違う人が不思議そうに振り返る。何人かは、つられて空を見上げていく。


 何も見えないのに。


 2日目には、祝辞の壇を組む大工の道具まで見た。殿下の馬車の車輪も、馬の蹄鉄も、御者の手袋も。護衛の剣も、聖堂の扉の錠も。


 飾りの中に、違う量の砂時計はひとつもない。道筋の品々の砂時計も、持ち主に尋ねれば、どれも説明のつくものばかり。


「見つからぬか」


 夜、教育の間に戻ると、ルートヴィヒ殿下が待っておられた。


「ございません。少なくとも、祝辞の道筋には」


「ならば、ただの脅しかもしれない」


「かもしれません」


 そう答えながら、わたくしは自分の言葉を信じていなかった。ただの脅しのために、名を伏せた手紙をわざわざ王太子に届ける者はいない。


 何かを、見落としている。


 見えるものは、全部見た。見えないものは、そもそも見えない。では、見えているのに見ていないものは。


 殿下が、わたくしの顔を見上げて、眉を寄せた。


「姉上。疲れている」


「少しだけ」


「髪飾りが、さっきから傾いている」


 殿下が、わたくしの髪のほうへ手を伸ばしかけて、引っこめた。


「直したほうがいい。……それ、きれいだな。新しいのか」


 わたくしは、髪に手をやった。


 銀の、小さな花の髪飾り。3日前に、侍従長のゲルハルト様からいただいたものだ。「春のお祝いに。日ごろ殿下がお世話になっておりますので」と。去年の秋、教育の間から本を片づけさせた、あの侍従長からの贈り物。和解のしるしだと思って、受け取った。


 わたくしは、壁の鏡の前に立った。


 鏡には、砂時計は映らない。けれど、自分の頭の上は、鏡を通さなくても見える。


 見上げる。


 6年分の、大きな砂時計。毎朝毎晩、これだけを見上げてきた。見慣れすぎて、もう景色の一部になっている砂時計。


 その、すぐ下。


 大きな砂時計の陰に隠れるようにして、髪飾りの上に、指の先ほどの小さな砂時計が乗っていた。


 砂の量が、違う。


 祭りの魔法より、ずっと少ない。



お読みいただき、ありがとうございました!

皆様にお願いです

ブックマークや下の【☆☆☆☆☆】をタップして【★★★★★】に

応援していただけますと励みになります! よろしくお願いいたします(^^♪



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。