第4番『大魔術師クレア』
僕は戸塚和音。訳あって異世界転移した音楽家だ。そんな僕に異世界人生最大のピンチがやってきた。まぁ異世界2日目だが。
「すみませんでした!偉大なる大魔術師様をガキ呼ばわりなどと!!」
僕は勢いよく地に伏せ、土下座した。ほぼスライディング土下座だ。
「いや、良い良い。確かに、この身体はペットのようなものじゃ。これまた面白いやつを連れてきたものじゃな、キルシュよ。」
大魔術師様が笑いながらキルシュに問いかける。
「いいえクレア様。私の客人が無礼を働きました事、心からお詫び申し上げます。」
「良いと言っている。それと、面白いというのは此奴の魔素の色じゃ。」
ん?魔素の色?っていうか魔素ってなんだ?
「失礼ながら質問申し上げたいのですが、魔素というのは何でしょうか。」
大魔術師様はきょとんとした後、また笑い始めた。
「キルシュよ、此奴、魔素も知らずに今まで生きてきたのか!やはり面白いやつじゃのう!まぁ良い。教えてやろう。」
……大魔術師様によると、魔素というのは人の魔力が具現化したようなものらしい。そして、その魔素の色によって魔法の属性が決まるそうだ。
「そういえばお主、名前はなんじゃ?」
そういえば名乗っていなかったか。自己紹介もせずに魔法のことを聞くなんて、無礼そのものだろう。
「僕の名前はトヅカ カズトです。」
「そうかカズト。お主の魔素の色は妾が生まれてきてから一度も見たことがない。新しい属性と言っていいだろう。」
一体何年前から生きているんだよ…だが、女性に年齢を聞いたら何されるか分からないから(しかも相手は大魔術師様だし)やめておこう。
「名前は何魔法にするんじゃ?」
そう質問されると思っていた。予め名前は授かっているからな。
「…名前は音魔法にします。」
「…ほう、『音』とな?これまた面白い…」
そんな風に大魔術師様と会話を続けていたところ、キルシュが不思議そうに僕を見ている。人に凝視されるのは、何歳になっても恥ずかしいことだ。
「キルシュ、さっきから僕の方ばっか見てどうした?」
「いいや、この前の『おうえんか』もそうだが、やはりカズトには特別な力があるみたいだな。」
特別だなんて、照れるじゃないか。まぁ確かに特別だもんな。だって2度目の人生だもん。普通はありえないものだし。
「ではカズトよ。お主は別の目的があってここに来たのじゃろう?言ってみよ。
「…では、この世界の魔法の発動条件を教えてください。」
「そんなことでいいのか?ならまぁ教えてやろう。魔法の発動条件は主に2つ。1つは魔法を使うための魔力が体内にあること。2つ目は呪文を詠唱すること。この2つが満たされて魔法が使える。どうじゃ?これで十分かのう?」
やはりだ。僕の仮説は合っていた。僕の仮説というのは、応援歌の歌詞が『呪文』となり、僕の魔力を使い僕の意思とは別に勝手に魔法が発動した、というものだ。
、
「いいえ、ありがとうございました。これで僕の疑念が晴れました。」
よし。これで僕の仮説も証明されたし、帰るとするかな。こうして僕が席を立とうとした瞬間、
「まてカズト。妾の前で音魔法を使ってみい。少し気になるものでな。」
ん?………ん!?いやまずい!あの時の応援歌は再現性が無いぞ!!歌詞もとっさに思いついたものだし。クソ…どうすればこの状況を回避できるのだろうか。
分かったぞ!楽器を使えばいいんだ!楽器に魔力を流し込み、音を鳴らすことで呪文の条件もクリアする!
「すみません大魔術師様、何か箱のような物と木の棒のような物はありませんか?」
「…?木の棒と箱か?ちょうどキッチンの方にこの前買ったリンゴの箱がある。棒は小麦をこねるための棒でも良いか?」
「はい!ありがとうございます!」
……よし。準備は整った。あとは演奏するだけだ。魔力を棒に流し込んで…よし!いざ演奏!
こうして僕は祭囃子のリズムを叩いてみた。まぁなんとなーくだけども。
こうして叩いていると何やら大魔術師様が驚いているようだ。
「なっ!?棒で箱を叩いた時の音のリズムが呪文の役割をしているじゃと?あり得るのか…いやでも今あり得ているが…そしてなんじゃ!?妾の魔力量が増加している!?」
なんだかうまくいったようだ。大魔術師様もご機嫌の様子。…というより大魔術師様の魔力がさらに増えたら、一体どうなってしまうんだろうか。
「もう良い。音魔法の凄さは分かった。お主は戦闘の補佐役に向いているようじゃな。」
いわばゲームのバッファーか。味方にバフをつけてその味方に頑張ってもらう。なんか影の立役者みたいでかっこいいな。
「すみません大魔術師様。本日は本当にありがとうございました。僕とキルシュは帰らせていただきます。」
「そうか。音魔法、これからも楽しみにしているぞ。何かあったらまた妾を頼るが良い。」
「ありがとうございます。それでは失礼しました。」
こうして、僕と大魔術師様との初の対面は終わった。知りたいことも知れたし、2日目にしては上出来では無いだろうか。
というより、楽器の上手な活用方法が見つかって内心嬉しい。明日からも頑張る理由ができたのである。




