第2番『村での出来事』
彼女に連れられ数分歩くと、村が見えてきた。そんなに大きくはない農村だ。僕の数時間の苦労は一体なんだったのか。
「おぉキルシュよ!戻ってきたか!」
何やら村長らしき人が彼女…いやキルシュに向かって話をしている。
それに続けて子供達がキルシュに抱きつきに行っている。
「…ところでキルシュ、後ろの人は誰かな?この村の者には見えないが…」
「あぁ、こちらは私を窮地から救ってくれた恩人だ。自己紹介を頼む。」
あ、そういえば村までくる途中も無言で歩いてたもんな。お互いに自己紹介すらしてないや。
「僕の名前はトヅカ カズト。カズトって呼んでくれ。」
「…カズトさんか。私の孫を守ってくださりありがとう。しばらくはこの村にいるといい。」
…ん?もしかしてキルシュって村長の孫?たまたま村長の孫を助けられたなんて…まぁ僕は応援歌歌っただけだけど。
「そういえばカズト。あなたの使ったあの呪文は、どこで覚えたんだ?私は、それが1番知りたい。」
「いや、僕も知りたいくらいだよ。自分はただ歌を歌っただけなんだけど。でも、応援歌っていうのは説明できるかな。」
「ぜひ教えてくれ!」
キルシュは興味津々にこちらを見ている。そんなに音楽について知りたいのか。
「なら、説明するぞ。応援歌っていうのは、人を応援するために作られた魔法の言葉だ!」
「…それだけ?」
まっずーい!シンプルに説明しようと思ったらそれだけ?なんて言われちゃった!…といっても音楽のルーツなんて何時間あっても語りきれないって!!
「ごめんキルシュ。僕の説明が下手で、上手く説明できなくて…」
「いいやカズト、いい説明だった。シンプルな説明だったから、てっきりもっと難しい物だと思っていただけだ。」
これは、セーフなのか?いや、まぁキルシュの反応を見るにキルシュはお世辞で言っているわけでは無さそうだ。
「よし、私の疑問も晴れたことだし、カズトを村に案内してやる。それと、もうカズトとは仲間だな。」
初めての異世界の村。そして初めての異世界の仲間。 これから楽しみなことがいっぱいだ。
村の門から少し歩いてみると、広場が見えてきた。
「ここは広場だ。村の人の憩いの場ってとこだ。」
まぁどの世界でも広場は雑談したりゆっくり休んだり、色々なことに使われている憩いの場なんだな。
「あ!!キルシュお姉ちゃんとカズト!」
子供達がこっちに5、6人で突撃してきた。まぁ可愛いものだが。ん?というか…
「なんでキルシュはお姉ちゃんで、僕はお兄ちゃんじゃないんだよ!!」
「だってぇ、カズトがカズトって呼べって言ってたから!」
真に受けちゃったかぁ。まぁでも別にいいか。呼び方なんて、仲の良さに直接は関わりないし。
「カズト。次の場所に行くぞ。」
「分かった。じゃあな子供達ー!」
「ばいばーいキルシュお姉ちゃん!カズト!」
また少し歩くと、何やら異世界らしい鍛冶屋が見えてきた。
壁は石でできていて、入り口から見えるのは、溶鉱炉等といったまさに鍛冶屋の道具があった。
「よぉキルシュ!…それと誰だ?」
「こんにちはジャネル。この人はカズト。私を助けてくれた恩人だ。
鍛冶屋のおっさん…ジャネルは俺をジロジロ見た後笑い始めた。
「キルシュが助けられた?こんなヒョロヒョロに?キルシュお前、何か弱味でも握られてんのか?」
ひどい言われようだ。まぁヒョロヒョロなのは事実だが。
…剣士の女性がヒョロガリの男に助けられた。…なんて普通は信じないか。
「ジャネル、取り消しなさい。カズトはまず前衛じゃないし、助けてくれたとは言っても私にバフをかけてくれただけだ。ヒョロヒョロなのもしょうがないじゃないか。」
それ、本当にフォローになっているのか?いやでも僕のことを助けようとしてくれただけでありがたい。
「なんだそうだったかのか。魔術師とはな。すまないカズト、無礼を詫びさせてくれ。」
「いいって。確かに僕はヒョロヒョロだし。」
こうして僕達は鍛冶屋を離れた。案外街をまわるのに時間がかかり、もう日が地平線に沈みかけている。
「最後は宿屋。あなたはここに泊まるといい。」
宿屋は、僕が想像していたとおりの異世界の宿屋だ。木製の家ってだけで現代日本とは違うことをもう一度自覚する。
朝ごはんには米とかじゃなくてパンとスープが出てきそうだ。
宿屋の部屋についた。異世界転生して最初の日が終わりかけている。
たくさんの出来事があったが、楽しかったな。異世界1日目にしては上々だろう。
…唯一の心残りは応援歌の件だ。結局どうしてキルシュを助けられたのか。まぁ考えながら寝よう。




