第15話 思い出せない家
翌朝、少年をスパイクから出すのが怖かった。
昨日、私は一人で泣いた。
声は抑えたつもりだった。
けれど、少年は私が眠ると意識が薄くなると言っていた。
呼ばなければスパイクから出られなくても、中で何も感じていないとは限らない。
泣いていたことに、気づかれているかもしれない。
古いスパイクを前に、私はしばらく動けなかった。
今日は午前練習がある。
呼び出さないまま出かければ、少年を一日中スパイクの中へ閉じ込めることになる。
「出てきてください」
声が少し硬くなった。
古いスパイクが淡く光る。
光が部屋の中央へ集まり、制服姿の少年になる。
「おはよう」
「おはようございます」
少年はいつもと同じ声で言った。
けれど、私の顔を見たまま動かない。
「何ですか?」
「いや」
「寝癖なら直します」
「寝癖の話じゃない」
少年は少し迷ったあと、私の目元を指した。
「目、赤くないか?」
胸が跳ねる。
「寝不足です」
「昨日、早く寝ただろ」
「眠りが浅かったんです」
「そうか?」
「そうです」
私は少年から顔を背け、カーテンを開けた。
朝の光が部屋へ差し込む。
振り向かなくても、少年がまだ私を見ていることが分かった。
「美緒」
「何ですか?」
「昨日、泣いてたか?」
指先が止まった。
やはり、気づいていた。
「泣いていません」
「でも」
「泣いていません」
少し強く言うと、少年は黙った。
嘘だと分かっている顔だった。
それでも、それ以上は聞いてこなかった。
「分かった」
それだけ言った。
優しくされる方が困る。
何も知らないまま、いつも通りからかってくれた方が楽だった。
「朝ご飯を食べてきます」
「ああ」
「着替えるので戻ってください」
「分かった」
スパイクへ触れる。
少年の身体が光へ変わりかけたとき、ふと足元が目に入った。
古いスパイク。
外側の革に、細い線が走っている。
「待ってください」
「何だよ」
少年の輪郭が元へ戻る。
私はスパイクを持ち上げた。
「ここ……」
「どうした?」
「ひびが入っています」
黒い革の表面に、糸のように細い亀裂があった。
昨日まであっただろうか。
何度も手入れをしている。
見落としていたとは思えない。
「古いからだろ」
少年は気にしていない様子で答えた。
「ずっと飾ってたんだし、革くらい傷む」
「でも、昨日はありませんでした」
「本当に?」
「たぶん」
「たぶんかよ」
「毎日、細かいところまで確認しているわけではありません」
「じゃあ、前からあったんじゃないか?」
そうかもしれない。
古いスパイクだ。
少年から譲ってもらった時点ですでに使い込まれていた。
そこから何年も部屋に置いている。
ひびの一つくらい入ってもおかしくない。
それでも、胸の奥が落ち着かなかった。
「今度、手入れ用のクリーム買うか?」
少年が言った。
「革用の?」
「たぶん、それで少しはましになるだろ」
「蓮さん、そういうことも知っているんですね」
「スパイクの手入れくらいする」
「自分ではしないと思っていました」
「俺を何だと思ってるんだよ」
「後輩に任せそうです」
「任せない」
「本当ですか?」
「本当だ」
いつものように言い返される。
少しだけ安心した。
「帰りに見てみます」
「ああ」
私はもう一度スパイクへ触れた。
「今度こそ戻ってください」
「はいはい」
少年は光になり、古いスパイクへ戻った。
細いひびだけが残った。
◇
午前練習が終わったあと、私は少年と駅前のスポーツ用品店へ向かった。
夏休みの駅前は人が多い。
部活動帰りの学生。
買い物袋を持った家族。
日傘を差した人たち。
その間を、私と少年は並んで歩く。
もちろん、周囲の人には少年の姿は見えていない。
「遅い」
少年が言った。
「人が多いんです」
「さっきから同じ人の後ろ歩いてるぞ」
「追い越せる場所がありません」
「右、空いてる」
「自転車が来ます」
「まだ遠いだろ」
「危ないので嫌です」
「サッカーだと少しは思い切れるようになったのに」
「歩道で勝負する必要はありません」
店へ着くと、冷房の冷たい空気が身体を包んだ。
店員へ古いスパイクの状態を説明し、革用のクリームを一つ購入する。
そのあと、少年は店内に並ぶ新しいスパイクを眺めていた。
「今のは軽いな」
「昔のものより?」
「全然違う。履いてみたい」
「履けないでしょう」
「お前に入れば履ける」
「憑依はしません」
「言ってみただけだよ」
少年は新しいスパイクをじっと見つめている。
サッカー用品を見るときの少年は、いつも楽しそうだった。
「蓮さんも、家にスパイクがたくさんあったんですか?」
「あったと思う」
「何足くらい?」
「何足って……」
少年が黙る。
「覚えていないんですか?」
「数えてないだけだ」
「では、どこに置いていたんですか?」
「玄関とか、自分の部屋とか」
「お姉ちゃんが、部屋にたくさん並んでいたと言っていました」
「千春が?」
「前に聞きました。捨てられないスパイクが多かったって」
「ああ。そうだったかもな」
少年の返事が曖昧だった。
昨日の試合については、細かなところまで覚えていた。
右のポストへ当てたこと。
試合後に誰から何を言われたか。
校門でお姉ちゃんが待っていたこと。
それなのに、自分の部屋の様子は思い出せない。
「今度、昔の家へ行ってみますか?」
何気なく言った。
少年が私を見る。
「俺の家?」
「はい。昔の家を見たら、何か思い出すかもしれません」
「場所なら分かる」
「では、どの駅ですか?」
少年が口を開く。
けれど、答えは出なかった。
「ここから近いんですか?」
「近いはずだ」
「歩いて行けますか?」
「たぶん」
「どちらの方向ですか?」
少年が店の入口を見る。
右。
左。
駅の向こう。
どこにも視線が定まらない。
「蓮さん?」
「ちょっと待て」
少年は額へ手を当てた。
「この辺りなのは分かる」
「住所は?」
「住所なんか、いちいち覚えてないだろ」
「自分の家ですよ」
「番地まで覚えてないだけだ」
「最寄り駅は?」
「それは……」
また言葉が止まる。
「家の近くに、何か目印はありませんか?」
「コンビニがあった」
「どのコンビニですか?」
「分からない」
「学校から帰るとき、どの道を通っていましたか?」
「だから、ちょっと待てって」
少年の声が強くなった。
近くにいた客がこちらを振り返る。
もちろん少年の声は聞こえていない。
私が一人で棚の前に立っているようにしか見えない。
「外へ出ましょう」
私は小さく言った。
◇
店を出て、駅から少し離れた広場へ移動した。
木陰のベンチに座る。
少年は私の前を行ったり来たりしていた。
足音はしない。
けれど、その動きには明らかな焦りがあった。
「家の場所が分からないなんて、おかしい」
「落ち着いてください」
「落ち着いてる」
「落ち着いていません」
「分かるはずなんだよ」
少年は立ち止まる。
「俺の家だぞ」
「昔、学校からどう帰っていたか思い出せますか?」
「校門を出て」
「はい」
「駅の方へ歩いて」
「どの駅ですか?」
「……分からない」
「電車には?」
「乗ったと思う」
「家へ帰ると、誰がいましたか?」
「家族だよ」
「お父さんやお母さんの顔を思い出せますか?」
「当たり前だろ」
少年が答えようとする。
けれど、口を閉じた。
「どんな顔ですか?」
「どんなって……」
言葉が続かない。
「では、中学校の名前は?」
「それは……」
少年の表情がこわばる。
「中学時代の友達は?」
一人の名前も出てこなかった。
少年は唇を噛んだ。
「高校のチームメイトは?」
今度はいくつかの名字が出てきた。
ポジションや、得意なプレーまで迷わず答える。
「お姉ちゃんと初めて話した場所は?」
「高校の廊下。千春が友達と歩いてた」
「私と初めてボールを蹴った場所は?」
「河川敷の公園」
迷わなかった。
お姉ちゃんとの思い出。
私とボールを蹴った記憶。
高校時代の試合。
サッカーに関することなら、細部まで答えられる。
けれど。
家族の顔。
自分の家。
中学以前の友達。
サッカーに関係しない日々。
そこだけが、きれいに抜け落ちている。
「何でだよ」
少年が呟く。
「俺は瀬川蓮だ」
「はい」
「だったら、家くらい分かるだろ」
「そうですね」
「親の顔を忘れるわけない」
「はい」
「なのに、何で……」
少年が両手で頭を押さえる。
「思い出せない」
私は立ち上がった。
少年へ手を伸ばしかける。
けれど、触れることはできない。
肩に手を置くことも。
背中を撫でることも。
何もできない。
「蓮さん」
「俺は、本当に過去から来たのか?」
顔を上げた少年が言った。
胸の奥が冷える。
これまで少年は、自分が瀬川蓮本人であることだけは疑っていなかった。
「最初から、おかしかった」
少年が続ける。
「現在の俺が生きてるのに、どうして俺が別にいるんだ」
「それは、まだ分かっていません」
「美緒にしか見えない」
「はい」
「お前から離れられない」
「はい」
「物にも触れない」
「でも、私が触れていれば少し触れます」
「そんな人間いるかよ」
少年の声が震えていた。
私は何も言えなかった。
「俺は何なんだ?」
初めてだった。
少年が、自分の存在そのものを怖がっているように見えた。
「今すぐ答えを出さなくてもいいです」
「でも」
「記憶がないからといって、全部が嘘になるわけではありません」
「家族のことも覚えてないのに?」
「私とのことは覚えているでしょう」
「それは」
「お姉ちゃんとのことも。サッカーのことも」
「都合よすぎるだろ」
少年が吐き捨てるように言った。
「俺が覚えてるのは、サッカーと千春と、お前のことばかりだ」
胸が痛む。
それは、私にとってはうれしい言葉にも聞こえてしまう。
少年の記憶の中に、私がいる。
家族の顔すら思い出せないのに、私とボールを蹴った場所は覚えている。
でも、喜んではいけない。
少年自身が、今その偏りに苦しんでいる。
「思い出せないだけかもしれません」
「何が?」
「記憶がなくなったのではなく、今は出てこないだけです」
「そんな保証ないだろ」
「ありません」
少年が私を見る。
「でも、分からないことを悪い方へ決めつけても仕方ありません」
「美緒は怖くないのか?」
「怖いです」
正直に答えた。
「蓮さんが何なのか分からないことも」
少年の表情が曇る。
「でも」
私は続ける。
「今ここにいるあなたまで、分からなくなったわけではありません」
「どういう意味だよ」
「口が悪くて、すぐに無茶をして、自信家で」
「悪口か?」
「人のプレーには細かくて、失敗すると笑うくせに、落ち込んでいると放っておけなくて」
「美緒」
「今、私の前にいる蓮さんがどんな人かは知っています」
「それは、俺が瀬川蓮だからだろ」
「あなたが本当に過去の蓮さんなのかは、まだ分かりません」
口にした瞬間、少年の顔が固まった。
「じゃあ、俺は」
「でも」
私は言葉を重ねる。
「今ここにいるあなたにしかないものはあります」
「何だよ」
「私と一緒に過ごした時間です」
少年が目を見開く。
「現在の蓮さんは、私の練習へ毎日ついてきていません」
「それはそうだけど」
「私の身体を借りて試合にも出ていません」
「ああ」
「借り物の勝利について、私と喧嘩もしていません」
「まだ根に持ってるのか?」
「今はそういう話ではありません」
「じゃあ何だよ」
「あなたが何者でも、ここで過ごしたことまでなくなるわけではないという話です」
少年は何も答えなかった。
広場を子どもたちが走っていく。
近くの噴水から水の音が聞こえる。
夏の日差しが傾き始めていた。
「昔の家へ行ってみたい」
しばらくして、少年が言った。
「場所が分からないんでしょう」
「千春なら知ってる」
「お姉ちゃんに、昔の家を聞くんですか?」
「ああ」
「理由もなく聞けば、不自然です」
「駄目か?」
「駄目とは言っていません」
「でも、確かめたい」
「本当に家を見ても、何も思い出せないのかを?」
「ああ」
少年が何者なのか。
昔の家を見れば、その答えに近づいてしまうかもしれない。
それでも、私も確かめずにはいられなかった。
「分かりました」
「聞いてくれるのか?」
「今日は聞きません」
「何で?」
「今の蓮さんのことで悩んでいるお姉ちゃんに、急に昔の家を聞けません」
「でも」
「少し考えさせてください」
少年は不満そうだった。
それでも最後には、うなずいた。
「分かった」
◇
駅から家へ向かう頃には、日が傾いていた。
西日が建物の間から差し込む。
少年はほとんど話さなかった。
何度も歩いた道。
いつもなら、練習のことや道を歩く人のことまで勝手に話す。
今日は前を向いたまま、黙っている。
黙って歩く少年を見ているうちに、さっきの言葉が頭から離れなくなった。
――そんな人間いるかよ。
「蓮さん」
「何だ?」
「お腹は空きませんか?」
「空かない」
「そうでしたね」
「何だよ、急に」
「何でもありません」
人間なら、練習後のこの時間はお腹が空く。
汗をかき、喉も渇く。
帰る家があり、そこに積み重ねた日々がある。
少年には、そのどれも思い出せない。
「美緒」
「はい」
「俺、昨日スパイクに戻ったあとのこと、少し分かってた」
足が止まりそうになった。
「何のことですか?」
「ずっと、声が聞こえたわけじゃない」
少年は前を向いたまま話す。
「でも、お前が泣いてる気がした」
何も答えられなかった。
「スパイクの中にいると、周りはほとんど分からない」
「はい」
「でも昨日は、何となく分かった」
少年がこちらを見る。
「俺が何か傷つけたのか?」
「違います」
「昨日の話が原因なのか?」
胸が締めつけられる。
少年は、どこまで分かっているのだろう。
私の気持ちを。
叶わないと知りながら、隣にいることを。
「蓮さんのせいではありません」
「じゃあ、何で」
「言いたくありません」
はっきり答えた。
少年が黙る。
「言いたくないことを、無理に聞かないでください」
「でも、俺は」
「蓮さんにも、思い出せないことがあるでしょう」
言ってから、後悔した。
少年の顔が傷ついたように歪む。
「すみません」
「いや」
「責めるつもりでは」
「分かってる」
少年は顔を背けた。
気まずい沈黙が落ちる。
「話したくなったら話します」
私は言った。
「今は、まだ言えません」
「分かった」
少年はそれ以上聞かなかった。
夕日が正面から差し込む。
眩しくて、私は目を細めた。
少年が光の中へ入る。
その瞬間。
制服の向こう側に、道路の白線が見えた。
「蓮さん?」
「何だ?」
少年が振り返る。
いつもの姿へ戻っている。
見間違いだろうか。
「今……いつもより、はっきり透けました」
少年の顔から血の気が引いたように見えた。
自分の腕を見る。
手のひらを光へかざす。
「今は?」
「普通です」
「本当に?」
「はい」
「前から、強い光だと薄く見えただろ」
「でも、今は制服の向こうに道路が見えました」
「夕日が強かっただけだ」
少年は自分へ言い聞かせるように答えた。
「前より強い光だった。それだけだ」
「そうですね」
私もうなずいた。
それ以外の答えを考えたくなかった。
古いスパイクのひび。
思い出せない家。
欠けている記憶。
一瞬だけ透けた少年の身体。
それぞれが無関係だとは、どうしても思えなかった。
けれど、何を意味するのかは分からない。
私は、分からないままでいてほしいとさえ思っていた。
◇
同じ頃。
瀬川蓮は、久しぶりに大学のサッカー部棟へ入った。
廊下には、汗と消臭剤の混ざった匂いが残っている。
以前なら何も感じなかった匂いだった。
今は、懐かしいと思うより先に息苦しくなる。
部員たちの声が、奥のロッカールームから聞こえた。
練習を終えたばかりなのだろう。
誰かが笑っている。
スパイクのポイントが床へ当たる音がする。
蓮は足元を見た。
履いているのは、黒いスニーカーだった。
右手には一枚の封筒。
中には、何度も書き直した紙が入っている。
監督室の前で立ち止まる。
扉を叩く。
「入れ」
低い声が返ってきた。
「失礼します」
監督は机の前に座っていた。
蓮を見ると、驚いた様子もなく椅子を指した。
「座れ」
「すぐ終わります」
「いいから座れ」
蓮は従わなかった。
机の上へ封筒を置く。
「退部届です」
監督は封筒を見た。
すぐには手を伸ばさない。
「そうか」
「今まで、ありがとうございました」
「まだ受け取っていない」
「もう決めました」
「いつ決めた?」
「ずっと考えていました」
「練習へ来なくなってからか?」
蓮は答えなかった。
「怪我をしたときか?」
「違います」
「佐伯にポジションを取られたときか?」
「関係ありません」
「なら、顔を上げろ」
蓮は監督を見た。
「サッカーが嫌いになったのか?」
「もう続けられません」
「質問に答えろ」
監督の声は静かだった。
「サッカーが嫌いになったのか?」
答えようとして、言葉が出なかった。
嫌いになった。
そう言えば終われる。
だが、口にできない。
「才能がないと分かりました」
「聞いていない」
「プロにはなれません」
「それも聞いていない」
監督は封筒へ手を伸ばした。
蓮は、ようやく受け取られると思った。
だが監督は封筒を持ち上げ、そのまま蓮へ差し返した。
「辞めることは止めない」
「なら」
「ただし、逃げた勢いで書いた紙は預からない」
蓮の指が動かない。
「逃げていません」
「練習へ顔も出さず、誰とも話さず、突然紙だけ持ってきた人間が言う台詞か?」
「もう決めたんです」
「なら、一週間後も同じことを言える」
監督は封筒を蓮へ返した。
「辞めるかどうかを決めるのはお前だ。だが、今日のこれは預からない。一週間後、同じ気持ちなら改めて持ってこい」
「時間を置いても変わりません」
「それを確認するための一週間だ」
蓮は封筒を握った。
紙が指の中で曲がる。
「練習へ来いとは言わない」
「……はい」
「試合を見ろとも言わない」
「はい」
「ただ、自分が何から逃げているのかくらい考えてこい」
蓮は何も答えず、監督室を出た。
廊下の奥から、部員が一人歩いてくる。
佐伯直人だった。
練習着の肩が汗で濡れている。
蓮を見ると、足を止めた。
「先輩」
蓮は目を逸らした。
「お疲れ」
それだけ言い、横を通り過ぎる。
「先輩、待ってください」
足は止めなかった。
背後から何か言われた。
聞こえなかったふりをした。
建物の外へ出る。
夕日が眩しい。
右手の封筒を見る。
返された退部届。
一週間後、もう一度出せば終わる。
今度こそ、サッカーから離れられる。
そう思った。
それなのに蓮は、封筒を捨てることも、鞄へしまうこともできなかった。




