第一章 三話
「ふーん。」
ティアは 無表情で感情が読み取れない反応をしている、興味を示しているのかなんとも思っていないのかは見分けがつかない、だがその眠たげな灰色の目は、遥か遠くを見ているような、だが確実にその薄い目はこちらを見ている。
天井穴から風が吹き、オルドはそんなティアの反応をしばらく見守ってから足を動かして先ほど破壊した封印結晶のもとへと足を運びしゃがんで結晶の破片を拾っていく、ティアはその場で首だけを動かして、?という顔をしてその姿で眺めていた。
結晶を拾い終わって荷物袋にしまってから、壊れた木の棒の破片を大事に大事に集めて目をつぶり手を合わせる、これまでの冒険で共に歩んだ相棒への感謝と弔いか。
「何してるの?。」
何気なく聞いて、オルドが答えた。
「今までワシを支えてくれた相棒に感謝を捧げているんじゃよ、最後への」
「ただの木のぼっこに?。」
オルドは木に棒の先端部分を掴んで持ち上げて見つめる。
「うむ、ガキの頃に拾い振り回して、その時からこいつはワシの相棒として杖であり叩き振るう棒じゃ、だから感謝じゃ」
「……じゃあ、私が他のあげるわ。癪だけど助けてもらったもの。」
「他のとな?」
ティアが手を胸まで上げる、すると白黒い何かが横に一本の線のようなものが走り、その線の中心から空間がぐにゃりと広がりひしゃげて穴が開く。
「ぬ!?、それは空間魔法か!?、じゃが魔法陣もなく無詠唱じゃと!?、魔法行使を無詠唱で行うだけなら高等技術じゃが、空間魔法という最上魔法を魔法陣も無くか!、流石はワシの孫じゃ!!」
もう孫と言われても無視をした。
それからその空間に空いた穴を両手でつかみ。
揺らし始めた。
小さい体でガタガタと音が聞こえてきそうなほどに、絹のような腰まで長い癖っ毛の白髪を暴れさせながら。
そしてその空間の穴からオモチャ箱をひっくり返したように、カラン、ゴトゴトといろいろな物が出てきた。
炎をまとった魔剣・青い宝玉を抱く杖・金の穂先が二つに分かれた二又の槍・極端に刃が大きいゴツイ斧・輝く聖剣
一つで土地の所有権を買い取れるほどの武具が他にもまだまだ出てくる。
「ほら、選びなさいな。一つだけよ。」
「こりゃすごいの、空間収納魔法か!?」
オルドはそう言いながら、炎をまとった魔剣を掴んで眺める。
「違うわ。空間収納ではないわ。」
「ほうほう、収納でないと」
あらかた見た後、魔剣を地面に置いた。
「?。……どうしたの?。早く選びなさいな。お礼と対価だもの。」
眼をこすり、眠たそうにしながら面倒くさそうに。
「せっかくじゃが、いらん」
「へ?。どうして。その砕けた棒切れなんかよりもはるかに良い物よ?。選べばいいじゃない。」
ティアは、何考えているのと言いたげに首を傾げる。
「ワシは実は魔剣や魔道具も作っておっての、だからこそ分かるが相当良い物じゃろ、強い!高い!凄い!」
「感想が雑だわ。」
「じゃがワシは賢者であって剣士でも魔法使いでも戦士でもない!振るう技術などない!使いこなせん!」
「それ言ったら賢者は木のぼっこも使わないと思うの。」
「それにそれで魔物を殴ったら死んでしまうではないか!へたしたら死骸も残らんぞ!」
「じゃあその杖、古代の賢者が使っていた宝杖よ、魔力を増幅して攻撃魔法を強化するわ。」
「それもボコボコにして観察をする前に吹き飛ばしては困るんじゃ!」
不機嫌だった、せっかく集めた自慢のコレクションをあまり好きではないと思っている人間に譲ろうとしてるのに断られた、自慢のコレクションを。
もうムキになっていた。
「あなた、武器を何だと思っているの。はぁ……じゃあ、加護ならどうかしら?。」
ため息をついていた。
「ほう、加護とな?」
「ええ。加護よ。直接に攻撃とは関係ないもの。受け取るでしょ?。」
空間に上半身ごと突っ込んで腹ばいでぶら下がった状態になりながら、もぞもぞと動いている。
そこから出てきたティアの両手には、右手に光に根を張る魔力を纏った若木の苗、左手に滑らかで淡く輝く白い鱗を持っていた。
「おお!」
食いついたと満足する、まず右手を挙げて。
「こっちは古代エルフ、エンシェントエルフね。そのエルフが住む森の里で育てられる神樹、その若木よ。得られる加護は知らないわ。」
「ほうほう。どうやって手に入れたのじゃ?、エルフ以外が触るだけであ奴らブチギレるじゃろう、矢やら魔法が飛び交うぞ」
「……。そしてこっちは、たぶん白い龍の鱗よ。得られる加護は知らないわ。」
「ほうほう龍とな、たしか二種類あって……、竜は属性を操り、龍は概念を司るだったかのう、いつか会いたいものよ」
両手を前にだし有無を言わさずに選ばせる。
「どっち?。」
「今思ったが……、これは孫からの初プレゼントではないか!、ではこっちじゃ!」
「はいはいそうね。」
「龍に会いたいから縁起担ぎじゃ!」
オルドは鱗を掴んで、ふんどしを揺らしながら鱗と木の棒の端の破片を上に掲げて決めポーズを決めていた。
「これで借りはなしよ。さっさと体内に取りこみなさいな。」
冷めた目でさっさとやれと促す、だがこの老賢者が素直に正規の使い方をするはずが無かったのだった。
よいしょとそのまま、鱗と棒の破片を合体させる、合体というか割れて出来たヒビに刺し込んだだけだが。
「何してるの……。そんなのに付けても効果出るわけないじゃない。加護っていうものはあなた自身に使うものなのに。ばかね。」
しかし異変が起きた、鱗が淡く光りだし、木に癒着して一体になっていく。
「え、は、……へ?何で?」
「おお!おおお!きたぞよ!」
そして鱗がついた木の破片を中心に、砕け散っていたものが次々と集まり繋がり、再生して元に戻っていった。
「ぐわっはっはっは!みよティアよ!、直った!、やはりじゃ、これはただの木ではなく世界樹の木じゃからのぉ!」
そういう問題なのか?、わからないが一つだけ確かなのは、ティアはもう考えることをやめた。めちゃくちゃだ。
「直った上にこりゃすごいぞ!、伸びるようになっとる、伸縮自在じゃ!、心なしか硬く頑丈になっとる気もするぞ!、加護素晴らしい!、孫プレ最高じゃ!!」
相棒が復活した喜びと、多機能化した嬉しさを溢れさせながら、木の棒を伸び縮させて遊び。
「これを孫守の杖と命名するぞよ!」
笑いながら降って感触を確かめる。
その様子をティアは眺めながらも、もう口を閉ざして挟まなかった。
「……変なの。」
無意識に口に出ていた、オルドはいろいろ試している、重さ、伸びる速度、縮む速度、伸びる距離、孫守の杖に込めた魔法陣が持続する距離。
そのとき、カタ、カタ、と爪が床にあたる音がした。




