第一章 一話 老賢者、古代都市で封印を殴る
初投稿です。
国語は苦手なのでご容赦を。
王都から遥か西、森山を越え。
古びた地図に記されていた土地、かろうじて読めるほど昔にあった大きな都市へのみちしるべ。
名は、古代都市ルメリア。
二千年前、天を突く塔が並び、夜でも太陽のような光が灯り、人々が魔力とは異なる力で稼動していた兵器を扱っていたという。
だが今、その都市にかつての栄華はない。
塔は折れ。壁は崩れ。ツタに呑まれ。苔が広がる。
鳥の声もなく、ただ、廃墟の奥から、時折何かが石に擦るような音だけが聞こえていた。
生き物が寄りつかない場所、魔物でさえ巣にすることをためらう場所。
そこに、一人の老人がいた。
褌≪ふんどし≫一丁で。
「ここが地図に記されし古代都市、ワシの五体、地肌にビンビン魔力の残穢をかんじる…実にけしからん!実に素晴らしい!!」
賢者オルド・バルナック、仁王立ちで満足そうに叫ぶ。
木の棒を背に背負いなおし、荷物袋から一冊の本の取り出す。
古代都市ルメリア。
魔物どころか生物見当たらず。
漂う魔力が原因か?。
書き残してまた足を動かす。
「ふむ。」
皮が厚くなった素足で踏み進んだが顔をしかめる。
「つまらんのう…」
しばらく歩き、つぶやく。
伝承を聞いてここまで来た、王都から一か月はかかる場所、だがこの老人は途中で、魔物の足跡を追い、毒草を齧り、魔狼とたわむれて、スキップしながら
二か月かけてここまで来たのだ。
ではなぜ道草を?。
賢者だからだ。
趣味の魔物大全に、新たな記録をつけられる、ワクワクしないはずが無い、なのに古代都市では何も起きない、不満がでるのも仕方がない。
聞いた伝承では、二千年前に恐ろしき化け物が都市を滅ぼし、大昔の勇者一行がそれを封じた。
勇者いわく、その存在は白き魔女だった、と。
なのに、魔物の魔の字もない。
しばらく歩くと、かつて都市の中心だったのだろう、他よりは形が残ってる半ば崩れた巨大な城が見えた。
感じる。
廃墟にただよう濃い魔力、それとは毛色が変わっていると肌でわかる。
「ほう、この魔力の回り方、結界に似た感触だわい。」
見つめて、オルドは笑った。
「当たりかの!」
大股で階段を踏みしめ、崩れた門を潜り、瓦礫を木の棒で殴り壊し、廊下を進む。
壁には古代文字が刻まれていたが、専門外なので見向きもしない。
しばらく迷いながらも進み、大広間が見えた、天井が抜け日の光がさして、広間の中央に降り注いでいる。
そして、その光の中に三メートルほどの青く濁った結晶があった。
「これは素晴らしいの、この結晶厚い、三、いや…、四か」
手で触れた瞬間、ふんどし一丁の肌がピリピリと震え、魔力をソナーのように飛ばし見極めようとする。
「これは…」
オルドは真顔で集中して、見えた、結晶の中、小柄な人影、膝を抱えるようにして眠っている。
「なるほど」
核心に満ち、うなずく。
「封印結晶じゃな!」
そのまま、鑑定魔法と解析魔法を唱える、だが。
「ふむ、わからん!」
あたりまえだ。
古代の、それも勇者だけが使える女神の魔法なのだ、数分、人が扱う魔法で解析できるものでは無いのだから。
だが、目の前に新種がいるかもしれないのに、このふんどし賢者が諦めるわけがない。
木の棒を手に取り出し構え。
「よし、殴るか」
「わからないのなら!壊せばよいではないか!!」
こういう奴なのだ、オルド・バナックという男は。
古代都市で暴れたかもしれない、封印されている存在、それを解き放っていいのかという常識など、決して求めてはいけない。
「ぬん!」
木の棒を振りかぶり、突き、ぶん殴る。
ゴオン、ドゴン、鈍い鐘のような音が大広間に響く。
「硬い!硬いぞ!」
なぜか嬉しそう。
「実に硬い! これは良い封印じゃ! ぜひ破片だけでも持ち帰り、研究したい!」
もう一度
ガン。
さらにもう一度。
ズゴン。
ただ殴っているのでは決して無い。
木の棒には、解呪、振動、解除、といったあらゆる魔法をかけ、先程探ったときに感じた魔力密度の薄いところ、さらに経年劣化でヒビが入った部分を狙い、体には身体強化をかけているのだ。
封印結晶は割れない。
だが、ビキっと表面のヒビが広がった。
「よし。殴れば割れるぞ」
杖としても使っていた木の棒も軋む。
若いころに拾った、長年の相棒。
何度も魔物をわからせ、何度も野営で鍋をつるし、何十年も魔力を吸い馴染んだ棒。
いま、ギシギシと音の悲鳴を上げている。
「すまんのう、相棒よ」
魔力を最大に込める。
「だが、もう少し付き合ってくれ」
先ほどとは違う、棒が答えるように輝く。
空気が震え、踏みしめる床は砕ける。
大広間の結晶が抵抗するように、魔法陣が浮かび上がる。
それでも、オルドは止まらない。
いざ!。
「ぬおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
渾身の一点への突き。
甲高い音。
パキン。。
小さな音がした。
パキパキパキ。
クモの巣のようなヒビが広がって。
そして。
バキャンと、結晶が砕けた。木の棒も粉々に。
結晶の破片が舞い散り、大広間に散らばる。
「ぬお?」
オルドは腕で目を庇いながらも見据えて、目が合う。
眠たげな灰色の瞳。
白い薄衣をまとった細く小柄な体。
音もなく、形容するならふわっと着地して、白く長い髪が膨らみ下がる。
そこに立っているのは、化け物とはほど遠いい、一人の少女。
人形のような整った顔立ちは、どこか儚く、今にも光に溶けて消えてしまいそうな、そう見えた。
だが、次の瞬間、都市に漂う魔力が震え、少女に吸い込まれていく。
地が震える。
天井から瓦礫が落ちる。
古代都市が、彼女の目覚めに怯えているようだった。
オルドはそれを見て、一言。
「かわええのぅ」
静寂、少女はゆっくり何度も瞬きをして。
「は…?」
眠たげな瞳が、オルドの顔を見る、そして下に下がり、また顔を見る。
「……あなたが、私を解放して起こしたの?」
声は聴き心地がいいほど静かだった。
澄んでいて、どこか退屈そうだった。
オルドは仁王立ちで胸を張り。
「うむ。ワシじゃ!」
少女は少し黙り、目線がまた、下にいく。
そして、ぽつりと。
「……どうして服、着ていないの……」
オルドはまじめに答えた。
「これか? これはのぅ、魔力を全身で感じ取るためじゃ!」
そう、この男は長年の探究と研究によって、当たり前のことに気づいたのだ、魔力とは体内だけにあらず、空気や水の中にも流れていると。
それを感じ取るためにならばどうするか、削ぎ落としたのだ。
服を。
お気にの褌だけは、唯一の許容。
「つまり賢者だからじゃ。これこそが正装なのじゃ!」
少女はもう一度、目の前の老人の顔を見て下に目線を落として、それから、心底嫌そうに呟いた。
「賢者…そう。今の賢者は、それが普通なのね。」
しかし、目覚めて最初に見るのがこれだと思うと。
「いやな時代に起きてしまったわ。」




