君と俺とペンギン
~side:遥人~
「あのさ、、、ペンギン、好きかな?」
この子を泣かしてはいけないと必死で考えて
考えて考えて出た言葉が
ペンギン好きかな?だった
我ながら何を言ってんだと思う
ヒカリちゃんも、きょとんとしている
「あのね、ヒカリちゃん。おじさん、ペンギンが好きなんだ。」
それは本当だ
動物の中では一番好きだ
「これ、、、もらってくれない?」
白いシャツの胸ポケットに入っているものを取り出して
ヒカリちゃんの目の前に差し出した
ヒカリちゃんは
佐野さんの手から離れ
「うわぁ、、、、可愛いっっ!」
と、泣きだしそうだった顔を満面の笑みに変えていく
小さくて短い手をゆっくり伸ばし
俺から差し出されたものを受け取ってくれた
ヒカリちゃんに渡したもの
ふわふわした小さい『ペンギンのぬいぐるみ』
「これね、可愛いなぁって思って、さっき近くのお店で買ったんだ」
公園に来る前に立ち寄った
よく行く雑貨屋で購入したものだった
「もらっても、、、良いの?」
俺の顔と佐野さんの顔を交互に見ながら
本当にもらってもいいのかな、と顔色をうかがっている
俺は、佐野さんの反応を確認するが
俺を見つめたまま動かない
俺は困ってしまってヒカリちゃんに向き直る
「おじさん、沢山ペンギンさん持ってるんだ。」
これも本当のこと
「沢山ありすぎてさ、おうちに置けないかもしれないんだ。だから、、、もらってくれないかな?」
ヒカリちゃんの反応を待つ
佐野さんは、、、
俺から目を離し、ぬいぐるみを見つめていた
「佐野さん、もし良かったら貰ってくれませんか?」
佐野さんはハッとして
何かを言おうと口を動かすのだが言葉が出てこないようだった
ヒカリちゃんが期待と不安を込めた眼差しで
「ママ、、、もらっても良い?」
勇気を振り絞るように口にした
「、、、、良いんですか?もらっても、、、」
佐野さんは少し遠慮するように確認してくる
「良いんです。ヒカリちゃんに、あげたくなっちゃったんです。」
泣かせたくない、悲しい思いをさせたくない
そんなことを考えていたら出た言葉
出会って数分の人から
そんなことを言われたら普通は遠慮するだろう
「ペンギンさん、可愛がってくれる?」
ヒカリちゃんに問いかける
「うんっ!」
元気の良い、明るい声が返ってくる
「よしっ、じゃあこの子はヒカリちゃんに任せたからね。」
ヒカリちゃんの頭をポンポンと触りながら
その顔に悲しみがないことを確認して立ちあがる
「ありがとうっ!」
とっても可愛い笑顔を俺に見せてくれた
話をすり替えただけの
卑怯なやり方だったかもしれない
でも
泣かせてしまうより
悲しい思いをさせるよりはずっと良い
「佐野さん、俺はこれで失礼します。」
「えっ?」
「長く一緒だと、ほら、、、またパパって、思い出しちゃうでしょ」
「そ、そうですね。」
そんな言葉を交わしていると
信号機が青に変わったことに気づく
「じゃあ、俺行きますね」
ヒカリちゃんはペンギンのぬいぐるみを見ながらニコニコしている
「ヒカリちゃん、バイバイ!」
俺は点滅し始めた青信号に向かって
ヒカリちゃんに手を振りながら駆け出した
「バイバイ!」「バイバイ!」
だんだんと小さくなっていくヒカリちゃんの声
「バイバイ! パパー!」
そう聞こえた気がした
信号を渡り切った
俺は振り向かずに
そのまま歩き出す
太陽の光を雲が遮る
湿った風が吹く
明日は雨になるのかもしれない
「俺は、、、もう、、、パパじゃないんだけどな、、、」
誰にも聞かれることのない小さな声が
風に消えていった




