手のひらはあたたかい
~side:楓~
信号が赤に変わり
男の人の後ろ姿がゆっくり遠ざかっていく
ヒカリは
ペンギンのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら
「バイバイ!」
と何度も嬉しそうに手を振っていた
私たちは
見えなくなるまで、ずっと後ろ姿を見つめていた
「、、、帰ろっか、ヒカリ」
「うん!」
沈んだ私の声とは対照的に
ヒカリの返事は弾むように明るい
涙を流すことなく笑顔になったことがとても嬉しかった
ヒカリと手をつなぎ家に向かって歩き出した
短い歩幅に合わせながら
ゆっくりと歩く
左手から伝わる温かさが胸を温かくする
さっきの出来事を思い返そうとするのに
感情が追いつかない
驚き、戸惑い、悲しさ、恥ずかしさ
そして、嬉しさ、、、
胸の中で全部が絡まって
ほどけないままぐちゃぐちゃになっていた
「ぺんぺーん♪ およぐよー♪ ぺんぎんさーん♪」
ご機嫌に歌うヒカリ
こんなに楽しそうに笑うヒカリを見るのは
久しぶりな気がする
小さな左手に握られたペンギンのぬいぐるみが目に入った
あっ
ぬいぐるみのお礼、言えてないかもしれない
っていうか
私、もじもじ喋って変だった?
そもそも挙動不審で気持ち悪かったかも?
ずっと顔見つめてた気がする
失礼だったよね、、、、
しどろもどろで何言ったか覚えてないし
名前、、、、聞いてないや、、、、
今更気づいて、後悔が波のように押し寄せてくる
あの人に似ていたから
思考が止まっていたのかもしれない
そうだとしても
「ぽんこつだなぁ、私」
ため息交じりにこぼれた言葉を
ヒカリがすかさず拾う
「ぽんこつー♪ぺんぺんぺーんぎん♪ぽんぽんぺんぺん♪」
意味の不明な替え歌を楽しそうに歌っているヒカリ
その無邪気さに
なんだか可笑しくなって笑ってしまった
もういいや
考えるのやーめた
「なぁに、その歌?ママにも教えてー?」
「ぺーんぺーん♪ぺんぎんさんのうただよー♪」
「ふふっ。そっかぁ、ぺんぎんさんの歌なんだね」
「そうなのー♪」
ヒカリは好きなアニメの曲を
歌詞を変えて歌っているみたい
一緒に歌うのは難しそうだから、
私は音程だけをなぞって、鼻歌を添える
ヒカリは笑いながら歌い続ける
その声が、胸の中のぐちゃぐちゃな気持ちを溶かしていく
今はこれで良い
この時間が、ただ愛しい
手のひらはあたたかい
私たちの家が見えてきた
今夜はハンバーグにしよう
あの人が好きだった、甘めのソースをたっぷりかけて。




