【別章4】 ステップ バイ ステップ
~side:ヒマワリ~
立つ 座る 立つ 座る 立つ
まっすぐ立ったまま 右に体重移動 左に体重移動
座る
立つ まっすぐ 前に 後ろに 円を描くように その反対に
座る
たったこれだけのことが、、、出来ない
右膝の痛み、装具で固定された状態の動きづらさ
地面に足がついているのか、よくわからない
でも、何度も繰り返す
何度も何度も、失敗しながら繰り返す
右の手首はシーネ固定されていて平行棒や手すりをしっかり握ることが出来ない
今では、白川さんだけではなく
私が当初拒否をして追い返してしまっていた花村里香さんも加わってくれた
ナギサと再会した後
私の周囲は状況が一変し回復期病棟とういうところに移動となった
リハビリを重点的に行う患者さんが多い病棟らしい
「個室だと気が滅入るので多人数室に移るよ」と白川さんから言われた
私のことを知らない人と同室が良い、と伝えると
お母さんと一緒の年代の人ばかりの部屋に案内された
とっても賑やかで騒がしいけど、悲しくなる暇が無くて良かったと思う
もしかしたら白川さんが、そういう部屋を手配してくれたのかもしれない
――――――
<本格的なリハビリから1週間め>
まだ支えられないと車椅子に移れない
右腕が使えないのがもどかしい
立っているのか体が浮いているのか、よくわからない
でも、できることをやる
怪我をしていないところも弱っている
できることをやるんだ
<2週間め>
手首も右膝も、少し痛みが減ってきた気がする
でもまだ負担を掛けすぎてはいけないと白川さんに怒られた
装具をつけたまま立つことに少しずつ慣れてきたきがする
足で感覚が分からないなら、自分の目で見て補う
体の傾きや頭の位置を把握して自分の体がどうなっているかイメージする
足の感覚はまだ良くなってきている自覚はない
変な癖が身に着かないように白川さんと梨香さんがちゃんと見てくれている
力みすぎると代償動作という変な動きになり
それが定着するのは私にとってはよくないと教えてくれた
常に鏡で自分の動きを見ながら練習することになった
<3週間め>
右手のシーネ固定が外れた
とっても嬉しい
電気治療や神経刺激入力?とか白川さんは説明してくれたけど、私にはよくわからなかった
電気治療や直接肌に触れるリハビリの時は白川さんとゆっくりお話が出来る
『みなラブ』の曲を聴いたり、MVや出演していた映像を見てくれてるみたい
「リハビリの参考に」「もともとの動きの癖とか傾向を把握するためだ」って言ってたけど時々聞こえる鼻歌が可愛い
まだ右腕には力を籠めすぎないようにしないといけないけど
できる事が増えた
まだまだこれからだ
<4週間め>
握力が少しずつついてきた
平行棒や手すりを握る時に、まだ鈍痛はあるけど
しっかりと握ることができる
右膝を包む装具は、黒くて大きいものから少しコンパクトなものに変わった
装具を作成してくれる人に無理を言って
金属部分を強化カーボン製のピンク色で作成してもらった
仕上がりはとっても可愛い
膝を少し曲げる、足を出して踏ん張る練習が始まった
歩くための前段階らしい
右膝がズキズキうずくけど、リハビリの後はアイスバッグで冷やすと翌日まで痛みは残らない
無理するだけじゃなくて、ちゃんと続けれるように調整することが大切
白川さんと梨香さんの受け売りだけど
そういえば、白川さんと梨香さんは仲が良い
とっても
気になる
<6週間め>
やった‼ 歩けた‼
嬉しい‼ 嬉しい‼ 嬉しい‼ とっても嬉しい‼
まだピョコピョコした感じだけど
平行棒の中を手を使わずに1往復できた‼
膝は痛いし、足首の感覚はまだ半分くらいないし
地面をちゃんと支えている感覚も少ない、足首から先の力もうまく入らない
だけど歩けた!
ナギサと抱き合って喜んだ
本当に嬉しい、嬉しい、嬉しい、頑張って良かった
でも、まだこれからなのは分かってる
ここがゴールじゃない歩くんだ、走るんだ、飛ぶんだ、踊るんだ
私はアイドルになりたい
アイドルに“戻る”んじゃなくて
今度こそ本当のアイドルに私はなりたい
ちゃんと新しい自分で、新しい私でまた皆と踊るんだ
<8週目>
膝の装具を外す許可が下りた
お医者さんから回復の速さに驚かれたけど、膝蓋骨という膝の骨折は殆どくっついて全体重をかけても問題ないとのこと
右手首の骨も完治しているとお墨付きをもらえた
白川さんからは「ここからは慎重に、細かく調整しながら進める」と言われた
骨折が治ってこれからだって時だよ?
頑張らないとダメじゃん
白川さんと梨香さんが個別でやってくれるリハビリに加えて
自主練習も頑張った
上半身の筋強化、体幹トレーニング、バランス訓練
マネージャーさんにお願いして再開したボイストレーニング
パソコンで作曲や動画編集の勉強も始めた
順調、やっと軌道に乗り始めた
そう思っていたのに
「オーバーワークになってる」「調整するから休め」「勝手に進めるな」
と白川さんに怒られてしまった
もっと早く良くなりたい、そう思っているだけなのに
白川さんは分かってくれない
「あなたのこと以上にあなたのことを分かっている。遥人のことを信じて」と梨香さんに言われた
梨香さんが白川さんのことを評価しているのは分かっているけど
何だか、2人の距離感が気に入らない
時々2人で一緒に外食とか出かけているみたいだし
でも付き合っているわけじゃないみたい
なによそれ
気に食わない
私は白川さんのことを『遥人さん』と呼ぶことにした
遥人さんはビックリしてたけど
そう呼ばれることをダメだとは言わなかった
受け入れてくれたようで安心した
この気持ちは恋じゃない
私のことを助けてくれる人
病院の職員さん、親切なリハビリの先生、厳しいけど優しい人
でも
初めて会った日から、一日も欠かさずに会いに来てくれた
毎日リハビリをしてくれている
日曜日も祝日も欠かさずに
左手の薬指に光る指輪
梨香さんとの距離感
毎日、私の為に時間を作ってくれる
不思議な人だ
明るいし話しやすいし気さくな性格
知識も豊富で職員さんからも患者さんからも頼りにされているのが分かる
だけど
踏み込んではいけない雰囲気を感じてしまう
家族のことは一切話さない
もっと、この人のことを知りたい
この気持ちは恋じゃない
きっと、たぶん




