なぽりたん
〜side:楓〜
最近よく来てくれる元気な女子高生達が退店し
店内は一気に静かになった
今日も最後のお客さんになるであろう園田夫婦は
窓際のテーブルに座り
私が作った甘めのナポリタンを食べながら談笑している
ナポリタンは正式メニューではないのだが
先日ヒカリからお裾分けされた際に
ひどく気に入ったようで
お客様に出せる品質ではないと、何度も断ったのだが
「また食べたいって家でもうるさいんだよ。作ってやってくれないか?」
と健次郎さんからもお願いをされてしまい
根負けしてしまった
折角だからと健次郎さんにも
そして匂いを嗅ぎつけたヒカリにもナポリタンを振る舞うことになった
園田夫婦には既に提供を終え
今はヒカリの分を作っている
玉ねぎとウインナー、マッシュルームを炒め
具材を一度ボウルに移し
鍋に水を張りパスタを茹で始めようとした時
店のドアが開いた
女性が入店する姿が見え
挨拶、案内のために女性のもとに向かう
「いらっしゃいませ。1名様で、、、、あっ、先日の」
「こんばんは。この前は、終わり際にすいませんでした」
数日前、閉店後にいらした女性の方だった
すごく綺麗な人、そしてお腹を鳴らしながら走り去ったことは
記憶に強く残っていた為
すぐに思い出すことができた
「お待ちしてました、、、この前はご案内できずに後悔してたんです」
そのまま帰してしまった後悔と罪悪感に
心を痛めていので
来店してくれたことが本当に嬉しい
「今日は、ちゃんと間に合いました」
と微笑む姿は、やはりとても綺麗だった
「どうぞ、お好きなテーブルにおかけください」
「はい、ありがとうございます」
テーブルを決め腰掛けた女性に
水を注いだグラスを提供する
「ご注文がお決まりになりましたら、お声掛けください」
そう言ってキッチンに戻ろうとすると
「すいません。あと1人来るんですけど、注文はそれからでも良いですか?」
「はい。御用がありましたら、お声掛けください」
どうやら待ち合わせらしい
時計の針は7時を回ったばかり
食事を楽しんでもらうには、まだまだ時間に余裕がある
お連れ様がいらしたら
クッキーかシフォンケーキでもサービスしようかな
と思いを巡らせながらペコリと頭を下げキッチンに戻った
—————
茹で終わったパスタをフライパンに入れ
事前に火を通していた具材と甘めのケチャップソースを絡め炒めていく
店内には甘い香りが広がっていく
遠くの席からグーーッと音が聞こえた気がして
音の方を見ると女性と目が合う
女性は顔を真っ赤にしてペコリペコリと頭を下げた
可愛い、とてもとても可愛った
思わず笑顔になり
早く連れの人来てあげてー、と思っていると
店のドアが開く
きっと女性の待ち人だろう
フライパンの火を一度消し
入口に向かった
「いらっしゃいま、、、、」
「白川さん!?」「佐野さん?」
2人の声が重なる
驚きと共に
また会えた嬉しさが込み上げてくることを自覚する
「あっ、遥人!こっちだよ!」
女性がテーブルから手を振っている
「ママ—なぽりたんできたー?」
ヒカリが2階から降りてきて、カフェの中に入ってきた
ヒカリは白川さんに気づき
勢いをつけて白川さんに抱きついた
パパー!と大きな声を出す、、、
また迷惑かけちゃう!
と思った私の予想とは違い
ぎゅっと白川さんに抱きついたままヒカリは言葉を発さなかった
固まったままパクパクと口を動かし
私に助けを求める白川さん
様子がおかしいことに気づき立ち上がる女性
私はどうしたら良いのか分からず
立ちすくんでしまう
その時
「ヒカリちゃん、ちょっとこっちにおいでー♪」
みのりさんがヒカリに近づき
白川さんに何か声をかけた後
ヒカリを優しく引き剥がした
みのりさんとヒカリは手を繋いで健次郎さんのもとに戻っていく
ヒカリは白川さんに手を振り
園田夫婦の過ごすテーブルに混ざり大人しく座った
私は混乱する思考を振り払って
みのりさんに深く頭を下げる
そして待たせたままの白川さんに向き直る
「すいませんヒカリが、、、」
「佐野さんだけじゃなくて、ヒカリちゃんもいて驚きました」
「急にすいません」
「びっくりしただけです。まさか、ここで会うなんて思ってなかったから」
「おーい!遥人、何してるのよ?」
女性が待ちきれずに入口に確認に来る
「お待たせしてすいません。お連れ様にお会いしたことがありまして」
「そうなんだよ。前に何度か会ったことあって」
女性は梨香さん、という名前らしい
グーーッと梨香さんのお腹から音がして
会話が一瞬止まる
「お、お席に御案内しますね」
「ご、ごめん梨香。待たせちゃって」
私と白川さんは同時に言葉にして
テーブルに向かって行く
梨香さんは顔を再び真っ赤にしながら
顔を伏せて歩く
少し涙目になり白川さんの肩をポカポカと叩いていた
私の知る顔
私が愛した奏多と、とてもよく似た白川さん
その白川さんの横に並び
仲良くしている梨香さん
驚きと戸惑いと
嫉妬のようなモヤモヤした気持ちを感じながら
キッチンに戻る
「ナポリタン、少し冷えちゃったな、、、」
独り言をつぶやき
再びコンロに火を灯した




