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とらいあんぐる 〜俺と君とあの子の話〜  作者: おーろら


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16/17

いいこ いいこ

〜side:遥人〜


ヒカリちゃんはテーブルに座り俺をじっと見つめていたが

みのりさんに促され塗り絵を始める


園田夫妻とは、以前この店に来た時に

何度か交流があり

俺の事情を知っている

気を利かせてくれたのだろう

みのりさん、健次郎さんに向かって深く頭を下げた


向かいに座る梨香は

何かを言いたそう見つめてくるが

俺から話すのを待っているようだった


梨香にはこういったところがある

普段はずかずかと踏み込んでくるのに

本当に大切なことや、どう伝えたら良いのかを悩む時には

俺が話すまでずっと静かに待ってくれる


どう伝えようか


「あのさ」

「、、、うん」

「注文しよっか?、、、その後、話すよ」

「、、、うん。わかった。」

話す順番を整理したくて提案すると

梨香はメニュー表を手に取り迷うことなく

「これ、とこれ、とこれにする♪」

カレードリア、鮭とトマトのクリームパスタ、紅茶のプリンを指差した

俺を待っている間に決めていたのだろう

それにしてもよく食べるもんだ


細身の体からは信じられないくらいに

よく食べる

「食べきれなかったら遥人が食べてね♪」

毎回そう言うが

残したところを一度も見たことは無い


「じゃあ、俺は、、、」

メニュー表に手を伸ばすと

以前来ていた時とは全く違うものに変わってるいることに気づく

中を確認してみると


以前はミートパイやシチュー、トナカイの肉を使った料理など

異国を感じさせるものが多かったが

目の前のメニュー表には

オムライスやハンバーグ、パスタやスイーツ等の料理が目立つ


店内に店主である早苗さんの姿は見えない

俺が来ていない間に

色々と変わってしまったのだろうか

そんなことを考えながからメニューを眺めていると

店内に甘く少し酸味のある良い匂いが広がってくる

トマトソースを炒めているのだろうか

ジューっという音がキッチンから聞こえる


「ナポリタンかな?でも、メニューに載ってないんだよなぁ」

新しくなったメニュー表にはナポリタンが見当たらない

この店のナポリタンは酸味はやや強めだが

カリカリのベーコンと、苦味が強めのピーマン、マッシュルームがゴロゴロと沢山入っており

癖が強いものの凄く美味しい

店に来るたびに毎回注文していた

もう食べれないのかと思うと少し残念な気持ちになる


「遥人、ナポリタン美味しいって言ってたもんね」

「うん。でもさ、メニューには載って無いんだよ」

「ホントだ。でも、ほらすごく良い匂いしてる。トマトソースっぽい感じ」

「だね。食べたかったなぁ」

「私が店員さんに聞いてみよっか?」

そう言って、梨香は手を挙げて佐野さんに声をかけた


「はい。少々お待ちください」

キッチンから声が聞こえる

一旦俺達のテーブルの前を通り過ぎ

ヒカリちゃんと園田夫妻が座るテーブルに向かって行った


佐野さんが持つトレイには

ナポリタンとチキンライスライス、コーンスープが乗っているのが見えた

それを受け取ったヒカリちゃんの顔が段々と笑顔になっていく

夕ご飯の時間なのだろう

ヒカリちゃんはチキンライスに刺さるランチ旗を健次郎さんに見せながら嬉しそうに笑っていた


「お待たせしました。注文はお決まりですか?」

佐野さんが俺達のテーブルに来て

笑顔で注文を確認してくれる


「はい。私はカレードリアと、鮭とトマトのクリームパスタ、食後には紅茶のプリンをお願いします」

梨香は勢いよく、先ほど指差していたものと同じメニューを注文する


「じゃあ、俺は、、」

店内にはナポリタンらしき良い匂いが残り

ヒカリちゃんの方に目を向けると

美味しそうに食べている姿が目に入る


「、、、あの、ナポリタンって、今はもうやってないんですか?」

佐野さんは一瞬目を丸くし、そして少し困ったように笑った

「前の店主さんの時はやってたんですけど、私になってからはメニューから外してるんです。まだ上手くできなくて」


前の店主、早苗さんは居ないようだ

佐野さんに変わった、ということは隠居されたかもしくは、、、

と少し考えごとをしていると梨香が佐野さんに訊ねる

「さっき女の子に持って行ってたナポリタン、凄く美味しそうでした♪ よかったら、作って頂くことはできませんか?」

梨香は初めて来る店なのに図々しいが、俺も食べたい気持ちがすでに強く

一緒になって、ダメですか?

というような表情をして佐野さんの顔を覗き込んだ


「えっと。前の店主さんの時とは味が違うと思いますけど、それでも良ければ、、」

佐野さんは困った顔をしながら了承してくれた

「じゃあ、ナポリタンをお願いします」

「かしこまりました」


佐野さんがキッチンに戻っていく

「良かったね♪食べれるじゃん♪」

梨香は嬉しそうに身を乗り出してきた

「うん。ありがとな、訊ねてくれて」

「良いのよ、好きなもの食べて欲しいね」

そういう梨香はなんだか嬉しそうだった



------

注文した料理を待つ間

ヒカリちゃんと佐野さんのことを詳しく梨香に話すことにした


公園でヒカリちゃんに会ったこと

ヒカリちゃんから『パパ』

佐野さんからは『カナタさん』と呼ばれたこと

ヒカリちゃんが泣き出しそうになってしまいペンギンのぬいぐるみをあげたこと

その後日、佐野さんと街で会って少し話したこと


梨香は黙って俺の言葉に耳を傾け

真剣に聞いていた

話の途中、時々ヒカリちゃんが俺に向かって手を振るので

俺も手を振り返すと

梨香は心配そうに俺を見つめていた

何かを言いたそうだったが

何も言わずに最後まで話を聞いてくれた




ヒカリちゃんに何度目かの手を振りかえそうとした時

佐野さんが料理を運んでくれた

「お待たせしました」

手際よく俺達の前に並べていく


俺の前にナポリタンが届く

ケチャップソースの匂いがして、とても美味しそうだ

「以上でよろしかったでしょうか?」

佐野さんの確認に

2人揃って大丈夫です、と返事をする


佐野さんは去り際に

「口に合わなかったらすいません。あと、ヒカリが何度もすいません」

と頭を下げ謝ってくる

「いえいえ、ナポリタンは俺が無理言って作ってもらったんで。ヒカリちゃんも、笑ってくれてて安心しました」

少しだけ会話を交わすと佐野さんはキッチンに戻って行った

ヒカリちゃんに目を向けると、また俺に向かって手を振っていた


「食べよっか?」

「うん。とっても美味しそう」

俺を見ていた梨香に視線を戻し声をかける



ナポリタンを口に運ぶと

懐かしい味がした


とても甘くて

苦味は全く無い

ピーマンが入っていないからだろう

砂糖で甘味を強くした、子供の口に合うケチャップソース

パスタに芯は残さず歯切れが良い

ベーコンの代わりにウインナーが沢山入っている 

添えられたチキンライスはハート型に整えてある



食べながら

俺は祐香が作ってくれたナポリタンを思い出していた

ひどく甘いパスタ

ピーマンが嫌いな心羽の為にピーマンは抜き

ベーコンよりもウインナーを入れてと

お願いしていたことが懐かしい

添えられたチキンライスには

毎回違うイラストのランチ旗が立てられていたっけ

こんなふうに、ハート型にもなってたなぁ

祐香に甘めのパスタが

俺は好きじゃないと言ったことがあるが

心羽に合わせてるんだから

あなたは文句を言わずに食べなさい、と怒られたことがある

ピーマンを入れて欲しいと頼んだが

それももちろん却下されてしまった


そんなことを思い出しながら

ナポリタンを口に運ぶ

とっても甘かった

甘くて、美味しくて、懐かしかった


「、、、遥人?」

梨香が食べるのを止めて俺を心配そうに見つめている

「ん?どうした?」

「、、、遥人、涙、、、出てる」


「えっ?」


言われて初めて、頬を伝う温かいものに気づいた

拭おうとした手が少し震える

「あれ、なんでだろうな。なんか、ちょっと思い出しちゃったかな」

無理に笑おうとするが

頬を伝う涙が止まってくれない


「遥人、、、」

梨香が心配そうに見つめている

せっかくの料理が冷めちゃうな

ごめんな梨香

そう思っていると


俺の震える手が

温かい温もりで包まれた


目線を向けると

ヒカリちゃんが俺の瞳をじっと見つめ

小さな両手で俺の手を握っている


「パパなかないで」


ゆっくりとした優しい声に

胸の中に溜まって押し込めていた何かが壊れる気がした


俺は何も言えず

ヒカリちゃんの優しさを感じる

止めようとしていた涙が

また頬を伝って行くのを感じる


「、、、ありがとう」

やっと絞り出した声にヒカリちゃんは

こくりと頷き


「いいこ いいこ パパはいいこ」


と言って

俺の頭を何度も撫でてくれた


涙はまだ

止まってくれなかった




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