そこにある幸せ
〜side:楓〜
時計の針は午後7時30分を回り
店内には食後の紅茶を嗜む60代の御夫婦
カウンターでは私が作る夕ご飯をヒカリが待っている
ヒカリからの今日のリクエストは【ナポリタン】
甘めのケチャップソースにピーマン抜き
ウインナーと
ランチ旗を刺したチキンライスをワンプレートにまとめてあげると
「すごーい♪すごーい♪」
と手を叩いて喜んでくれた
ヒカリの前に出来上がったプレートを置くと
キラキラと瞳を輝かせながら食べ始めた
祖直後、御婦人から声をかけられる
「楓ちゃん。ヒカリちゃんばっかりズルいわ。」
御主人と一緒に毎日のように店に来てくれる女性
園田みのりさんは頬をぷくーっと膨らませ
可愛らしく私を責める
「お客様に食べて頂ける出来じゃないので、メニューには載せてないんですよ」
そう返すと
「そんなこと言って。ヒカリちゃん、あーんなに美味しそうに食べるんだもの。私も食べたーい。」
サンドイッチとパンケーキ
締めのチョコパフェまで綺麗に平らげても
みのりさんの食欲は満たされていないらしい
「はしたないから止めなさい。楓ちゃん、気にしないでおくれ」
御主人の健次郎さんが呆れながら嗜める
「だって、あなたー。ごはんに旗まで立ってるのよ、可愛いじゃない。」
「何を言ってるんだ、自分の年齢を考えてから言いなさい」
「知らなーい、だって羨ましいだもーん」
みのりさんと健次郎さんの会話に
私もヒカリもくすくすと笑ってしまう
「おばぁちゃん、すこしヒカリのたべていいよ」
ヒカリが椅子から立ち上がり
園田夫婦が座っているテーブルに自分の皿を持って行く
「えぇー、良いのヒカリちゃん?ありがとう♪」
満面の笑みで喜ぶみのりさんを見ながら
「はぁ、お前ってやつは、、、ごめんねヒカリちゃん、楓ちゃん」
健次郎さんは溜め息をつきながら
私に向かって両手を合わせて軽く頭を下げた
「おばあちゃん、おじいちゃん一いっしょにたべよー」
ヒカリは園田夫婦のテーブルに席を移し
賑やかに夕ご飯を食べ始めた
私は3人のやりとりを
洗い物や閉店作業を進めながら見守っている
特別ではない何気ない日常
あたたかくて優しい時間
私はこんな時間を大切にしていきたいなと
改めてそう思う
失うものもあるけれど
生まれる幸せもある
すり抜けた幸せに想いを馳せるより
今ある大切なものを守れるよう過ごしていこう
そう強く思うのだった
————
8時少し前に
園田夫婦を店の外まで見送り
~OPEN~と書かれた看板を取り込もうとしていると
「もう閉店しちゃいますか?」
と女性から声をかけられた
長い髪のよく似合う20代半ばくらいの女性
モデルさんかな?
と思うような細身のスタイル
綺麗な人だなという第一印象だった
「すいません、営業時間は8時までなんです」
「そうですか、、、」
残念そうに眼を伏せる女性に罪悪感を覚えるが
ヒカリと過ごす時間も大切にしたい
営業時間の延長を提案してあげることも出来ずに頭を下げると
「今度はもっと早い時間に来ますね。休みの日ってあります?」
「月曜日と祝日以外は営業してます。朝は9時から開店です」
「そうなんですね。前から通るたびに気になってて、このお店」
「ありがとございます。お越しして頂く日をお待ちして」
私の言葉が終わる前に
女性のお腹からグーーッッと大きな音がした
よっぽどお腹が空いているのだろう
女性は夜の暗さの中でも分かるくらい
顔を赤く染めながら
「ま、また来ますっっ。さ、さようなら!」
とすごい勢いで振り向き
小走りで帰って行った
突然のことに呆気にとられるが
なんだか可笑しくて笑ってしまう
「今度来てくれたら、とっても美味しいの作ってあげようっと♪」
女性が走り去った方向に向かって手を振り
看板を抱えて店内に戻る
それにしても、とっても綺麗な人だった
仕草もそうだが
とても優しそうで
同性の私が見ても印象に残るくらい綺麗な人だった
年は私よりも少し上くらいだと思う
引っ越してきてからというもの
小学校のママ友こそ居るものの
気軽に話せる同世代の女性がまだいない
「また来てくれたら嬉しいなぁ」
誰もいない店内に独り言は消える
「明日も良い日になりますように、、」
小さく呟き
私はカフェの灯りを落とした




