エスコートをされるだけの簡単じゃないお仕事 3
生け垣を超えた先には開けた場所があった。
そこには円卓が一つと椅子が5つ。先客が二人いた。
一人はレティシアよりやや年上に見える青年。もう一人は少し幼さがある少女だった。二人の背後にも護衛がいる。やはりお一人様一人でいいんじゃないか。
少女が先に立ち上がり、一礼する。
「お待ちしておりました。
父は少し遅れるとのことで、先におもてなしをするよう命じられました」
「陛下の遅刻癖も困ったものですな。
殿下がたもお困りでしょう」
祖父の軽い嫌味も困ったものでしょうね……。それに得体のしれない微笑みの推定王女殿下、アハハハとかわいた笑いを浮かべる王子殿下の差よ。
育ちの違い露骨に出てる。そして、王子様のほうがあたしには親しみを覚える。
そこからは、あたしの紹介と殿下たちの紹介をされる。王女様のほうがルイーゼ殿下、王子様のほうがイライアス殿下。どちらもよろしく的な挨拶をしてくれた。
それに対してあたしは無言で王族に対する礼だけした。元とは言え、侯爵な祖父は王族相手でも直言が許される立場だ。これは当主特権という。
まあ、それはさておき、祖父の孫であるレティシアにはその特権はない。だから発言が許されるまでは無言であるという儀礼的なアレを逆手に取り、親しくしてくれるよね? という言葉へ返答しない。
断ったんじゃなくて、儀礼としての無言だから不敬じゃないよという。
「あら、気が利かなくて申し訳ないわ。直言を許します。
年が近いのですもの、仲良くなりたいわ。ねえ。お兄様」
ルイーゼ殿下のほうはすぐに気が付き、フォローするあたり流石だ。で、お兄様と呼ばれたイライアス殿下のほうは嫌そうに顔をしかめていた。
「侯爵閣下が、許すならば、な」
親しくしたくないとはっきりと言われた気がした。意外に思って祖父を見れば少しばかり驚いたように眉を上げていた。
事前の予想では、レティシアを口説くように言われているだろうし、それをある程度は実行すると見積もっていた。立場の弱い王子であるので、表立って意向を無視するとは思えなったのだ。
あっちも事情がありそうだ。
それにしても、本人を見ても思い出せぬ。もしかしたら、本人ではないのでは? でも、名前は覚えがあるんだよな……。
うむむと唸りたいが微笑みを維持する。
ひとまずは席に座り、お茶を用意された。甘い匂いのするお茶は紅茶に花の香りを加えたものらしい。その花が国の象徴たる花で、特別な客にしか出さない貴重品と飛び交う会話で知って、もう味がしなかった。
なお、会話しているのはルイーゼ殿下と祖父である。
イライアス殿下とあたしは空気。気まずそうな表情でお茶を飲んで、軽食をつまんでいる殿下に親近感を覚えた。
まあ、会話中に入れないのだからとイライアス殿下を観察する。
イケメンと言うより男前。きりっとした太眉は好き嫌いが分かれそう。なんか、こう、垂れ目だったような気がするなと……。
「あっ」
思わず声が出た。
思い出した! あたしが知っているのは本人じゃないっ!
子孫だっ!
「どうした?」
怪訝そうな祖父に、虫が近寄ってきて驚いて、という野外にありがちな理由を返す。更に不審そうな顔をされたが正直に言うわけにはいかない。
「確かに、これはいけませんわね」
気がつけばルイーゼ殿下がそばにいて、あたしのカップをのぞいていた。お茶に虫が一匹浮いていた。ちょっと都合良すぎないかな。
気分を変えましょうと別のお茶が用意された。
イライアス殿下の子孫は、国が滅びたあとに王の血を引くものとして小国を建国する。そこから、遡って確認してちゃんと血を継いでたんだ……と確認した。
で、それだけならいいんだけど、その小国が、レティシアの散逸した魔法を集めて大国となり、大陸の半ばを道連れに滅ぶ。というルートが4割で発生する。
本人じゃないから、記憶に薄かった。
彼本人は、冷遇王子のままに砦で一生を終える。なにがあっても出てこない。国が乱れて戦力を出せと言われても国境の防衛なのでとのらりくらりとして、国が滅びても出てこない。
つまり、究極の引きこもり。
まあ、実際隣国と開戦したりして大変であったらしいのは確かなんだけど。なんだかんだと問題なかったから、記憶に薄い。
子孫のやらかしが華々しくてな……。初代グレイアム、2代目ハーヴィの調子に乗ったあとの3代目が不憫。
ここで矯正して、魔法ダメ絶対をすればなにか改善する気はするんだけど……。今のこの人、脳筋っぽさを感じる。なんなら、うちの門下生と同じカテゴリにいそう。
「お兄様、レティシア嬢にお庭をご案内して差し上げては? 退屈でしょう?」
お二人で楽しくね、というものではなく、おまえら、邪魔という副音声を聞いた気がした。交渉すべきは祖父であり、レティシアではないと見切りをつけたとも言えそう。
祖父も異存はないらしく、いってらっしゃいと見送られた。
「……慣れてないので、歩きにくかったら申し訳ない」
がちがちに固まっているイライアス殿下のエスコートで王家の庭の散歩が始まった。
「護衛についているのは、ユーリクス殿だな?」
「はい、ご存知なのですか?」
「ああ。暇をしているならうちに勧誘しようと思っていたらしい。うちの副官が」
「話をしてもよいですが」
「いや、いい。レティシア殿には強い守りが必要だろう。
もし、ここにいるのが心底いやになったら砦を尋ねてきてほしい。攻めるのは苦手だが、守りは得意だ」
「ありがとうございます」
礼を述べたけど、今、口説かれた? そういう感じなのだろうか。
困惑を感じたのか、その、な、と続ける。
「あなたは、ないがしろにされるべき立場にない。それを許さない者が多くいることは知っている。
でも、貴族としては弱い立場だ。俺の王子という立場が、役に立つことはあるかもしれない。少なくとも、王族以外からは盾になれる。
それが、俺から示せる誠意であり、敵ではないという立場の表明だ」
いざというときの避難所を提供する、その代わり、武力での制圧をしないでほしい。
ということか!
それは悪くない提案にも思える。あたしが辺境の砦に引きこもった、ようにみせかけてあちこち歩き回れるかもしれないし。
現状の最良の手、かもしれないんだけど。
「心に留めておきます。殿下の優しさは覚えておきましょう」
レティシアじゃない誰かと子を持つんだよな。この人。子孫がいるってのはそういうこと。今はいないかもしれないけど、泥沼確定じゃないか。
将来的な話で言えばお互いに良くない。
「そうか。
……俺からの話は終わりだが、すぐに戻ると不審に思われるだろう。レティシア殿は花に詳しいか?」
それからは、庭の花の名前がわからない、匂いがいい、食べられる草がという話をした。辺境、美味しい山菜5選は興味深かった。
いつの間にか、ぎこちないエスコートではなく、隣に普通に歩く感じになっていた。女性相手というより、男同士みたいな距離感と言うか。
いいんだけどね。
そうして戻ったら、案の定、呆れられたような視線を向けられた。
ルイーゼ殿下にお兄様は女性の扱いがなってませんわねぇと嫌味言われてた。すみません、無骨な兄でと代わりに謝罪されて、イライアス殿下は罰が悪そうだった。
「仕方ありません。王子がこんなものと思われても悲しいので、別の兄を……」
「いえ、必要ありません」
やや遮るように止めてしまった。やばい。不敬だと言われてもおかしくはない。
ルイーゼ殿下が不快そうに眉を寄せたのが見えた。
「それでは悲しい思いをする方がいらっしゃいます。私はそれを知っているので……」
婚約者がいるのに他の女性と遊ぶの良くないよ、悲しいよ、アピールだ。これにはルイーゼ殿下も引き下がるしかない。
元々、婚約者が遊び歩いてたから婚約を解消したのがレティシアだからね。婚約解消して、王族と結婚したらよいでしょ? にはならない。
「……楽しくやっているかい?」
新しい声は男性だった。
「陛下」
さすがに会う前に帰ることは許されないらしい。
あたしは祖父にならい最上の礼をとった。




