エスコートをされるだけの簡単じゃないお仕事 2
あっという間にお茶会の当日になった。朝から上から下まで磨き上げられる。普通の夜会なら昼くらいからの支度でも間に合うけどお茶会の時間では朝からじゃないと間に合わないと判断されたようだ。
お風呂に入り、念入りに洗われ、髪もつやつやトリートメントを惜しげもなく使った。そのあとはマッサージ兼保湿用のクリームを塗りたくられる。どこかの注文が多そうな料理店を思い出した。
少し前に買ったドレスもきちんとサイズ調整されて納品されており、試着も済んでいるので決まった通りに袖を通すだけだった。
髪も編み込まれ結い上げる。これは祖父からの指示だ。本来なら既婚女性が結い上げ、未婚女性はハーフアップになる。ハーフアップは暗黙の了解として、婚約者を求める女性の髪型とされている。婚約がいる場合には相手の家を象徴するリボンをつけることになる。2色か3色の組み合わせで各家が被ることはない。
あたしはリボンもなし。
暗黙の了解ぶっ壊し仕様。皆がそういうものとして扱っている習慣なので、明文化されていないから失礼には当たらない。という建前。
本音で言えば、婚約ぶち込むんじゃねぇぞという強い意志表示である。王家に喧嘩売ってるぅ!? という話なんだけど、今、空前絶後の武力に愛され姫がいるのでなにも言わないだろうという見込み。
その武力に愛され姫があたしだ。……やだよぉ。うっかり内乱を醸造するって。醸すよ! とかいらない。
いらないけど、その身を助くというも本当で。中々に悩ましい。
そんなことに意識を飛ばしているうちに一通りの工程を経て、ウィンルイ侯爵令嬢が製造された。控えめながら品よく、仕上げられた一品である。
及び腰になると漬け込まれるので冷淡、傲慢を装備し、我々は城に旅立った。
ちなみに、ユーリクスとイルクも連れている。過剰防衛力。この二人、なにかあったら、血の海を作ってでも退避すると先に宣言してきた。
あたしと祖父、手を取り合って、震えた。こえぇよ。
人生長い上に命の危機もありそうな祖父、圧倒的な暴力にさらされたことはほとんどないらしい。陰謀と毒と事故には慣れてるんだがとぼそりと。
そっちもどうなの……。
さて、城である。
城門から馬車で乗り込んでから公園規模の中庭を通り抜けていく。噴水なども遠くに見える。
ここの城はシンデレラがお住まいのような城ではない。どちらかというとベルサイユ。平たい。コの字型の3階建ての屋敷だ。城と想像してあるようなものはあまりない。
塔はあるものの壁際に階段しかない中の抜けたものであるそうだ。一応使用目的は戦時用の物見の塔ではあるがそこまで使うようでは戦況も見えているという。
かっこいいからつけただろうという祖父の評にぷっと吹き出してしまった。
その笑いで程よく緊張もほぐれたような気がした。意図してはいないと思うけど。
城の馬車止に馬車をとめる。最初に出るの祖父のほうだ。あたしはエスコートされる側。常に半歩下がりつつ、である。馬車の扉があく。
心底困った顔のイルクが祖父に視線を向ける。
「閣下、元帥閣下がお目にかかりたいとそこにきているのですが、いかがしますか?」
「……ここにいては無視するわけにも行くまい」
あのバカがとつぶやいていたけど、到着早々お疲れ様である。元帥の人は以前祖父からの話を聞いた限りでは敵対的ではないらしいけど、ただの挨拶で済めばいい。
と思ってた。
馬車から降りたあたしたちが見たのは、元帥閣下、お一人ではない。ずらっと並んだ兵士。それも正装している。兵士の階級というのはよくわからないが、肩のふさっふさがある方が偉い、タスキみたいなのがあるもの偉い、バッジがついてる数が多いとすごい、ということは知っている。マントがついてると騎士で騎士以外は正装にマントがつかないというのも。
以上の知識を動員してみてみましょう。
「…………上から連れてこれるだけ、じゃないですか」
「よくわかったな」
祖父は渋い顔を隠さない。一方、元帥の方は機嫌良さげで……。あたしに視線を止めると大仰に一礼した。
「ようこそおいでいただきました。我が主がお待ちです」
ものすっごい建前の出迎えのセリフいただきました。
王からの指示で迎えにきたよ! という建前。本当にそうかなんてあたしたちにはわからない。もし、本当だったとして、部下の一部を差し向けよであって、お前が迎えに行け、あと、いっぱい連れて行くようにとは絶対言ってない。
威圧目的かもしれないけど、祖父と元帥は既知である。威圧にならないことは他のものも知っているだろう。
そうなるとこれは元帥の独断の可能性が高い。見た目、大歓迎。これは頭痛い。
「ご案内いたしましょう」
そういってあたしのエスコート役を代わろうと提案してきた。祖父の杖役という建前がある以上、応じるわけにもいかない。そう思って祖父を見ると苦々しい顔のままに頷かれた。あ、なんか、機嫌取っとけってやつですか? おっけーっす。
「お気遣い感謝いたします」
にこりと笑ってその腕に手を添えることにした。作法通りの位置取り、手を置く位置、裾捌き、完璧! と悦に浸っていると視線を感じた。
見上げると戸惑ったような表情に見えた。ヒゲでよくわかんないけど。
あ、もしや、うら若き乙女には怖がられるのが普通なのかな? 強面ではないけど、もじゃヒゲだし。眼光鋭いし。
「父も武人でしたので、閣下にも親しみを持てます」
怖くないよ。というアピールのつもりだったのだが、なんか、まじまじと見られたあとなるほどとつぶやかれた。
「確かに武門の姫ですね」
「うちの孫はまだ嫁にやらぬ。皆にも申し伝えよ。護衛は間に合っておるのでな、愚かなことを考えぬように」
で、それを見て祖父は不機嫌の極みといいたげなトゲある口調で宣告していた。
「ユーリクス殿を置いているのならば、他の誰も必要ないでしょう。
我々でも時間稼ぎが精一杯でしょうし」
ちらっとユーリクスを見ながら元帥はそう言った。それにユーリクスが返答することはない。護衛中に会話に混じることは要求されない限りしないことになっている。そうでなくても身分が違うので、直答は控えるものだそうだ。
ただ、目礼はしたようだった。評価に対する礼だろうか。
「護衛の一人にご親族もいらっしゃるなら、穏やかにお過ごしいただけるでしょう。我らが手出しすることは、よほどのことがない限りないでしょう」
「だとよいがな」
……という話をお外で、誰もが聞いているところでする意義があるんだろう。
胃が痛くなりそうだ。
少なくとも軍は敵対しないが、近寄りもしないという二人の合意ができているんだろう。王命が下らなければ。と薄っすら察せられるくらいの匂わせはいいだろうか。
ひとまずこの会話が終了の合図だったのか、いっぱいいた軍の人たちは解散された。数人はついてくるが大多数は他の場所に散っていく。
ただ、その前に皆がレティシアに一礼していく……。敬意を払われるのはいいけど、それってどうなのかな。王族の姫並の対応なんじゃないかな。
祖父は冷ややかに見てたけどさぁ。
そして、やっと移動。周囲を見れば、暇そうな貴族の人たちがこっそりと見ている。視線を向けると慌てたように去っていった。
なお、使用人は貴族が動くような時間帯は裏方の作業をしているのがほとんどで見かけることはない。実務系の城勤めも最低限貴族だしな……。
「お茶会は庭にご用意いたしました。
王女殿下が同席いたしますが、少々わがままで先に菓子など奪ってしまうかもしれませんがご容赦ください」
……幼児か。幼児が同席なのか。
「なりふり構わんとでも言わんばかりだな」
「さすがに、これ以上を許してはなりませんので」
なんか、二人でわかり合ってる。暗喩でもあったの!?
戸惑うあたしを見て、気にせぬようにと言われたけど、逆に気になるよ!
説明してもらえぬままに城の廊下を過ぎ去り、庭の方に出る。城に入る前の庭とは別にまだ庭があった。広いな……。これ逃げ帰るの至難の業では。
行く先は王族専用の庭と解説されては本気度がうかがえる。祖父も数度しか来たことがないという秘密の花園。中身は門外不出。
護衛は一人まで、ということで祖父に一人、あたしに一人で通した。一組様お一人っていわれなかったもの。
詭弁だが押し通した。
ここで元帥とはお別れだった。庭の出入り口で護衛はしているということなので、帰りにも会いそうではある。
さて、どういったお茶会になることやらやらだ。




