第五話 縁結び(後編)
掃除は二週間続いた。
最初の日。
「何しよるん?」
近所のおばちゃんだった。
「神社の掃除です」
「偉いなぁ」
差し入れに缶コーヒーを貰った。
翌日。
小学生が来た。
「秘密基地や!」
「悪さすんなよ」
「じゃあ探検や!」
三日目。
近所の老人が竹箒を持って現れた。
「葦原さんとこの息子さんかね、若いもんだけにやらせられん」
そう言って勝手に掃除を始めた。
五日目。
おばちゃんが二人になった。
七日目。
花が供えられていた。
誰が置いたか分からない。
十日目。
境内で子供達が鬼ごっこをしていた。
十一日目。
リブが人気者になった。
十三日目。
誰かが雑草取りを手伝っていた。
十四日目。
神社は見違えるほど綺麗になっていた。
伸び切った草は消え。
石段は姿を取り戻し。
朽ちかけた祠も少しだけ立派に見える。
気付けば。
参拝客まで来るようになっていた。
「あれ?」
「こんな所に神社あったんやね」
「何の神様なん?」
問い掛けられる。
「狸の神様です」
「狸?」
「昔、この土地を守る為に勇敢に戦った神話があります」
「名前は『波多良ノ神』です」
「へぇ、詳しいねぇお兄ちゃん」
それだけだった。
だが。
その人はきちんと賽銭を入れた。
手を合わせ帰っていった。
それを見ていた景継が小さく呟く。
「一人」
「何が」
「信仰じゃ」
その声は。
少しだけ優しかった。
そして。
本堂の屋根の上から土地神が見下ろしていた。
「懐かしいのぅ」
狸は満足そうだった。
何故か自分まで誇らしかった
神社を見渡す。
笑う子供。
談笑する老人。
花を供える人。
手を合わせる人。
確かに。
少しだけ。
この場所は良くなった気がした。
「悪くないな」
土地神は笑う。
「これが縁じゃ」
「人と神のな」
「契約はこれで終いじゃ」
そして。
その金色の瞳が景継へ向いた。
「忌部」
「何じゃ」
「まだ諦めておらぬのか」
景継は答えない。
土地神も追及しなかった。
ただ。
波多良ノ神は言った
「葦原の墓へ行け」
「今治の地じゃ」
朋也「何で?」
「守る者がおる」
そう残し。
土地神はオレンジ色の夕暮れの境内へ消えた。
景継だけが。
珍しく何も喋らなかった。
境内を後にする
「おぬしたちまた会えたのぅ」
たくさんの狸の霊体が涙を流す波多良ノ神に集まる
「良い縁じゃ、感謝せねばならん」




