第三話 千三百年の宴
「事情を聞こう」
急に敵意が消えている。
「朋也、あやつの話し合いに応じろ、許してもらうんじゃ」
「許してもらえ?あっちが仕掛けてきたんだろうが」
「・・・・・」
「なんかスーパーパワーが宿るんじゃないのか?」
「腕が治ったであろう」
「当たり前だ馬鹿野郎」
「話が出来るようになるんじゃ」
「それだけかよ」
「それだけとは何じゃ、神との会話じゃぞ」
「とてつもない縁じゃ」
「えにし?何が何やら」
抱き抱えたリブは先ほどの荒々しい呼吸が止み落ち着いている
多分大丈夫だな
「景継よ、この小童に説明せよ」
「んな事より、よくもリブを攻撃しやがったな」
「・・・。」
「何とか言え狸野郎、腕も・・・腕は治ったけど。」
「お主と犬は供物じゃ」
「神であるワシが供えられた物を喰おうが喰わまいがどうでもよかろう」
「供物?」
土地神の大きなため息
「ワシはその方の中におる景継に呼ばれたのじゃ」
「はぁ?ジジイてめぇぶっ殺すぞ」
「もうとうに死んでおるわ」
「景継よ、なぜこの小僧の中におる?」
「低級の怪異を呼ぼうとして誤ってワシを顕現したのは先程聞いたが」
「この童のなかに入るとは聞いておらんぞ。」
「主は何を企んでおる?」
「・・・別に何も、ただ1,300年じゃ、人の世も様変わりしておるように見える、主ともあろう上級の土地神の境内がこの有様じゃ」
「悲しくなったのよ」
「・・・まぁ良いわ」
「あのぉ〜俺は今、供物なの?」
「わしを呼ぶには生半可な物では口寄せ出来ん、犬と元服を終える頃合いの青年、食べ頃よ、やぶさかではない」
「犬も其方も良い肉体と精神、魂をお持ちのようじゃ」
「腕一本であの美味さ、臓物はさぞ美味であろうな」
「いや怖いて」
「で、もう食う気はないの?」
「其方は景継を宿しておる、神官としての力はほぼ失っておるが、忌部景継はもはや上級の怪異」
「ワシより格は上よ、流石に喰えんのぅ」
「まぁ・・・其方と犬に釣り合う他の供物を用意できれば許してやらんでもない」
「他の供物・・・何が欲しいの?」
「そうだの・・・では、境内を清めよ」
「清める?」
「掃除じゃ、荒れ放題じゃろう」
「神にとって境内は庭、本堂は家じゃ、この者がこれほど悍ましい姿になったのはこの荒れ果てた境内のせいよ」
「元々はそれはそれはあいぎゃう狸様じゃった」
「やめんか、我ら一族を愚弄するでない」
「はぁ・・・」
「隅々まで綺麗にし修復せよ」
「期間はそうよの〜一週間といったところかの」
「一週間!?」
「できなければ、その犬は置いてゆけ」
「ざけんな」
「犬っころだけでは叶わんぞ、1,000年ぶりの顕現じゃ、存分に暴れ人を喰らうとしよう」
「わぁたよ、2週間くれ、それで綺麗にする」
「よかろう決まったな。好漢な男よ、のう景継」
「どうやらこやつ、葦原家の末裔じゃ」
「なんと!!葦原か懐かしいのぉ」
「なるほど、あの動き只者ではないと思ったが、葦原家のものか。」
「良い縁じゃ、気分が良い、酒がほしいな、魚はあるか?用意せよ」
「境内の清掃はまぁ、ほどほどで良い」
「元々許す気などなかったが気が変わったわ。そうか、葦原の者か。」
「其方の家のものとはよくよく戦ったものよ」
「契約なんぞせんでも良いわ」
景継「契約はしてもらう」
土地神「・・・・・」
朋也「え?何?なんか空気悪いんやけど・・・」
「なるほどのぉ・・・景継まだ忘れておらんのか。」
景継「・・・・」
「読めたわ、小僧、いや葦原殿、この男をし」
「波多良ノ神」
重い沈黙
波多良ノ神「あのお方・・を」
無言の両者
「フフフ」
「グハハハハハハ」
「悠久の時の中で、・・神である事を忘れておったわ」
「確かに契約は必要だの」
「宴じゃ、祭りじゃ、酒と肴を用意せよ葦原殿」
「その前に契約じゃ」
それからは波多良ノ神と2週間、境内の清掃と本堂をできるだけ修復をするというあいまいな内容で契約した。
波多良ノ神は何を俺に伝えようとしていたのか。
聞けなかった。
というか聞かなかった。
それは言わんでくれ。
悲痛な叫びのような、1300年分の悲願に聞こえた。
急いで家に帰り、リブを安静に寝かせる、裕二とのスマブラを断り、父と母の静止を振り切って酒と夕飯の鯵の開き、炊き立ての米を持って神社へ駆け込んだ
「お〜い化狸様、メシ持ってきたぞ」
「待っておったわ」
「いい香りじゃ、魚か?美味そうじゃな。あの犬のようじゃ」
「リブを喰おうとするなって」
「笑い事じゃないて」
「この冗談はしばらく使えそうじゃのう」
「波多良ノ神だっけ?名前は」
「そうじゃ、天皇家、朝廷に賜った名よ」
「わしの誇りじゃ」
「天皇家?すげぇな、すげぇな・・すごいです」
「そうじゃろう」
「波多良ノ神、神っていうくらいだから神様になってから、死んでから付けられた名前なの?」
「ほうじゃ、ちなみにの、この境内も天皇家が作ったものじゃ、ワシらを讃えて祀ってくれたものじゃ」
「ワシは一族の長だからのう、天皇家から祀られたワシらは人々にも崇められ、恐れられ、慄かれて神になった」
「800年ほど前まではこの神社の境内を中心に年に一度小さくはない我ら一族の勇敢な戦いを讃える祭りが開かれておったのじゃぞ」
「たまぁに気に入らん時なんかは凶作にしてみたりしての」
「神様の真似事みたいなこともさせてもらうたわ」
「なんで天皇家から祀られたの?」
「この地にはのう、桑原氏という豪族が支配しとった」
「我ら一族は桑原氏に深い縁のある一族での、桑原氏からこの一体の山々の管理を我が一族はお役目として与えられておった」
「名誉なことよ」
「へ〜、桑原、へ〜・・で?」
「1300年程前じゃ、朝廷がこの地に勢力を伸ばしてきたのは」
「ワシが一族の長じゃった頃よ、久米氏も越智氏もこの辺り一体の有力な豪族はことごとく屈してしもうてな。」
「残ったのは桑原氏と我ら一族のみじゃった」
「時をかけすぎたのよ」
「散々金銀財宝、土地も居城もはたまた御子息や姫までも貢物として送ったのじゃがな」
景継「・・・・・・」
「許してはもらわれなんだ」
「勇敢じゃったよ最後は、我が山間から躍り出て暴れ狂う最後の合戦は見事なものじゃった、さすが我が君主じゃ、わしも大いに戦い大将首は10を上げ、ハタクワの化け狸と異名をつけられ戦場で恐れられた。まぁ・・他勢に無勢じゃ、最後は数十の槍傷と刀傷、矢で射抜かれ我ら一族はことごこくうち滅ぼされ狸汁にされ喰われてしもうたわ。」
「ひでぇな」
「別にひどくはない、我らが勝っていたら同じことをする。」
「ワシは皮を剥がれ愛刀共々天皇家に献上されたわ。」
「肉と骨、臓物はこの地に奉納され、しばらくしてこの神社ができたのよ」
「桑原さんは?」
「八幡宮があるじゃろう。祀られておるよ」
「律儀な奴らよ、恨むに恨めんわ」
「おぉ、そうよ、お主の一族も朝廷側におったぞ、一番槍じゃった、葦原家には随分泣かされたわい、桑原の殿も若も葦原殿に首を取られたからのう。」
「何かすみません」
「フン、謝るでない我らを愚弄するな、誇れることじゃ」
「其方は1人で桑原八幡には行くなよ」
「・・まぁ、ワシを伴えば大丈夫かもしらんな」
「のう景継」
「・・・・まぁ、・・ほうじゃのう」
景継「朋也、だんだん分かってくるとは思うがの、生と死は表裏一体、こやつら武人は死を身近なものとして享受しとる」
景継「故に強く儚く美しいんじゃ」
波多良ノ神「ハッハ」
「神官は我ら忌部のお役目だがな、分家である葦原をそういった部分では羨ましくも思うておった」
「葦原は武家ではないがな」
「え?爺さんの忌部家と葦原家は元々同じ血筋なの?」
「そうじゃよ」
「我ら忌部は祭り事」
「葦原は我ら忌部の防人がお役目じゃ」
「天皇家の家来じゃないの?」
「我らからの出兵よ、我ら忌部は朝廷の家老職じゃ」
「なるほど、葦原は忌部お抱えの兵隊か」
「その理解で良い」
「その程度の家よ」
「んだとこの野郎」
波多良ノ神「葦原のおらぬ忌部など忌部ではないわ」
「言うてくれるのう狸の分際で」
「グハハハハハ」
「ヘン化」
笹の葉を額に乗せた波多良ノ神は濃い霧に包まれ雅な男性に姿を変えた
土下座をする景継
「やめんか!頭を上げられん、不敬だぞ波多良ノ神」
「それ誰なん?」
「当時の景継の君、天皇様のお姿じゃ」
「ふふふ、おもろ、なるほどね」
「便利な能力」
「敵勢力にいたら嫌な能力者だ」
「さすがは朋也殿、葦原の血は侮れませぬな」
「このヘン化の能力を使って敵陣地に深く忍びこんで・・
話は尽きる事がなく楽しい宴はあっという間に過ぎ、 奇妙な夜は更けていった。
その時の俺はまだ気付かない。
忌部景継の奥底で1,300年もの歳月を経てもなお消えぬ憎悪が、 燻り続けていることに




