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宇宙怪獣vsVtuber ~地球最後の日に貴方は何をしますか?~  作者: 桂かすが


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第52話 アシスタント作業

 あかりはその後、気もそぞろに配信を終了した。


「いいアシスタントが来てくれから、すぐに原稿を進める」


 そう言えばリスナーは両手を上げて配信の終了を歓迎した。あかりは言葉通りすぐに原稿を始めながら、モコスちゃんなら作画の手伝いもできるのではないか。そう思ったがそこまで手伝わせればもはや自分の作品ではなくなる気がして飲み込んだ。

 そらは用事があると、食事の作り置きだけして帰っていった。


「四……三時間待ってて。この家は好きにしてていいから」


 二〇ページのペン入れを主要キャラだけでいいなら、あかりは集中すれば五時間程度で終わらせられる。だけど今なら三時間もあればできそうな気がしていた。漫画を描く上で一番難しいのはストーリー、そしてネームだ。ネームが完成すれば次の段階は画力勝負となる。そして重要なのが作画アシスタント。以前はあかり一人に対して五人。それだけ作業量が多い部分だったが、分担できるだけに人海戦術で速度を上げることはできた。


「ここで待機しています」


 モコスは仕事振りが見たいと考えた。


「じゃあこの部屋のテレビ付けてていいよ。サブスクも大抵のがあるから、映画でもアニメでも見たいのがあれば」


「仕事中にいいのですか?」


「ネームは静かなほうがいいんだけど、作画は作業だから、音があったほうが集中が切れないんだよ。こうやって雑談しながらでもできるよ」


 そう言いながらもあかりは手を動かす。


「おすすめのアニメとかありますか?」


 その問いにあかりがいくつかの作品名を上げ、そのうちの一つをモコスは視聴し始めた。音量も普通に出して平気なようだった。たまにこのシーンが好きだとか、このキャラはどうだとか独り言のように話す。それで作業の手はほとんど止まらない。

 作画をしながら背景や効果、ベタ塗りの指定を原稿に書き込んでいく。


「背景の指定があるならもうこちらの作業を始めても良いのでは?」


「時間が無いときはそうするんだけど、背景の指定とかやり出すと作画の手が止まっちゃうから」


 スケジュールの逼迫具合によっては一話の半分だったり一ページずつのこともあるが、あかりは基本的に筆が早い。一話分を一気にやってアシスタンにも一気に作業を進めてもらうほうが時間も読みやすく、双方の時間効率がいいのだ。アシスタントも指定をしっかりして五人で分担を分ければ作業スピードが安定する。一通りの背景指示をアシスタントにするとあかりは次の仕事にかかる。あるいは休憩をする。


 モコスの実力は確認した。申し分ないどころか理解を拒む速度だったが、実際の仕事振りはやってみなければわからない。だからいつもの手順を守る。


 果たして三時間を前にあかりの作画は完了した。ネームの時点で書いたものと作画中に書いた指定を元にモコスに背景を指定していく。余裕があればあかりも背景を描くが今回はすべて任せることにした。


「作画量はさっきのイラストより薄くしていい。あまり背景が重くなるとストーリーを追う邪魔になるんだ」


 モコスは頷いた。あかりの作品はすべて精査していた。薄くという言葉の意味は完全に掴めなかったが、背景に適正な情報量があるというのは理解できた。


 いくつか指示が曖昧な部分があるのを質問をした。いくつかは詳細な回答をもらい、いくつかは任せると言われ、モコスは作業を開始した。


 早かった。それはもう早かった。迷いなく線が引かれていく。長い線も短い線も、複雑な線も細かい線も。効果、効果音も順番に入れられていく。


「レイヤーもちゃんとしてるね」


「失礼ですがこの部屋にある作業データを拝見させてもらいました」


「なるほど、それで」


 レイヤーの命名規則も配置、順序もあかりに馴染み深いものだった。


「早いのに完成度が高い。完成形が描く時にすでに見えている?」


「はい。頭の中にイメージを作ってペンを持つ段階では線をなぞるだけです」


 あかりにもわかる理屈だ。理解できない速さであるし、どこかで止まることもなく二〇ページ分続きそうなのが人間離れしているが、それがアンドロイドであるということなのだろう。見た目は相変わらず人間にしか見えないが、作業姿、その動きが人間とは思えない。


 速度を維持したまま、それがずっと続くのだ。人間ならどこかで息をつく。疲れる。手の動きもどこかで止まる。そういった兆候が見えない。


 手の動きだけ見るとまるでロボットが筆を取っているようにみえる。表情も変えない。視線もほとんど動かさない。瞬きはちゃんとしている。浅く呼吸している様子もある。人間離れした部分はあれど、やはりモコスは人間にしか見えなかった。


 後ろでモコスが背景を完成している様子を見ながら、途中、二度、三度。修正指示を出した。指定とモコスが描いたもののイメージが違うと感じたものがあったし、指定自体が間違いだったと今更ながら判断したものもあった。大きな違和感ではなかったし、そのまま完成原稿としても何の問題もない程度だっただろう。だけどモコスはすぐに応じて、変わらぬ速度で描き直した。


 気がつくと原稿は完成していた。アシスタントがフルメンバーだったとしても三倍、あるいは五倍の時間は軽くかかっていたはずだ。


「うん。いいね」


 そういうとあかりは次の話の製作に取り掛かった。




 元チーフアシスタント清水優希がやってきたのはその最中だった。勝手知ったる職場である。迷いなく作業部屋に入ってきた。モコスは一瞬警戒したが、優希のことはデータとして持っていたから警戒を解いた。


「先生!」


「あ、優希ちゃん。久しぶり~」


 さすがに作画の手を止め、間の抜けた声で挨拶する。


「もう大丈夫なんですか……?」


 優希はやはりあかりのことが心配で様子を見に来て、家に明かりが付いていたのでそのまま入ってきたのだ。


「見ての通りだよ。健康そうでしょ?」


 末期がん。確かにそう聞いていた。復帰の目処は立たない。覚悟が必要。優希はそう聞かされていたのだ。それが確かに健康そうに見えた。


「ほんとに?」


「ほんとほんと。優希ちゃんは連載のほうはどうなの?」


「難しいです」


 週刊連載の様子はあかりの下で長いこと見てきていた。優希は月刊連載だ。いける、そう思っていた。しかし現実は厳しい。

 連載開始前であるが、すでに先行して三話分を完成させている。編集にも確認してあとは雑誌に載せるだけ。ただその後の予定が徐々に遅れてきていた。月刊であるがその分週刊連載に比べてページ数は多い。週刊連載ほどではないが、毎月きっちり続けるのは大変な作業だ。

 ネーム、ペン入れ、背景。アシスタントは一人。実績のない新人にはなかなか有能なアシスタントが来ないし、何人も雇えるお金もない。原稿料は雑誌が出てから、単行本になって印税が発生するのは今から一年後くらいだろうか。

 お金があったとしても有能なアシスタントというのは簡単に雇えない。取り合いになるのだ。


 優希は丁寧な絵を描いた。だからアシスタントとして信頼された。だがその分手は遅く、それが欠点ともなっていた。連載用の原稿を描き始めて数ヶ月。疲労は溜まっていたが、休むという選択肢はデビュー前の新人には取れなかった。休むくらいならネームを考えるか原稿の完成度を上げたかった。


「優希ちゃんは疲れてるんじゃない? ちゃんと休みは取らないとダメだよ」


「はい……」


 すでにあかりは原稿に戻って顔も上げずに言っていた。その作業は見るからに快調だ。顔色もいい。治った、という言葉もようやく信じられた。


「お手伝いは?」


「だいじょうぶ。そこのモコスちゃんが手伝ってくれたの。優希ちゃんにも見せてあげて~」


 優希はようやく部屋に静かに佇むもう一人に注意を向けた。めっちゃ美少女だった。中学生くらい? ラフな服装だが雑誌のモデルでもやれそうな容貌だった。


「モコスさん?」


「モコス・イクシスです」


「ペンネームですか?」


「本名です。日本人ではありません」


 本当は人間ですらない。


「ははあ」


 容貌は日本人離れしていたが、黒髪黒目で、無表情に流暢な日本語を話していた。今ひとつ本気の発言かどうか優希にはよくわからなかった。


「これです」


 優希は画面で完成した原稿を見せられた。見慣れたあかり先生の原稿。新しい話。背景はどこか見覚えのある筆致だったが、自分はまったく関わっていない。完成度は自分が居た時と遜色ないくらいに高い。


「他のアシさんたちは?」


「私一人です」


「モコスちゃんはすごいんだよ~。全部一人でやってくれたんだ」


「アシスタントをするのは始めてでしたが、あかり先生にはご満足いただけたようです」


「モコスさんは漫画家かイラストレーターでしょうか?」


「Vtuberです」


「モコスちゃんは宇宙人のアンドロイドなんだよ」


 Vtuberの設定だと優希は常識的に考え、深くは考えなかった。


「じゃあアシスタントはもう大丈夫なんですか?」


「モコスちゃん本業がVtuberだから。当面は手伝ってくれるって言ってくれてるけど、その間にアシさんを探すんだ」


 モコスは絵を描くような人間に見えなかったが、この背景を描けるならアシスタントを任せられる。少しさみしく感じながらも優希は安心した。 


「優希ちゃんはこっちに来てていいの?」

 

「ネームでちょっと煮詰まってて」


 ああ、とあかりは頷く。


「四話目を考えているんですが、方向性が合ってるのかどうかって……」


 連載前だ。読者の反応がわからない。自信はあるにはあるから進めてもいいのだが、一話の掲載を待って読者の反応を見てからでもいいという意見も編集からあった。画力はあるだけに読者の反応はその分確実に見込める。だが優希は仕事のペースが遅い。せめてアシスタントが確保できればそれも有りかと思うのだが、できれば連載前に話の貯金は多く作っておきたかった。


 あかりの二話目はほどなく完成した。かかった時間はさらに短かった。筆が乗っていた。背景を任せられるという安心感もあった。

 手早く背景の指定をしていく。曖昧な指示だとモコスが指摘したのは一箇所だけになっていた。任せられる部分は任せて、それでダメなら描いた後での修正も早い。一回の仕事でもう呼吸が合い始めていた。


 そのモコスの作業を優希は呆然と見ていた。自分がやっていた仕事だけにその異常さがよく分かった。人間離れしている。作業の邪魔をしてはいけないと思いつつ、つい口に出ていた。


「アンドロイドなんですか?」


「アンドロイドです」


 優希はさすがに本当にアンドロイドだとは思わなかったが頷ける部分があった。


「今日だけで三話はいけそうだね!」


 モコスはあかりの体調を確認した。ナノマシンの治療によって活性化した肉体はまだまだ余力があることを定期モニターしているあかりの体内のナノマシンのデータが示していた。危険なら警告が入る。


「続きの作業は明日にしましょう。あかり先生には十分な睡眠時間が必要です」


「そらちゃんみたいなこと言う」


 それでもその日はもう終電もない時間だったし、仕事を終えることにした。あかりはこのまま泊まっていけと言うが、モコスは交通機関を使わないし、優希はあかりのアシスタントに便利なように近所に部屋を借りていた。


 帰り際、優希がモコスにお願いがあると話しかけた。

 

「もしお時間があればうちのアシスタントにも来ていただけませんか? お金はそんなに出せないんですが……」


 モコスほどのアシスタントだ。相場の一〇倍を出しても安い。ずっとは雇えない。だけど一日でいいのなら、それだけの金額でも出すことができる。月に一日か二日。報酬は相場の一〇倍を出す。


「報酬は相場で構いません。その代わり条件があります」


 実際に作品を見てモコスはそう申し出た。優希はあかりのアシスタント、いわば弟子だ。絵柄の傾向、質はあかりの作品と似通っていた。それならモコスにも手伝いが可能だし、話もモコスから見て面白そうだ。丁寧に描かれていて職人気質も感じた。


 そうしてあかりと同じ、日本国外・・・・の配信権利の説明をする。


「ボクも同じ条件だし、編集部に話を通す時に一緒にやってあげるよ? 新人だと契約変えたいとか言いづらいよね」


 あかりの言葉に優希は一も二もなく頷いた。自分がどんな巨大な計画に組み込まれたかも一ミリも知らぬまま。


 二作品目。この手法はモコスの時間を削るのであまり使えないが、それでも使える手札が増えた。やはりオフコラボだ。モコスはそう思った。

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― 新着の感想 ―
>自分がどんな巨大な計画に組み込まれたかも一ミリも知らぬまま。 なんの説明も無いままに・・・不憫なw
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