第42話 次のコラボは?
当然であるが次のコラボはすぐとはならなかった。相手にも予定があるしオフコラボも普通はいきなりやるものでもない。モコスの一番希望する、Vtuberでかつ、イラストレーターや漫画家になるとそれほど数が多くもなく、両方の活動をやっているとなれば多忙と相場は決まっているし、そもそもモコスには伝手もないのである。しかもオフコラボ可でできれば女性がいい。地球人の男性ではモコスのことを性的な目で見るかもしれないし、リスナーも女性Vtuberが男性と絡むのを好まないのだ。
「というわけで銀河そらさん、知り合いに居ませんか?」
「なるほどぉ。オフコラボがいいんですよね?」
一日遅れで関東に戻った銀河そらがモコスに南原宇宙技研での顛末を報告したところ、モコスからそんな相談が持ちかけられたのだ。
「居ないこともないのですが……モコス様、宇宙って医療技術とかどんな感じなんでしょうか? 怪我とか病気とか簡単に治ったりする感じなんでしょうか?」
「よっぽど特殊とか新発見の病気じゃない限り、治らないということはありません」
「地球人の病気はどうなんでしょう? たとえばガンとか」
「連絡挺のは簡易医療設備ですし試してみないことにはわかりませんが、汎用ですから地球人の病気でも大抵のものには対応できるはずです」
地球人の体組成はルジアン人を倒した時にデータ取得済みである。個体差はあるだろうが、銀河連盟の技術で対応できないということはまずないだろう。
「ほうほう。実は私の幼馴染がですね。漫画家でVtuberも少しやっていたのですが、敗北から始まる最強冒険譚という作品はご存知ですか?」
「原作は未履修ですがアニメ一期は見ました。二期ももうすぐ始まるみたいですね」
銀河そらには一つの目的があった。もちろん初期リスナーでもある銀河そらは地球防衛計画への参加も大きな目的であるが、あるときふと思いついたのだ。宇宙人の技術ならガンくらい治せるのではと。
「ぶっちゃけると彼女はガンのステージ4でかなり危ない状況です」
そこで銀河そらは黙り込んだ。果たしてこんなことをモコス様に頼めるのか。そして実際に治療が可能なのか。
「話はわかりました。私に治せるかということですね」
「ええはい。もし命を救われたとなれば彼女も大変感謝すると思うんです! コラボでもなんでも好き放題ですよ!」
病気治療により連載を中断。入院中。名前は観奈月あかり。入院している病院は……
銀河そらに聞いた病院のデータベースに侵入する。
病状は地球人の一般的なガンだ。汎用の治療ナノボットを地球人用に調整してやれば問題はないはずだ。試したことはもちろんないが、安心安全の銀河連盟製である。連絡艇に連れてくるわけにはいかないから、現地で投与することになる。
良心回路は作動しないはずだ。ナノマシンはもう使ったし、地球人に接触したり、肉体を走査する程度では良心回路は動かないことがもうわかっている。
「緩和ケア病棟ということはかなり末期なんですね?」
「え? そんなはずは……まだ半年は余裕があって、最新の治療が上手くいけば治るかもしれないって……」
データベースにあったのは前日のデータであるが、一般的な地球人と比較して、現時点でバイタルが大幅に低下しているようだ。
「あまり地球人の体調には詳しくはないのですが、すでにかなり危険な状況な気がします」
銀河そらに心配をかけまいと嘘を付いていた。そういうことなのだろう。実際に医者の所見には残り時間が少ないことが示唆されていた。死亡すればそうデータにかかれているだろうから、まだ生きてはいるはずだ。
銀河そらは貴重な協力者だ。友達が死んだとなればしばらく活動に支障がでるかもしれない。
「急ぎましょう」
連絡艇に指示。汎用治療ナノボットを作成。用意できる一番強力なやつがいい。
「いいんですか?」
「アニメは面白かったですし、原作者が亡くなっては二期が放映されないかもしれませんし」
「ど、どうかお願いします! あかりちゃんを助けてやってください!」
◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇
観奈月あかりは病院の個室でたった一人、静かな最期を迎えようとしていた。
頭はぼんやりとしているが、薬がよく効いて今日は不思議なほど体が苦しくない。だがお医者様は今夜がヤマだろうと言っていた。
友人の元気な配信姿を最後に見れた。連絡は取らなかった。あの子は優しいから私の死に目に会わせるの酷だろう。家族は居ない。居るのは私を捨てたろくでなしの父親と金にがめつい親戚だけだ。私が死ねば、遺産は児童養護施設に寄付することになっている。出版社に紹介してもらった弁護士と病院で、死後のことはすべて手配されるはずだ。
「?」
額に冷たい……手?
「誰?」
薄っすらと目を開くと、間接照明に照らされた天使が居た。羽根こそなかったが、キラキラと光る真っ白な髪をした美しい天使様。ああ、私は死ぬのだ。お迎えがこんな美少女なのは生前がんばったご褒美だろうか。漫画が未完なのだけは読者には悪いが、夢だった漫画家になってアニメも人気になった、そんなに悪くない人生だった。
「もっと生きたいですか?」
天使様は私の顔を覗き込んでそう尋ねる。天使様は声も可愛らしい。もっと生きたいか? それはそうだ。生きて、そして……
「ま、漫画の続きが描きたい」
そう言ったつもりでももう声も出なかったが、天使様はそう、と頷いた。
「漫画の続き、楽しみしてる」
天使様はそう言うと、眼の前からふっと消えてしまった。ああ、行ってしまった。天使様、かわいかったな。でも最後にいいものが見れた。
漫画の続きはあの世で描けということだろうか。私は天国に行けるのだろうか。
だんだんと体が軽く、楽になっていく。これが死ぬということなのだろうか。死ぬのも案外楽なものなんだな。
不意に尿意を感じた。死ぬ前に漏らすのも、最後に感じるのがおしっこがしたいでは締まらない。そう思い、どうにかトイレに行こうと上半身を起こす。体がずいぶんと楽に起きた。そろそろとベッドから降りて、立ち上がる。不思議なほど体の不調を感じなくなっていた。そのままぼんやりと個室内にあるトイレに向かい、尿意を処理した。
手を洗い、鏡を見る。そこにはツヤツヤとした眠そうな自分の顔があった。違和感を感じて首を傾げる。
トイレを出て、ベッドサイドの水差しから水を飲む。水が美味しい。ぐぅ、とお腹がなった。備え付けの冷蔵庫にゼリーがあったはずだ。
最後の食事かもとゆっくりと味わって食べたゼリーは泣きそうになるほど美味しかった。そしてまだ食べ足りないとお腹が鳴っていた。
「おかしい」
そうはっきりとした声を出した。なんだか声まで元気な気がする。立ち上がる。死ぬ前のろうそくの輝きみたいなものか? それともここは緩和ケア病棟の個室のままだったが、私はもう死んだのだろうか。実はここはあの世か? そんなことを考えながら、食堂に行けば何か食べるものがあるだろうかと、ふわふわとした気分で病室を出ていった。




